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即興する大切さと熟成する尊さ

今夜、友人のイベントに参加してきた。
帰宅しても興奮が冷めないのでnoteを書くことにした。

武蔵野美術大学の大学院で出会った彼は、在学中から「Narrative Design」を研究していて、ムサビの大学院修了後もその意欲と関心はますます強くなり、ついには会社を休職して、ロンドンにある世界的に有名な美大の修士課程を終えちゃうくらい、熱いやつである。

修士2年目になっても全く研究の糸口が見えず、テーマが決まってからも全然執筆が進まなくて辛い日々を送っていた大学院2年目の私が「修士論文なんて、なんのために書くんだ・・・」とぼやいていたところ

「論文なんて、暇人の戯言だから」

と一蹴(?)し、励ましてくれた恩人でもある。
(確かにそうだよな、と思えて不思議と肩の荷が降りて、それ以降は気軽に執筆できたのは間違いなくあなたのおかげよ、感謝)

さて、そんな彼は東京とロンドンを拠点に活動するトラベルマガジン、デザイナーズコレクティブ『polaris』を主宰していて、その待望の2作目を出版したのだ。今夜のイベントはその発刊記念イベントだった。

polaris は「思索の旅」をテーマにしたトラベルマガジンです。私たちpolarisは、世界中の人々が 紡ぐ日々の断片的な物語(ナラティヴ)の収集を通じて、その異なる価値観と原理の中に自分の人生を思索するためのヒントを探します。

polarisとは

・・・この雑誌、めちゃくちゃ面白かったです(語彙力)

この雑誌の内容と感想を記すだけで2回くらい夜が明けそうだし、まだまだこの雑誌の素晴らしさを言語化できるほどのスキルはないので控えるけど、下記の文言を読んでピンときた方は今すぐチェックすることをお勧めします(なんか指名手配のポスターみたいな文言になってしまった)

畏敬の念という言葉を辞書で引くと「この世界に対する理解を超越する、大きな何かの存在を感じること」という定義が出てきます。畏敬の念について長年研究を行っている、UC Barkley校の心理学者Dacher Keltnerは、世界中の人々から畏敬の念を感じた瞬間の物語を集めました。彼の研究によると人々の畏敬の念にまつわる物語は、神や自然などの巨大な存在に抱く畏れの感情とは一線を画し、より日常の中にある感嘆や感心といった感覚に近いものだそうです。Keltnerは畏敬の念を通じて、私たちは未知の出来事に心を開き、そして人生に深い意味を見出すことができるのだと言います。ロンドンの刑務所の音楽レーベル、ブータンのカリスマラッパー、イギリスのストリートペーパーTHE BIG ISSUE、岩手県遠野の民話、ドイツで行われた芸術祭Documenta15、そしてウクライナの若き芸術家たち。私達polarisは今回、世界中の人々畏敬の念にまつわるナラティヴを集め、その可能性を探求します。

『畏敬の念〜驚きに満ちた日々、希望にあふれた毎日〜』の紹介文章より

「ナラティブ」って日本語だと「物語」とかって安易に訳されちゃうこともあるけど、実はすごく奥深くて面白い概念で、polarisの皆さんは「人が世界を認識するために、手段としての(自分)語り」として捉えているんだそう。

ナラティブには、下記3つを始めとしたさまざまな力があると教えてもらった。

  • 他者の生への没入

  • 世界の現象の再解釈

  • 語りと語りの共鳴

私はその中でも特に「他者の物語に触れる=他者の人生に触れる」という部分が気になった。

なぜなら、私がグラレコ(グラフィックレコーディング)を始めたとき、一番最初に行っていたのが、「人生の見える化」と称して、相手の人生語りを聞き、即興でイラストと文字におこしていく試みだったから。

当時はまだiPadも持っていなかったから、A3ほどのサイズの紙に手書きしていたんだっけ。懐かしいなあ。

出会った冒頭、「私の人生なんて何も語れるようなことはないんです」とみんな言うのだけど、

結果として時間内に喋り終えた人なんて誰もいなくて、みんな気づけば夢中で自分の人生に起きた出来事を、数時間前に初めて会ったばかりの私に話してくれていた。

今思えばなんて尊い時間だったのだろうか。

目の前で同時並行で仕上がっていく作品を見ながらたくさん貴重な話をしてくださった皆さん。

今日出会った方が「誰かの大切なことを大切にしてあげること、それ自体が”ケア”のアプローチなのだ」と教えてくださったのだけど、

まさに私にとって、あの取り組みは人生で間違いなく「誰かの大切にしてきたことを自分も大切に受け止めつつ、相手の人生の転機を応援できた経験」だった。

そして、目の前の誰かが自分のスキルで喜んでくれる、という貴重な成功体験でもあった。

この時の皆さんの笑顔があったから、自分は(調子に乗って)ムサビの大学院に挑戦し、今の人生を生きているんだと思う。

30人以上描かせていただいたけど、誰1人として何も被ることもなく、ひとりひとりが間違いなく最高に面白い人生を過ごしていることに感動した。

あのとき描いたグラレコが、出会った皆さんの人生の何かのお役に立っていたら嬉しいな、と心の底から願います。


さてさて、そんな懐かしくあたたかい思い出がよみがえりつつ、今夜のトークイベントの途中と帰り道に私の頭に浮かんだのは、「即興する大切さと言葉を熟成する尊さ」ということだった。

グラレコというのは、対話や語りをリアルタイムで絵と文字で可視化していくスキルなので、言葉そのままだけど「即興」なわけである。

だから、どういうものが最終的にアウトプットとして仕上がるのか、描いている自分自身も含めて全然予想ができない。

一方、友人たちが主宰する雑誌をはじめ、何かを「編集」するというのは、言葉を厳選し、文章を熟成していくプロセスを必要としていて、とても時間がかかるし、時間をかけるからこそ深みが増していく行為なんだと思う。

面白いくらい対極に感じるけど、別にどっちが優れているとか言いたいわけではない。どちらもそれぞれの良さと面白さがあるはずだ。

ただ私は、あまりに「即興」的なアプローチに慣れすぎていて、

むしろ、推敲して文章を紡いでいくことにすごく恐れを持ってしまっているのではないか、と気付いた。

・・・気付いた、と言うのは嘘で、実は前々から薄々感じていたことだ。

なんでかな、昔から時間をかけてゆっくり積み上げて準備することが苦手であり、最後は結局「ええい、思いのままに!」の精神で、即興に近いような形で何かを作ってきたことの方が圧倒的に多かった。

イベント本番のみならず、テレビの生放送でグラレコする、とかいう極度のプレッシャーの中で生きてきてしまったことも要因だと思うが、

とにかく熟考して言葉を紡いでいくこと、時間をかけて何かを作り上げることに異常に不慣れなのである。

熟考よりも、瞬間的な判断。
1つ描き直すよりも、3つ描き足すことを正解にしてきてしまった。

こういう自分の多動なところは嫌いではないし、スキルとしての自負はあるけど、

シンプルに友人たちが数年をかけて作り上げた雑誌はカッコよかった

何度書き直して、推敲したのかは知らないけれど、
一言一言、一枚一枚の写真に込められた想いの強さみたいなものがあって魂がこもっているから、読んだ人が感動するんだと思う。

こんなこと言ったら元も子もないけど、
私は自分が生み出したグラレコが瞬間的に消費されるだけ、なのは嫌なのだ。

だからこそ、グラレコ以外のアプローチもやってみたくて、自分の思考を残す意味でもnoteを書き始めたのだけど、

やっぱり下書きも何も無しに、即興的にここまで書いちゃうんだよなあ。

・・・それはそれでいいのかもしれないけれど。

もう少し、長く物事と向き合って推敲するクセというか、熟成する姿勢も身につけたいな。


最後に、私がnoteを書くことを後押ししてくれた、empowermentな言葉を紹介しておきます。

完璧を目指すよりも大切なのが、終わらせること。
あなたの80点は、誰かにとっての100点です。

書く習慣 〜自分と人生が変わるいちばん大切な文章力〜(いしかわゆきさん著)

そうそう、そうなんだよな・・・。

熟考しようとすると、いつまでも来ない「完璧」を追い求めようとして終わらせないまま、気付いたらフタをしてしまう気もするのである。

そしていつまでも追い求めたとしても、自分の中だけに留まっている状態は結局悲しいことに80点止まりとも言えちゃうよね。

誰だって最初は素人で不完全。
8割の完成度でもいいから、打席に立ち続けることで初めて、
プロとして磨かれて唯一無二の存在になっていくんや。

「わたしホームラン打てないんで、バッド握ってバッターボックスには立てません」とか言ってたら一生野球できないわ。てかそんなやついないか。

でも80点の自分に満足できずに何も動けない状態って、究極的には同じことなんだよな。最初からホームラン狙う必要なんてないのよ。

だからこそ、私みたいなズボラで続かない人間は、半即興的でもいいからまずは挑んで終わらせる(=とりあえず完成させる)ことが、少しは大事なのかもしれない。

少なくとも勢いでnoteを始めた自分は「新品のバッド買ったから、毎週の野球の練習に参加させてください!」みたいな状態なんだろう。

・・・初心者バンザイである。
最初からすぐに良いものは作れない分、怖いものもそんなにないぞ。

そんな言い訳をしつつ、今夜も熟睡できたらいいな。

それにしても良いイベントだった。
クオリティに全く妥協してないのに、それでいて発刊という形でしっかり完成させて世に届けたpolarisの皆さん、あっぱれでございます。。。


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