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自称、息子

 気が狂ったような猛暑の終わりがなかなか見えなかった頃。

 鎮痛剤をいくら服用しても一向におさまらない頭痛が悪化し、痛みと酷い吐き気で一晩中トイレで嘔吐し続けたら全身痺れて震えが止まらなくなったので、東京消防庁救急相談センター(#7119)に電話をすると緊急性ありと判断され救急車を差し向けてくれた。

 日曜の朝早い時間だったから、病気(起立性調節障害)の回復途上にある息子はまだ寝ていて、でも起きたとき母が行方不明だと驚くと思い「具合がわるくて救急車で病院つれてってもらうから」とだけどうにか声をかけといた。

 財布とスマホと保険証を放り込んだバッグを握りしめ救急隊の到着まで玄関に転がっていたら、思いのほか早く救急隊員の方々が到着した。わーん、全員御光がさしてみえる。ストレッチャーに乗せられ、安堵と同時にあいかわらず少しもおさまらない痛みとこみ上げる吐き気に涙目。

 すると異変を感じた息子がヨレヨレと2階から降りてきた。ヨレヨレになったこんなTシャツを着て。

息子Tシャツ。覚えていてくださる方はいらっしゃるだろうか。


 「あ、息子さんですか?」

 救急隊員に尋ねられた人物はもはや「ハイ」と応える必要もないくらい息子を自称してて、この絵みたいな太い眉をハの字にした顔で「大丈夫?」とか私にきいてきたけど、いや全然大丈夫じゃないわ。

 こみ上げてきて止まらない、笑いが。

 息子を名乗ってるどこからどうみても息子な人物に見送られ救急車に乗せられた。そして、救急隊員の方々が搬送先を探してくださる間、痛みとこみ上げる吐き気と思い出し笑いで涙に咳鼻水が止まらずイヒッヒッオエッヒヒィエホッゲホッ…ってぶるぶる震えてて、もう完全に頭のおかしな人だった。幸い、お薬手帳も持参してたから変な疑いはなかったはずだけども。

 搬送先の救急病院でまな板の鯉ならぬストレッチャーの鰯のままいくつかの検査をして救急処置室で点滴をしてもらっておそらく片頭痛の悪化からの嘔吐で脱水と熱中症が重なったんじゃないかということだった。救急隊員の方々も救急外来のスタッフの方々も誰も彼もが優しくてまたちょっと涙が出た。

 帰宅すると息子を自称してた私の息子が呑気に「おかえり」と言ってくれた。 


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