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ジュスイ

壊れかけた貝殻を拾い集める

いつかそれが大切になると信じて

言えなかった想いは

潮騒の中に消えていくのだという

今日は忌々しい雨ではなく

頭が痛くなるような曇りでもない

穏やかな晴れに夕暮れを

日が落ちるのを待っていく

例えば雨の日だったら

わざと押し倒されて水たまりに沈む記憶がある

例えば曇りの日なら

濁ったプールに手足を縛られて落とされた記憶がある

それでも晴れの日なら

多くの思い出を消すほどにあの人を思い出せる

間違った正しさを肯定できなかったあの人は

私がいなくても大丈夫かな

ねじまがった嘘の方が本当になると

今になって思える

聴こえてくるのは魚たちの声

呼んでいるでしょう わかっているでしょう

死んでいるでしょう 知っているでしょう

つながりをすべて切るように

髪の毛を切る

消えなかった呪いもこの砂浜に置き去って

かわいいサンダルを脱いで

真っ白なワンピースとともに竜宮城へ

私に強さがあれば伝わったかな

私に弱さがあれば伝わったかな

チーターとシマウマの狭間で生きていた

偏平足が海色に染まる

真っ赤なバラを口に含んで

貝殻をかみ砕き海に落として

あの夕日に続く青い階段を歩く

脚、腰、胸、首、そして顔が青色に染まる

きっと最後の記憶はコンタクトレンズを外し忘れたこと

バラの鼻につく匂い

魚たちの声

食された肉片

破壊された脳

記憶は貝殻の中に吸い込まれていく

姿を消去されたあの子のことを

泣いたのはあの人だった