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第一章 イノベーションによって発展する資本主義経済社会

資本主義経済社会の動態

カール・マルクス

カール・マルクスが『資本論』で明らかにしたように、「資本主義経済の動態」は、「G(金)―W(商品)-G(金)-W(商品)―――」という図式のような「ダイナミックに展開する商品生産・消費社会」である。つまり金を資本として動かし、市場で買い求められるような「新しい商品」を開発し、それを国民が買い求めて、消費するという経済循環である。つまりこの「G-W-Gサイクル」を常に展開し、新しい商品を開発し続けなければならない。これが資本主義経済社会の宿命である。

アダム・スミス

アダム・スミスは、国民が利己的に利益を求めて活動すると立派な資本主義経済社会が生まれると『国富論』で述べている。生産工程のなかで仕事をWork Factorで分割し、作業者が分業で加工すると生産性は飛躍的に向上し、コストもドラスティックに下がることを指摘した。アダム・スミスは経済活動には国家の介入は不要だとした。むしろ多くの企業が商品開発・生産を自由に、弱肉強食的に競い合うことが必要だとした。商品には「生活必需品」と「便益品」がある。経済社会が進めば進むほど「便益品」の比率が高くなる。「便益品」には、市場の中で成長期、成熟期、衰退期という「S字カーブ」をたどる宿命がある。だからどんどん新しい商品を開発し続けなければならない。しかしスミスは、経済社会がうまく発展するには、国民の倫理、道徳心が必要だとも言った。

デイビッド・リカード

デイビッド・リカードは、彼の理論;「比較生産優位論」で、それぞれの国が伝統・文化を基にしたユニークな商品を開発し、国際分業で、自分の優れた商品を輸出し、他国の特徴ある商品を輸入して、国民経済は発展を遂げるとした。

ジョセフ・シュンペーター

そしてジョセフ・シュンペーターは「資本主義経済社会におけるイノベーションの必要性」を説いた。シュンペーターは、イノベーションを興すには資金がいるので、まず最初に、国家が「信用創造」を行うことが必要だと言った。つまり金を「融資」ではなく、「資本」として使って「イノベーション」を興す。イノベーションとは、資本主義経済活動の神髄として、単なる発明や発見ではなく、「いろいろの要素を新結合して新商品を創る」ことであるとシュンペーターは言った。イノベーションによる新商品をコンスタントに開発し続けなければならない。このイノベーションができなくなると資本主義経済は衰退する。資本主義経済社会が衰退すると「社会主義経済社会」になると警告していた。イノベーションの担い手であるテクノクラートが、イノベーションを日常茶飯の仕事と思うようになると、イノベーションは衰退する。そして経済が独占化、寡占化し、グローバル化するとイノベーションは消えてなくなるとも言った。

ジョン・M・ケインズ

ジョン・M・ケインズは、フランク・ナイトの「不確実性の論理」を借りて、経済が大不況に陥った時の経済政策を考えた。資本主義経済社会は「不確実性」により過激な競争が起こり過剰生産になり、大恐慌となる。株価は大暴落し、経済の長い停滞が続く。大衆は破産して、自殺するものがでる。このような全く先の見通しが立たない時には、人々は目先のことだけを考え、産業にイノベーションは起らない。

そこで政府が赤字国債を発行して、財政投資をして需要を拡大する必要がある。「労働者に穴を掘らせて、また埋めもどさせる。その労働に対して賃金を払う。労働者はその金で商品を買って、消費する。こうして経済を活性化する」とケインズは言った。経済が活性化したところで、政府が財政投融資で産業に資金を投下して、国民に職業訓練をし、新技術・新商品を開発させる。これが「ケインズ経済政策」である。

1929年の大恐慌のあとケインズはアメリカ政府に進言し、「ケインズ経済政策」を実施させた。ケインズの考えを基にして、ルーズベルト大統領が「ニューディール政策」として、TVAによりいくつかのダム建設をした。しかしこのダム建設によるアメリカ経済の回復はすぐには起こらなかった。経済効果を即座に見たいと思った人は「ケインズ政策は誤りだ」と言ったが、そうではない。即座に経済効果を得たいのなら、ある仕事がいろいろの分野に関連し、波及するような乗数効果の高いプロジェクトを取り上げなければならないということである。官僚が頭を絞り乗数効果の高いプロジェクトを企画させることである。

国家介入による公的財政出動による経済発展

つまり、ケインズとシュンペーターの教えである国家介入による公的財政出動による経済発展とは、テクノロジーとイノベーションが経済成長を推し進め、「収穫逓増のモデル」が生まれることを意味していた。
1980年以降、日本の財務省は、アメリカに言われて、赤字国債の発行には否定的に行動してきた。財務省は国の財政赤字(借金)が大きくなると国は破綻すると言ってきた。しかし結果的には日本はGDPに対する財政赤字の比率は世界の中で一番高く、GDPの2.5倍の財政赤字になっているが、日本は財政赤字問題では破綻しない。

シュンペーターが指摘したように、国には通貨発行権があり、「信用創造」をする力があるからである。だがケインズの指摘したように、日本は国の金を無駄に使っているようだ。つまり日本政府は乗数効果の高いプロジェクトに金を投入していないのである。利権業者に補助金を出したり、ばら撒き政策をすると経済力を弱体化する。

先端技術のイノベーションの推進における政府の役割

つまり、資本主義経済社会はイノベーションを通じてでしか発展しないものであるということである。先端技術の開発は大変不確実性の高いもので、民間ではなかなか難しい。先端技術のイノベーションの推進において政府の役割が重要になるのである。

しかしこの35年間、世界的にイノベーションが停滞している。その証拠は「実質的なGDP」が伸びていないことだ。赤字国債を発行して財政投資をしているが、実質的なGDPは伸びていない。これはイノベーションが衰えたことを意味している。特に先進国G7の実質GDPが衰退している。これは先進国が1980年以降、こぞってグローバル化に走ったからである。グローバル化は、労働者の賃金を下落させ、所得格差・資産格差を拡大し、商品はコモディティ化し、安物商品しか作らなくなり、その結果イノベーションを忘れることになる。「収穫逓減」の悪循環である。

世界経済の発展を牽引してきた自動車産業も衰退してきた。一時一世を風靡してきたアメリカのアップル社のiPhoneも今や商品としての成熟期から「衰退期」に入ってきた。発売から16年が経過したiPhoneの販売が伸び悩む中、2024年3月下旬、アップル社はスマートフォン市場を不当に独占しているとして、米司法省に反トラスト法違反で訴えられた。そのあとすぐ欧州委員会も巨大IT企業を規制する「デジタル市場法」(DMA)に基づき、アップル社などのIT企業を調査し始めた。ソニーや中国のシャオミまでもがEV(電気自動車)に参入してきたが、アップル社は長年取り組んできたEV開発を断念してしまった。アップル社は、パソコン、アイポッド、タブレット端末、スマートフォンなどの新市場を開拓してきた持ち前のイノベーション力をなくしてしまったようだ。

アップル社の例

アップル社のスティーブ・ジョブズは生前「アップルがあるのはアーティストのおかげだ」と言っていたが、今では「アップル社のビジネスは、アーティスト、クリエーターから搾取するビジネスモデルになった」とアメリカの政府関係者は言う。不当な扱いを受けていると感じながらも、アップル社の配信サービスから締め出されることを恐れて声を上げられないクリエーターが多いという。アメリカ司法省はアップル社が他の革新的なアプリを殺し、ゲームなどのクラウドサービスを抑制していると批判している。

欧州連合(EU)当局によるアメリカのIT大手企業への規制が新たな局面に入った。2024年3月初旬、EU当局は、「デジタル市場法」の本格運用を開始し、その2週間後の3月25日にアメリカのアップル社とグーグル社の親会社アルファベット社、アメリカ・メタ社に対し同法違反の疑いで正式な調査に入った。DMAは、自社サービスを優遇したり、有効な同意を得ずにターゲット広告のために個人データを収集したりすることを禁じている。

2024年4月14日  三輪晴治