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遠い記憶 十一話

誰に、言われた訳じゃ無いが、
子供の私が見ても、母の様子が、兄と弟と私に、
対する、接し方が違う様に思えた。

ある日の事、
何時もの様に、風呂に蒔きを入れてた時である。
傍にいた、母に、お母さん、あんちゃんは、本当のあんちゃん?
と、聞いてしまった。
子供の事である。
何の、意図があった訳では無い。
しかし、
それを、聞いた母は、側にあった、蒔きを振りかざして、
あんちゃんは、あんちゃんやがね~!と、凄い形相。
私は、ハッとし、思わず地べたにはいつくばって、
ごめんなさい、ごめんなさいと、ひたすら、謝った。
あの時の、母の様子は、尋常では無かった。
子供の私にも、大人の都合に触れてしまった事は、直ぐに判った。

それから、私が小学校3年生の、終わりの春だった。
小さな、村の駅に沢山の人達。
その中に私も居た。
母は、何時も、明るく気丈な人だったが、
その日だけは、違っていた。
肩を落とし、目をハンカチで、抑えて顔から、離さない。
こんな、田舎には、仕事は無い。
昔は、金の卵と言われ、集団就職の時代であった。
地域の人たちに、見送られ、
兄を乗せた、列車は、名古屋へと出発した。

私も、黙って見送ったが、自然と涙が出た。
それと同時に、私がしっかりしなきゃ、
私が、母と弟を守らなきゃ、そう心の中で、呟いた。

夜に、父が酒で暴れると、それまでは、兄が交番まで、
走ったが、その日から、私が走った。
運動の苦手な私が、どう走っても兄より、早く走れる訳が無い。
間に合わなかったら、どうしよう。
走ってる間に、殺されたらと、不安な思いで、必死に走った。
足は、素足、痛みなど感じない。
あの時の、恐怖は、今でも忘れない。


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