非常時の戦略転換は割とシンプル

緊急事態宣言時にも新たな挑戦をして顧客を喜ばす宮城の一次産業事業者に話を聞いた。非常時は新規顧客開拓はさておき、とにかく既存の顧客に喜んでもらうことが第一。ところが新たな挑戦で潜在的な顧客に火が付いたパターンもある。
話を聞いて思うのは、やはり成功しているところは選択と集中がしっかりしている。どこなら勝負できるか選択して、勝てるところに経営資源を集中投下。
今回は、宮城県の一次産業編。
宮城のこせがれネットワーク初代代表で、竹鶏ファーム常務取締役の志村(弟)君と、フィッシャーマン・ジャパン事務局長でヤフーの長谷川さんに話を聞いた。

ピンチをチャンスに変えて、DtoCの卵配達事業「出前卵」

竹鶏ファームには農場にもお邪魔したことがある。それは衝撃的な出来事だった。竹鶏ファームの農場は、みやじ豚の農場よりも臭いがない。養鶏場の近くを通ったことがあればわかると思うが、養鶏場というのは一般的に臭いがきついのだ。ところが、竹鶏ファームは大げさでなく嫌な臭いが一切しない。今でも、「あれは夢だったのでは」と思うくらいだ。

そんな竹鶏ファームでは、直営店舗、飲食店への卸、様々な商品開発、オンラインショップと一通り6次産業化には取り組んでいる。ウェブサイトをご覧頂ければわかるとおり、デザインも温かみがあってかわいい。

直営店舗が強いのかと思いきや、実は飲食店への卸が多かった。
販路の偏りを無くすため、もう少し販売チャネルを増やしていこうと考えていた矢先に新型コロナウイルスの緊急事態宣言。例えば、某パンケーキ屋の卵は竹鶏ファームのものだったが、こちらも供給はストップ。

この危機を乗り越えるために、社内でいくつものアイディアを考えた。
そして「これしかない」とたどり着いた新規事業が「出前卵」だった。
その名の通り、卵の宅配サービス。
商品は30個1000円一本勝負。
地元ローカル番組のニュースでも取りあげられて、順調に顧客を増やしている。1日100軒の顧客に対して複数人が宅配にまわる。

新規で個人客への宅配事業を行おうとすれば大変だ。
だが竹鶏ファームとすれば配達先が飲食店から個人宅に変わっただけ。
配達のスタッフもいるし、車もある。

そして、宮城のこせがれネットワークでの熱心な地域活動もあって地元でも知られた存在だった。DtoCには力を入れてこなかったが、実は竹鶏ファームの卵のファンは多かった。卵というのはどの家庭でもだいたい常備してある。僕も毎朝卵を食べている。
あまり出歩きたくないという心理もあって出前卵は順調な出だしとなった

課題は客単価。1000円では正直厳しいという。今後はサービスの質を高めていくことが大事だと考えている。通常の卵の他にも商品はあるので、そういった商品をのせていくことも当然検討中だし、地域の生産者と連携を図って卵以外のものを販売していくことも視野に入れているはずだ。

非常事態の時こそ、本当の強みに気付ける〜フィッシャーマンジャパンの新事業〜

フィッシャーマン・ジャパンも有名な団体だ。宮城県石巻市の、漁師・魚屋・料理人・水産加工会社など水産業ネットワークは今年7年目を迎える。

「宮城のこせがれネットワークに参加した時、若い農家がマーケティングなどの横文字を使って様々な人と話をしていたことに衝撃を受けた。漁業でもこうした繋がりが必要だと考えた。」
と、代表の阿部勝太氏にも農家のこせがれネットワークで開催した「農家サミット」で話をして頂いたが、フィッシャーマン・ジャパンの着想になったのが、実は宮城のこせがれネットワークだったことは今では伝説だ。

水産業に関わる人「フィッシャーマン」を増やしたいという想いから立ち上がったフィッシャーマン・ジャパンは、漁師及び水産業の革新的な取り組みとして様々なメディアに取りあげられ続けてきた。

漁師や水産加工業、料理人と様々なステークホルダーがいるからこそ、一気通貫でできることがある。様々なプロジェクトに取り組んできたが、それぞれが一国一城の主であるため、バランスのとれたビジネスモデルを構築することは、目の前の仕事が忙しい中、なかなか実現できずにいた。

このタイミングだからできたのが、
「オンラインお魚さばき教室つき鮮魚ボックス」だった。
https://store.shopping.yahoo.co.jp/fishermanjapan/fj-019-2.html

中野にある直営店の「魚谷屋」は、緊急事態宣言が出る前の3月中には休業を決断した。都内の高級店に出荷していた魚にも注文は入らない。
魚はこれまで力を入れてこなかったオンラインショップで販売することに。ただ、販売するのではおもしろくない。店頭ではストーリーテラーとして石巻でとれる魚の魅力を顧客に伝えていた店長が、魚のさばき方をオンラインで教える講座とセットで販売しようと生まれたのが、「オンラインお魚さばき教室つき鮮魚ボックス」。

日を決めて店長がオンラインで魚のさばき方を教えてくれる。冷蔵庫でどう保存すればいいのか。魚は切り身だけを考えると割高と考える人もいる。
ところが、頭や骨まで考えると様々な料理に活用できてコスパがいい。

魚を売ることだけが事業ではない

フィッシャーマン・ジャパンは様々なプロジェクトに取り組んできた。
そのひとつとして周辺の水産事業者に学生インターンを送り込む事業だ。
どこもそうだが、小さな家業の大きな課題は、スタッフのキャリアをどう設計するかにある。

石巻市には120社もの水産加工業者が存在する。
最先端の設備を有しており、大手企業の商品加工を担っている。
ところが、今回のことで大量の在庫を抱えることになってしまった。
しかも高品質とされるものが。
これをどうするべきかというときに、これまでフィッシャーマン・ジャパン
を中心に「水産特化型インターン」として受け入れてきた学生インターン生のOBが立ち上がった。

「加工屋さんのおさかなアウトレット」
https://shopping.geocities.jp/fishermanjapan/osakana_outlet/

様々な挑戦をしてきたからこそ、様々なネットワークができているし、その中から困ったときに助けてくれる人が現れる。

設立当初は、大人のプレイヤーに煙たがられた。
だけど、自分たちだけが稼げることを考えるのではなく、プレイヤーを増やす取り組みを推進するなど、地域で共有できるビジョンを掲げて活動することで、少しずつ信頼を得ていく。業界全体をよくする活動だから多くのメディアが取りあげてくれる。すると最初は良く思っていなかった人たちも認めざるを得なくなる。だから、特にローカルメディアとのつながりを深くしておくことが重要だと語ってくれた。

「withコロナの経営戦略とは」を考えすぎて「オンラインにシフトしなければ!」とやりがちだが、まずはこれまで蓄積してきた経営資源を棚卸しをするべき。そして、どの分野に力を注ぐことが自社にとって自然かを考えると案外答えはシンプルだったりする。「名人に名手なし」で、大変なときこそやるべきことをしっかりやることが大事だとこの期間に改めてだが痛感した。

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