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「ペンは剣よりも強し」は本当?

イギリスの戯曲家リットンは自分自身の戯曲、「リシュリュー」の劇中にこんな言葉を組み込んだ。

「The pen is mightier than the sword」

この言葉は歴史に残る名言となり、様々な言語に翻訳され須臾にして知らない者は居ない程になった。勿論それは日本も例外ではなく、形を変え、「ペンは剣よりも強し」という言葉になって輸入された。

しかしなんと悲しい事か、この言葉を知っている人の殆どは間違った解釈をしたままこの言葉を使っている。
この言葉の本当の意味を知るためには、やはり「リシュリュー」のストーリを知る必要があるだろう。「リシュリュー」自体は非常に長い戯曲の為、重要な部分を掻い摘んで説明させて貰う。

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まず、この物語の主人公はリシュリューである。つまり主人公の名前がそのままタイトルになっているわけだ。
そして時代と人物について。時代は17世紀のフランス、ルイ13世が台当していた頃だ。そしてこのルイ13世に使える聖職者こそ、この物語の主人公のリシュリューである。フランス国王の直近の部下である事から、その位の高さが伺える。
しかしこのリシュリュー、国王直近の聖職者でありながら「フランスを服従させ、イタリアを恐怖させ、ドイツを戦々恐々たらしめ、スペインを苦悩させた」と言われる程恐れられており、彼を恨む者も少数派では無かったと言える。
これで、本文を理解する為のある程度の知識は付いた。とにかく1度読んでみよう。

「リシュリュー」の第2幕・第2シーンの一場面で、リシュリューが、自分を恨む者達に対抗するためにペンを手に取り高らかに喋るシーンだ。
以下はその原文と日本語訳である。

Beneath the rule of men entirely great
The pen is mightier than the sword. Behold
The arch-enchanters wand!— itself a nothing!—
But taking sorcery from the master-hand
To paralyse the Cæsars—and to strike
The loud earth breathless!—Take away the sword—
States can be saved without it!
[Wikipediaより引用]

日本語訳
偉大なる人間の元では、ペンは剣よりも強い。
この魔法の杖を見よ!
これ自体は何でもないただの鉛筆だ。
しかし!達人がこれを持つことで魔法を得る。
権力者達を無力化し、大地の震えを止める!
剣を捨てるんだ
この国の平和に剣なんてものは要らない。

流石にこれだけでわかる人は多くは無いと思うので解説をしていく。
1行目から「ペンは剣よりも強し」の元となった文章が出て来た。
「偉大なる人間の元ではペンは剣よりも強い。」この文章は何を意味しているのか。これを理解する為に必要なのが、先程学んだリシュリューの立場である。先述したようにリシュリューはフランス国王であるルイ13世の直近の部下であり、位が非常に高く、リシュリューの命令に逆らえる人間などそうそう居ない。
つまり何が言いたいのかと言うと、リシュリュー程に位が高い人間がペンを使い令状を書いてしまえば、リシュリューの部下がすぐにでも動いて、剣を持った暴君ですら捕らえて処刑してしまう。
という事だ。
これに関しては最後にもう一度まとめる。
1番初めの「偉大なる人間」が表しているのがルイ13世かリシュリュー自身の事なのかは分からないが、どちらにせよ上の身分の人間が好き勝手出来るような政治形態の形成に加担した人間である事は間違い無さそうだ。
1行目以降の文章に関しては、自分の権力の大きさを別の言い方で表しているだけに過ぎず、換言すれば全て1行目と同じ意味となる。

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総括
ペンは剣よりも強しの本来の意味は
「報道機関などの言論は、直接的な暴力よりも人々に影響力がある」という事では無く、
「身分が下の人間がいかなる武器を持とうと、身分が上の人間の権力には敵わない」という事だ。
現在主に誤用されている意味と、リットンが想定していた意味は見当違いどころか、全く逆の使われ方と言っても良いだろう。権力者が作った言葉の矛先が現代になって権力者に向くとは。

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ここから何を得るのか、何を思うのか、それは人それぞれであり、私も講釈を垂れるつもりは毛頭無い。
しかし1つの事実として知っておいて欲しいのは、この「リシュリュー」は殆どが実話であり、リットン自身も少しの脚色を加えただけだという言葉を残している。つまり全てが現実に起こったことなのだ。

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