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壊れたNikon F3を復活させる。

新品みたくキレイで叩き売りされたNikon F3を見つけた。叩き売りの理由はジャンク品で動作確認不能だった。

外装:傷や打痕や塗装ハゲ無し、革浮きあり
ファインダー:カビあり
電子回路:電池蓋固着、動作確認不可

電池蓋が固着している場合は電極の腐食で内部がまとめて壊れている可能性も高い…となると修復は不可能だ。
Nikon F3は電子制御式シャッター・絞り優先AE。機械式じゃないから電気が無いと駆動しない。機械式シャッターは緊急用の1/60SSシャッターのみ。

だから電子制御で動かなかったら緊急シャッターのみで使うことになる…笑

今回は僕のお気に入りの道具を交えて修理過程を紹介します。

壊れて何も確認できないNikon F3

外装だけはめちゃくちゃ綺麗。しかも安いのだ。
可能性は低いけど治せれたら使えるか…?壊れたら観察スケッチ用にバラバラに解体してもいいし、ジウジアーロ(このカメラのデザイナー)の製品として飾ろう。

カメラの修理は僕の知識と強運でなんとかなるだろう。楽観主義発動。

治せると信じて買った。

やっぱりキレイ。(物撮りがテキトー…マクロレンズほしい)
前の所有者はコレクションとして所有していたのか、傷も塗装ハゲも全く無い。

うん。やっぱり良いの買った。このカメラを完全に修理してやろう。

電池蓋の固着

このカメラで一番重要なのは電池蓋だ。確かに電池蓋はしっかりと固着してびくともしない。完全に固まっていた。

なんとかして電池蓋を開けなくてはならない。
前述のとおり、Nikon F3は電子制御式シャッター・絞り優先AE。機械式じゃないから電気が無いと駆動しない。

動作したとしても他が壊れているかもしれない。ともかく電池を入れて動作確認をしなくては、本当に使えるのかがわからない。

固着したネジや蓋を外す色んな方法
・潤滑油を浸透させる
・加工して工具が入るようにする。
・熱したり、冷凍したりする
・叩く

ざっとこんな感じ。

カメラにダメージをなるべく与えないようにとなると、まずは潤滑油を浸透させてみる。

一家に一本あるであろうKURE556。サビも取れるし、ちょっとした潤滑油や防錆油として大活躍する。サラサラで他の油を洗い流しちゃうからちょっと注意。個人的にはフッ素入りが長持ちしてオススメ。しっかり乾いてほしければフッ素無しを選ぼう。

直接吹き付けると飛び散るので綿棒につけてチョチョと隙間に染み込ませていく。

この状態で1時間浸透させた。

ちなみにこのようなコインネジや蓋は絶対に5円か10円で開けたほうがいい。
特に10円硬貨は大きくて使いやすいし、銅は柔らかくて負けてくれるのでネジを舐めにくい。
でも10円を曲げて変形させてしまったら重罪なので気をつけなくてはいけない。

一応専用の工具もある。
力が入りやすいし、横穴にプラスドライバーを入れて更に力を書けることもできる。

気合を入れて「グッ」と回すもぜんっっっぜんっ回らない。

固着しすぎ。10円が曲がるんじゃないかって程力を入れるけど指が痛すぎて無理。10円もネジも強すぎ。

他の手段は残り3つ…
・加工して工具が入るようにする。
・熱したり、冷凍したりする
・叩く

どれもカメラを傷つけそう。なんとかならんか…


そこに神のお告げ

10円硬貨に傷がつかないようにティッシュで挟み、ロックプライヤーでその10円硬貨を挟み、ネジの溝に押し付けてグリッっと力をかけて回すのです。

もし、10円硬貨が曲がったら貨幣損傷等取締法違反で僕は刑務所。
F3の修理中に犯罪を犯して捕まるかなんて、購入時にはそんな覚悟は無かった。考えてなかった。

不覚。
F3の修理には覚悟が必要だった。失敗したらそれまでだ。

後悔を押し殺し、ロックプライヤーに力を入れる。
すると、蓋がバリバリっと音を立ててネジが緩んだ。

556が浸透していたのか、力はかけていたけど案外あさっり回った。

盛大に液漏れしていました。電解液が外部に漏れて結晶化してネジの隙間にこびりついたために固着していました。

結晶化した汚れは爪楊枝とか歯ブラシで掃除しました。
ネジ山部分は556を塗って蓋を開け締めして綿棒で拭き取ります。

ボタン電池を入れて動作を確認してみると、シャッターが切れた。タイマーも動いた。ファインダー内の液晶もはっきり見える。
どうやら内部の基盤は腐食していないみたい。普通に使える。やったー!買ってよかった!

蓋の固着を二度と起こさないためにはボタン電池はメジャーな電池を選ぶべし。
ノーブランド品は液漏れしやすい。
あとLR44よりSR44が良い。もっと液漏れしにくいし、消耗しても電圧が一定だから露出も安定する、
カメラとか精度を求めるならSR44一択だ。

この電池がオススメ。液漏れを起こす前に電池を変えよう。

ファインダーの分解と清掃とカビ取り

使えることがわかれば、安心してリペア作業にかかることができます。
まずはファインダーを掃除する。想像以上にカビが繁殖してた。

F3はファインダーが分離できて、まるごと交換が可能。当時はたくさんのファインダーがラインナップされていた。
今回F3についていたファインダーは「ハイアイポイントファインダーDE-3」眼鏡でも使いやすいタイプだそうだ。一番市場に出回っているファインダーらしい。

上記写真の様にファインダーのホコリ防止ゴムを慎重に外してネジを外す。
プリズムやファインダーガラスのカビを取り除いた。

上記のクリーナーがオススメ。
レンズクリーニングティッシュは個包装ですぐ使えるのが良い。カビ取り以外にも普通にカメラの掃除に使えるので持っておくと便利。
下の写真のファインダーもモヤみたいになっている箇所がカビです。

このファインダーのシャッターって使う?でもギミックは最高にかっこいい。
用途を調べてみたら、ファインダー側から入光して露出を狂わせない為についているらしい。

ちなみにファインダーの分解と清掃は難しく、他の箇所を壊しかねないのであまりオススメはしない。
ゴムも崩壊しやすいし、接着剤を剥がしたり付けたりする必要があった。
パーツの供給も無いので、もし行うなら慎重に作業してください。


ちなみにドライバーはこちらがお気に入り。
スマホでお馴染みのXiaomiのドライバー。
中国で買えるんだけど、日本だと通販じゃないと入手し辛い。価格も中国とそんなに変わらない。

必要最低限のビットがついていて、磁石でスパッとセットされる。
それにデザインが素晴らしく良く、工具の精度も良い。

手元が見えなくてデスクライトを導入

そして物撮りやデスクでの作業効率アップの為にデスクライトを買った。
なぜ今まで買わなかったのか…めっちゃ使いやすくなったわ…
小学校の頃からデスクライトは嫌いだったけどこれは良い。もっと早く気付け自分。

現行のZライトは形が気に入らなくて、ビンテージのZライトを入手。超かっこいい。電球は物撮りのことも考えて高演色LEDを買った。
これ以降の物撮りは割とキレイに撮れてます笑。
あとはマクロレンズをポチるだけ。


外装の革の剥がれの修理

ファインダー上面の革が剥がれてピロピロして気になってしょうがなかった。

右下がちょっと剥がれてる。

隙間にボンドを塗って貼り付けるも、他の部分から剥がれたりした。
劣化して剥がれる一方なのでいっそベリッと剥がした。

接着剤かな?上から接着剤を塗る勇気が無くて両面テープで貼り付けた。
でも次の日すぐに剥がれてしまった。

もう仕方ないので接着剤で貼り付けることにした。

このボンドがオススメ。どこでも手に入るし使いやすい。
ゴム系の接着剤は失敗しても半乾きなら擦れば取り除くことも可能だし、上手に使えば強力に接着できる。それに透明なので目立たない。
同じ種類のG17というボンドは黄色いので注意。

貼り付け方法
1)革に薄く塗る。はみ出さないように隅々まで。
2)ファインダー上部に塗る。多少はみ出してもOK。
3)1分ぐらい乾かす。
4)慎重に位置決めをして圧着させる。ペンのキャップのつるつるした所で傷つかない力でグリグリ押すとやりやすい。
5)はみ出した所を爪楊枝や指の腹でコロコロ擦って取り除く。

上記みたいにはみ出した接着剤は簡単に取り除ける。
ピンセットもあると細かい接着剤も取り除けてオススメです。

革は解決。
貼り付けて一週間以上経過したけど元気に張り付いています。

モルト交換

革を張り替えたあと、フィルムを入れて試し撮りをしに行きました。
フィルム一本を取り終えて中を見てみるとモルトがボロボロと…
内部はモルトだらけになっていました。

完全にポリウレタンスポンジの加水分解の症状です…
モルトはこうなってることが多いから確認をちゃんとしておけばよかった…

まずミラーが当たる部分のモルト交換をします。

内部に落ちない用にサランラップを入れ、掃除機で吸いながらモルトをピンセットやマイナスドライバーを使って取り除きました。

なるべく内部にゴミを入れないように気をつけましょう。

モルトはフェルトを使いました。
結果的にはあまりオススメできない仕上がりでした。

寸法を測って貼り付ける。
でもフェルトって短く切っちゃったら繊維がボロボロになってあんまり良くなかったです。

今後の加水分解は心配かもしれませんが防湿庫に入れておけばすぐに加水分解するわけでもないので、モルトはちゃんとしたものを買ったほうが良いです。

1.5mmが丁度いいと思う。

パトローネ室のモルトも交換します。
こちらは毛糸を使ってみました。しかし、これもオススメしない。絶対にモルト買ったほうが良い。繊維がピロピロと気になる…

毛糸は薄めた木工ボンドで毛並みをまとめ、Gクリアーを使って毛糸を隙間に貼り付けました。

この今回、せっかくモルトをつけましたが近い内に普通のモルトに張り替えようかと思います。


Nikon F3が復活しました。

これでついに復活です!
(シャッタースピードが出てるか心配だけど…笑)

仕上げにF3を撮ってみました。
今まで物撮りを意識してこなかった僕のレベルはこんなもん。
キーボードを隠してない時点でお察しください笑

赤ラインがかっこいい。
角ばったデザインがたまらない。
修理もして愛着が湧いたし、ダイムで名前シールを貼った。

ファイダーも見違えるほどキレイになった。

早速試し撮りを一本してきたけど、想像以上に使いやすいカメラでした。
フィルム巻き上げも「スッーカチッ!」っと巻き上げる感覚がたまらない。
それ以外の使用感もFM10とは大違いです。当時プロが使った超有名カメラなだけあります。

それにデザインも素晴らしい。
デロリアンなどをデザインしたジョルジェット・ジウジアーロです。
使って楽しい。持って嬉しい。フィルムカメラを語る上で歴史的なカメラだと感じました。

自分でカメラを修理することについて

生産終了したカメラを修理することは、失敗したら個体を減らしかねません。
もし本当に使いたいカメラだったり、本調子のカメラを使いたい場合は個人の素人修理はオススメしません。それにNikonF3は人気機種。他の方も分解している記事が数件見つかり参考になり安心して分解できました。

このように自分で修理すると機械の構造を理解できて、ふとした時に何が原因で壊れるか、弱い箇所はどこか、自分の経験となるかと思います。
僕の場合はプロダクトデザインの仕事もしているので尚更勉強になりました。
今回は観察スケッチをしませんでしたけど、細部までどのような設計をしているか見て分解しました。


にしても修理中の写真を見返すと適当すぎた…
X100Fはマクロもできるけど、めっちゃフワッフワッになっちゃうのでしっかりと絞らないといけませんね。


デスクライトもせっかく買ったし…そうだマクロレンズをポチろう。


読んでいただけるだけでも大変嬉しいです。もしご支援を頂いた場合は新たなチャレンジへ使わせて頂きます。