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共創における「共通善」とは

※このnote記事は、武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース 「クリエイティブリーダシップ特論II」 の課題エッセイとして記載したものである。

第5回ゲストは、産総研(産業技術総合研究所)の江渡浩一郎さん!「創造性の基盤を築いていく」とは一体どういうことなのだろうか?

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江渡さんは、学生時代からメディアアーティストとして活動されており、Sensorium(センソリウム)や未来科学館の「インターネット物理モデル」などの作品で数々の受賞歴を有するすごい方。最近では、共創イノベーションの実践研究を手がけられており、ニコニコ学会βなどをプロデュースした方としても知られている。

▶︎「創造性の場」作りの面白さ


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学生時代に作成されていたModulobeという、モジュールと呼ばれる部品を組み合わせて,簡単に仮想生物としての「動く3Dモデル」を作ることができる物理シミュレーション・システムの構築を通じて、「人々が互いのアイデアに触れながら、新しい形を模索していく」面白さに気づいたのだという。


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そもそも、こうした良いものの形・アイデアを組み合わせていくという概念は、1980年代に建築家クリストファー・アレグサンダーが提唱した「パターン・ランゲージ」という考え方に基づいている。

パターン・ランゲージとは
パターン・ランゲージは、状況に応じた判断の成功の経験則を記述したもので、成功している事例の中で繰り返し見られる「パターン」が抽出され、抽象化を経て言語(ランゲージ)化されたものです。そういった成功の“秘訣“ともいうべきものは、「実践知」「暗黙知」「センス」「勘」「コツ」などといわれますが、なかなか他者には共有しにくいものです。パターン・ランゲージは、それを言葉として表現することによって、ノウハウを持つ個人がどのような視点で、どんなことを考えて、何をしているのかを、他の人と共有可能にします。(上記サイト内より引用)

初めて聴く方もいるかもしれないが、実はこの考え方・手法はwikipediaの構築にも大きく関わっているのだという。

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▶︎「共創型イノベーション」を志向したニコニコ学会β

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「イノベーションとは、技術の使われ方の革新である」との想いを掲げ、江渡さんは共創型イノベーションを志向するニコニコ学会β立ち上げに中心的に関わってきた。

2011年、東日本大震災の発生もあり、「科学は科学者のものではない」という風潮が強まったことも、本学会の立ち上げには追い風になったのだという。科学にできることを模索し、人に愛される学会を目指して、ニコニコ学会βは5年間という期限つきでスタートした。

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この学会で江渡さんたちがこだわったのが、「共創型イノベーション」という考え方。個別のユーザーにはコアな技術がなかったとしても、彼ら自身は日常生活において世界をかえるような発見や発明をする可能性がある。だからこそ、そういったユーザーが発明や開発をしやすい環境を整えることで、ユーザー自身をイノベーション創出に巻き込む共創の場を提供していこうとしたのだ。

技術的に困難があったとしても、ブレイクスルーは多様性から生まれるものだ、と江渡さんは繰り返しお話しされていた。

共創は成果がばらつきやすく、平均値は下がるという人もいるが、例えばFacebookの「イイね!」ボタンは社内ハッカソンから生まれたことを考えると、決して遠回りなプロセスではないように思う。

▶︎「共創」と「協業」はどう違うか

よく混同されやすい概念であり、また私自身もあまり違いについて考えたことがない「共創」と「協業」という二つの言葉。なんとなく最近のトレンド的に耳触りがいいのは「共創」のように感じるが、何がどう違うのだろうか?

江渡さん曰く、「協業」は利益を分け合うことに主眼が置かれるものだという。一方、「共創」は共通の大きな目的である「共通善」に向かって、異質な才能が結集するところに意義がある。

要は、映画「七人の侍」とか漫画「ワンピース」に描かれるような、1つの目的のために多様な人が集まる状況なのだ。

加えて、「共創」は事前に「協調せずに」行動するのも大きな特徴だそうだ。

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例えるなら、同じ山の頂上を目指したい人々が結集し、各自がとりうる方法(=山登りのルートの検討)を話し合いつつも、結果的に問題(=山の頂上にたどり着くミッション)に取り組むために、単一のアプローチを設定しないのである。要は、誰かが山の頂上に到達できれば良いのだ。

「協業」であれば、きっとルート検討の時点で各自ができることを出し合い、みんなで頂上に登ることを志向し、頂上についたご褒美は山分けなのである。

江渡さんは、「共創」を行うコツとして、「共通善」を設定できるかどうかにこそ、鍵があるのだと繰り返しおっしゃっていた。

競争の仕事は、共通善を見つけ出すところに9割の労力をかけるのだ、と。


「共創」と「協業」

相変わらず、ややこしい気はするが、私が取り組みたいのは「共創」である。お仕事・大学院で取り組んでいる様々なプロジェクト、そこに「共通善」はあるのか?と自問自答せざるを得なかった。(書いていて、なんだか某CMを思い出しでしまったが、要はそれくらい心に刻み込んでおくべき信条なのだろうと思った)

▶︎おまけ:院生からのQ&Aコーナー

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ニコニコ学会βは大成功に終わったのだが、決して5年間の期間限定ルールを超えて延長することはなかった。何故だろうか?

「続く仕組み」を考えようとすると、余計な変数を考慮しながら進める必要が出てきてしまう。だからこそ、「続く仕組み」ではなく、「期間限定でうまくいくよう仕掛け、全力でそこに集中したこと」こそが、ニコニコ学会βの成功要因だったのかもしれない。

もちろん始めるなら持続的に発展するものを作りたい。誰もがそう思ってしまうのは自然なことだろう。

でも、だからこそ「期間限定!」と最初から割り切って作り上げてしまうことに意味が生まれていくのかもしれない。

私はこの部分を、まだうまく使いこなせてはいない。

こうした緩急ある仕掛けづくりができるようになりたいなあ、と強く実感させられた時間だった。

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