「妄想駆動」の生き方、はじめませんか?

※このnote記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース 「クリエイティブリーダシップ特論 第2回」(4月17日) の課題エッセイとして記載したものである。

今話題の本、『VISION DRIVENー直観と論理をつなぐ思考法』の著者、佐宗邦武さんの講義を受ける素敵な機会を頂いた。(本の読者でもあったので、とりあえず興奮がおさまらなかった…!)

これまでの自分の経験をふまえながら、特に印象に残った部分を中心に、グラレコとともに記載していこうと思う。

まずは佐宗さんについて簡単にご紹介させて頂きたい。

現在は戦略デザインファームBIOTOPEの代表としてご活躍されているが、
以前は東大法学部をご卒業後、P&Gにてヒット商品のマーケティング、
ソニーでのクリエイティブセンターにて新規事業創出プログラムの立ち上げなどに携わっておられたそうだ。

どのようなきっかけで、デザインの世界に興味を持たれたのだろうか?

「新しいものを生み出すための場づくりをしたい』

この想いをもとに、デザインスクールとして有名なスタンフォード大学のD.Schoolよりも先に「デザイン思考」をメソッド化していた「本家」とも
いえるイリノイ工科大学デザイン・メソッドの修士課程に飛び込んだという。ここでの体験が彼の人生を大きく左右することになる。

►日本は「妄想」の地位が低い国?

「実現しようもないアイデア」としてのニュアンスがある「妄想」という単語は、日常会話におけるある種の「予防線」として機能しているのだ。
(中略)
アメリカやヨーロッパを回り、さまざまな起業家や研究者、デザイナーたちと対話した際、彼らは実現するかわからないアイデア、すなわち、妄想(ビジョン)を、初対面の僕に対しても堂々と語ってくれた。…(中略)少なくとも僕が海外で出会った人たちは、実現可能性が見えない突飛な発想を口にすることを、全く恥じていないように見えた。むしろ彼らは、他の人にはまだ見えていない世界を見ながら、それを現実の世界に重ね合わせている。
(「VISION DRIVEN-直観と論理をつなぐ思考法」p.92-93より)

この点は本当に強く共感した。大学時代、アメリカのウィスコンシン大学に学部留学していたことがあるが、一緒に学んでいた学生たちの姿勢と言葉が強く印象に残っている。

「英文学の分野で博士課程まで取って、世界に名をとどろかせたい」
「将来は写真を撮りながら、世界を旅して生きていくんだ」

日本で同じことを言うと、「本当に実現できるの?」「仕事になるの?」など現実的な目線で、否定的に捉えられかねない言動も、彼らは堂々と友人・家族に語っていた。友人・家族は否定することなく、相槌を打ちながら、目を輝かせて夢を語る、大切な人の話に耳を傾けていた。

極寒の冬のある日、暖炉を囲んで一人ひとりが真剣に語っていたあの姿を、私は一生忘れないし、この経験があったからこそ、抱く夢の大きさを大切にして、今日まで過ごしてくることが出来たように思う。

本を読みながら、そして佐宗さんの講義において、この気持ちを再燃させて頂いたことは非常によかった。

►ただの直感・妄想で終わらせない思考法とは

たしかに、自分自身から沸き起こる「内発的動機」にもとづいて行動し続けることが出来るなら、そんなに最強な状況はないと思う。

大学時代、私は自分ですべてをアレンジした学部留学・サークル立ち上げの経験などにおいて、ありがたいことにこの「内発的動機」にもとづいて、
ある程度は行動が出来ていたように思う。
しかしながら、社会人としての経験も少し積んだ今、改めてその持続性と
再現性に悩み、苦しんでいる部分も多くある。

いくら内発的な「妄想」からスタートしても、思考を「単なる妄想」のままに留め置いていては、それは「無」に等しい。
自分の妄想を解き放ったあとには、それを具体的な「かたち」へと落とし込み、周囲の人を納得させていくステップが不可欠だ。
(「VISION DRIVEN-直観と論理をつなぐ思考法」p.9-10より)

これだ。佐宗さんは、「直感」を「論理」につなぎ、「妄想」を「戦略」に落とし込む思考モードのことを「ビジョン思考(Vision Thinking)」と呼ぶ。

これまで私は「妄想」→「表現」のフローしか経ていなかったことを
強く実感した。同じような分野を学び、近い価値観でつながることが出来た  大学のコミュニティにおいては、それでもよかった。通じてしまったのだ。

しかしながら、多種多様な価値観を持つ人が存在する社会においては、
自分の妄想をそのまま表現しても届かない。より具体的で納得感のあるメッセージを伴う表現にしていくために、「知覚」「組替」のステップをふまえる必要があるのだ。

2年後の院修了時に向けて、自分なりのアウトプットを目指していくにあたり、この4月のタイミングでこの思考法に出会えたことは幸運でしかない。

►大人が夢を語らない社会

「自分の娘が大人になったとき、自分は何をしているのだろうか」
大人から『希望にあふれた物語』を聞く機会はあるだろうか。

これからの社会に、大きな影響を与えていくだろう佐宗さんだが、
ビジョン駆動型の思考の体現者として、最も影響を受けたのは
元サッカー日本代表監督の岡田武史氏だという。

会社を創業してから2年経ったころに、彼(=岡田武史氏)と出会った。デザインやビジネスや経営の現場に広げていく仕事をしていくなかで、クライアントや社会に必要とされることを意識するようになり、無意識に誰かに喜んでもらうために相手の答え合わせにいっていた当時の僕にとって、岡田さんの言葉は深く刺さった。
ちょうど、自分の娘が生まれ、この子に何を自分は出来るのかということを考え始めたころでもあった。BIOTOPEでは、企業の長期ビジョン、2030年の未来像をつくる手伝いをすることがある。そのときに否が応にも意識するのは、この長期ビジョンを作る仕事では、自分の娘や息子世代に何を残すかという自分の覚悟が問われているということだ。そして、それから僕は、誰にどう思われようが、自分の夢を語るようにしようと決めた。たとえ、誰時からも理解されなかったとしても。
(「VISION DRIVEN-直観と論理をつなぐ思考法」p.265-266より)

岡田氏のいう『無形資産』とは、「アイデア」「共感」「空気」を指し、『有形資産』とは「会社」や「お金」を意味しているという。

佐宗さんが講義中にお話されていた、フェーズに求められる能力のお話も
おそらくこの部分に関連しているのだと思う。違う表現をとってはいるが、同時にお伺いすることができたので、すっと理解することが出来た。

1人で独創していくことは自体は誰でも出来るのかもしれない。個人の内発的動機に基づいた妄想は思ったよりも強力だ。
だからこそ、夢を達成したいという強い熱量と覚悟を持ち、ビジョン思考の「妄想→知覚→組替→表現」のサイクルに本気で取り組んだ人だけが、周囲の共感を呼び、共創のフェーズには進んでいくことができるのだ。

ビジョン思考は個人の内発的動機を最重要視しているようにも見えるが、
それは、目的達成に向けた本人のモチベーションが維持されやすいから、という単純な理由のみに帰結せず、共創のフェーズに進むための「求心力」(ミッションに根差した野心的なビジョンの発信)と「創発力」(組織外部の知と社内インフラを組み合わせて作り上げていく力)を伴うための重要なキーインフラなのではないかと感じた。

佐宗さんは最後に、これから21世紀の組織がどうなっていくか、についても考えを述べてくださっていた。
20世紀の組織は「囲い込み型」でトップダウン式、支配力と改善力に重点をおいていたが、21世紀の組織は「呼び込み型」となり、上記した「求心力」と「創発力」を伴う個人が、周囲に呼び込みをかけ、パートナーを巻き込み、価値創造を行っていく。

現代社会はSNSの発達により、誰でも情報発信が出来る時代になった。

だからこそ、数多ある発信者の中で違いを生み出すために、こうした内発的動機に基づく強い実現意思と、周囲の共感を呼び、巻き込むための多彩な表現・アウトプットを行うことが求められていることを強く実感した。

これまでの自分に不足していた点を見つめ直し、ビジョン思考に基づくステップを習慣化し、熱い想いと周囲に共感を生む表現を兼ね備えていけるよう、これから努力を重ねていきたい。

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