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IPO後も見据えたスタートアップファイナンス


思い立ってnoteを始めてみました。今回以降も、不定期に記事を書ければと思いますが、本論に入る前に、まず初めに自己紹介をさせてください。

これまでの経歴です。

  • 新卒以降、コンサルティングファームにて主にM&A案件に従事後、PE(バイアウト)ファンドにて上場/非上場企業の買収検討や投資先企業のモニタリング/バリューアップ活動を実施

  • その後スタートアップにて事業開発や資金調達に関与後、現職のVC(ITV:伊藤忠テクノロジーベンチャーズ)にてスタートアップ投資を担当

  • 投資領域はオールジャンル(バイオ除く)で、主にアーリーステージのスタートアップへの投資検討を行うと共に、既存投資先のフォロー・サポートを実施

SNSアカウントです。


これまでのキャリアでは、上場企業からスタートアップまで様々なステージの企業の事業やファイナンスを見てきたのですが、現職のVCに参画後、スタートアップにとってのファイナンスに対して日頃様々なことを思いめぐらせています。今回そうした考えの一つを文章化したく、記事を書くことにしてみました。

尚、VCの人間は、どうしてもスタートアップの外部の立ち位置からしか事業やファイナンスに関われませんが、私個人としては、スタートアップ内の当事者としての在籍経験も踏まえ、今回、また(出来れば)今後も記事を書いてみたいと考えています。



スタートアップにとってのファイナンスの考え方


スタートアップが資金調達を行う場合(特にエクイティファイナンス)では、足元で事業をどのようにグロースしていくか、その為に必要な資金をいつ誰から、どのように調達するかが重要な論点となります。

スタートアップの資金調達の現場としても、直近のファイナンスのラウンドから、数年後のIPOに至るまでのファイナンス計画を資本政策としてVC等のエクイティスポンサーと議論することが一般的かと思います。
(ディープテック等のより長期のタイムラインでの事業成長や資金計画を前提としているスタートアップの場合は更に長期での議論)

一方で、より中長期のタイムラインで考えた際、スタートアップにとってIPOはあくまで一つのファイナンスイベントであって、その先でどう事業を拡大させていくか、継続的にどう資金を確保していくかまでを視野に入れた事業運営が必要となることは言うまでもありません。

IPO時にはキャッシュフローがポジティブになっており、その後は自社事業から得られるキャッシュのみを原資として成長投資を賄う方針であれば、IPO以降の資金調達はそれほど重要視されないかもしれません。

しかしIPO後においても、成長し続けるスタートアップとして投資家が期待するグロースを実現させる為には、外部からの資金調達といった施策検討も含め、可能な限り最大限、最大効率での成長を志向することが投資家から求められることになります。


上場企業としての市場における評価


一方で、「上場スタートアップにおける「死の谷」」との表現があるように、上場後の成長投資に係る資金調達に苦労するケースが近年多く指摘されています。


IPO後、上場企業として追加的な資金調達(公募増資等)を行うにあたっては、株主に対して継続的に十分なコミュニケーションを実施し、安定的な株価形成をサポートすることは当然必要なアクションでありながら、更なる成長資金を投じることの合理性、自社の成長ポテンシャルの蓋然性を強い説得力を基に株主へ説明することが求められると言えます。

具体的には、株主が期待を持てるだけの大きな成長を実現できる市場ポテンシャルが本当にあるのか、そこで自社として収益を刈り取り切れる強みが他の上場企業も含む競合と比してあるのか、今回の資金調達は自社が採る戦略を実現、加速させる為の合理的な手段なのか、といった点が論点となります。

こうした論点は、当然ながらIPO後に初めて検討をスタートする性質のものではなく、そもそもスタートアップが戦うマーケットとそこでの戦い方を選択、洗練させていくアーリーフェーズに至る中で意識しておかなければ、いざIPOを実現させたとしても、マーケットからは中長期の成長ポテンシャルが限定的との評価を下され、株主の期待感を十分に引き付けられないものです。

仮にIPO時点で黒字化を達成していたとしても、自社が属する事業領域において主要なセグメントや顧客を刈り取ってしまっている状態であれば、上場市場においては、「成長余地の小さい中小企業」という見られ方をされかねません

上場株式を扱う投資家から投げかけられる「上場市場には多数の有望な企業がある中で、なぜこの会社に投資しないといけないのか?」という問いがありますが、この問いに対して、しっかりとした業績と戦略を基に回答する必要があります。
「売上が継続的に拡大しており、黒字化も達成できたから上場市場でも評価される筈だ」という感覚は、残念ながらナイーブに過ぎると受け止められることになります。


IPO後も見据えた足元の戦略検討


スタートアップとしてはこうしたIPO後も含めた中長期の絵姿を意識しながら、VC等のエクイティスポンサーと資金調達に関する議論を行うことが非常に重要ですが、スタートアップとしては足元の資金繰りや直近のファイナンスラウンドにどうしても意識が行きがちとなります。
目の前の事業を必死に回している人間からすると、長期の時間軸での自社の成長や市場等の外部からの評価については、検討すべき論点であることはわかっていながらも、頭を素早く切り替えたり、また時間を割いて議論したりすることは難しいものです。

従って、スタートアップ外の人間として、こうしたより中長期の目線や議論を投げかけることがVCとしての一つの意義と言えるかと思います。
VCの立場から見ても、未上場領域におけるエクイティスポンサーたる自身の意義は、スタートアップの成長資金を供給することのみならず、より中長期的な時間軸での成長を信じる「上場市場の投資家への橋渡し」と位置付けることができますし、またそうした橋渡しができるだけの十分な準備をスタートアップ側と尽くすことが大切だと考えています

例えば、上場後のスタートアップが、実際にどのような道筋でIPO後の成長路線や必要な資金調達等を実現させてきたのか、それをマーケットはどのように評価したのか、といったケーススタディやそれに基づく議論の提供は、一定有用かと考えていますが、こちらはまた別の機会に改めてまとめてみたいと思います。


また、IPO後、安定的な株主となり得る機関投資家(特にロングオンリー)とは、そもそも何者であり、各社はどのような特徴を持っており、投資にあたり何を重視しており、どのようなコミュニケーションが有用なのか、といった点に基づく議論や準備も、同様に有用な検討ポイントと思われます。

機関投資家を始めとする上場マーケットの投資家の思考や投資目線を多少なりとも把握しておくことは、IPOが近づくミドル・レイターステージにおけるバリュエーションや資本政策を考える上でも非常に重要だと考えています。
(未上場時とIPO時のバリュエーションの大きな乖離も昨今よく議論されるテーマかと思います)


私個人の知見、経験についても、まだまだ十分ではありませんが、このような観点からの価値提供が出来るよう、日々意識や努力を継続していきたいと考えています。

終わりに


VCでスタートアップ投資を行う中で、日ごろスタートアップのファイナンスについて考えていることの整理として今回上記の通りまとめてみましたが、これを契機に、様々な属性(スタートアップ、VC、CVC、事業会社、金融機関、個人/機関投資家、等)と議論が出来れば嬉しいと考えています。

今回の記事はやや抽象的な次元での整理となった為、今後、より具体的なテーマや企業等を基に議論や整理が出来ればと思います。

VCの意義や提供価値というテーマについては、本稿で触れたポイントのみに留まるものではありませんし、異なる考え方や議論もあると思いますので、そうした内容についても積極的に議論出来ればと考えています。

また、本稿ではIPOを将来的なファイナンスイベントとして取り上げましたが、当然ながらIPOを実施せず、M&Aにて外部企業へのグループイン等の方向性も選択肢としてある為、スタートアップにとってのM&Aというテーマについても議論や整理が出来ればと思います。



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