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植物さんが教えてくれたこと。

 ゆたかさって何だろう。
 そんな問いを見つけたときに、ふと浮かんだのは、この数カ月のステイホーム期間に「植物」から受け取れたいくつかの気づきだった。

 うちには小さなベランダがある。
 小さいけれど、朝日がよく差し込むベランダ。
 引っ越してきた時から、このベランダで季節の植物を育てられたらいいなぁと、ずっと思っていた。
 でも、なかなかできないまま10年近く過ぎていた。
 正確に言うと、何度かトライしたことはあったけれど、挫折していたのだ。
 取材や打ち合わせに何かと出かけて日中を家で過ごせない日がほとんどで、水やりが不十分になって枯らしてしまう。カラカラに乾いてしまった鉢を処分するたびに、申し訳ないやら情けないやらで、いつしか私は「植物コンプレックス」を抱えていた。

 そのコンプレックスを克服するチャンスが、この春、突然訪れた。
 家にいる。いなきゃいけない。あ、今なら、植物さんを迎え入れられるかも。思わず「さん付け」してしまうのは、私の心の構えというか、緊張の表れだと思う。

 そんなわけで、10年越しの再挑戦。植物さんを、我が家のベランダにお迎えすることにした。
 近所の苗屋さんで、カラフルな花々やハーブをランダムに選び、「せっかくなら食べられる野菜を」とレタス、ほうれん草、小松菜、ビーツ、枝豆、ミニトマトなど。さらに、農家さんから直接買えたキュウリやナスも追加。
 うちの小さなベランダはみるみる植物さんで埋まっていった。
 家に閉じこもっている生活の中で、“自然“を求めていたのかもしれない。

 朝起きると、まずベランダに出て、朝日を浴びながら植物さんに水やりをする。
 昼間も、仕事のかたまりをやっつけるたびに、気分転換ついでに植物さんに水やり。
 そんなサイクルが続くと、植物さんは枯れることなく育ってくれた。

 芽が出た。茎が伸びた。驚きの成長スピードだ。水と、光と、土だけで?? すごい!!
 当たり前のことだけれど、私は本当にうれしかった。
 
 私が水をあげる。すると、育ってくれる。

 ただ、それだけでもう幸せ。

 なんでこんなに幸せな気持ちになれるのかと考えてみた。すると、「ああ、そういうことか」と腑に落ちる瞬間があった。

 与えることで、与えられている。

 これまで取材現場でいろんな人から聞き、原稿で幾度となく書いてきた「giveの精神」というものが、スーッと沁み入る感じがした。
 降リ注ぐ滴にユサユサと葉や花びらを揺らして、美味しそうに水を浴びる植物さんを見ていると、私のほうが満たされる。水を与えているほうの私が、癒やされ、満たされるのだ。幸福を感じられるから、次の水やりも楽しみになる。

 植物さんは動物ではないので、自分では動けない。だから、いろいろと手をかけないといけない。
 ちょうどいい光の当たり具合になるように、鉢の位置や角度を調整してみたり。花や実が育つように、肥料を投入してみたり。
 そんな試行錯誤に、植物さんは真っ直ぐ応えてくれる(もちろんうまくいかないこともあるけれど)。

 与えるって、楽しい。

 とてもシンプルな一文だけれど、これは植物さんからいただいた素晴らしい贈り物だ。

 植物さんからは他にもいくつかの奥深い気づきをもらった。

 例えば、「共生」。タネは一つだけ植えるのでは芽が貧弱になって育たないことがある。3、4粒のタネを一緒に植えることで、お互いに支え合って、丈夫に育っていくのだという。

 それと、当たり前なのだけれど、植物さんの「日の当たる方へ伸びていく」という能力にもあらためて感動した。
 明るい方はどっちなのか。生きるために貪欲に光を探し、ツルや茎を精一杯伸ばそうとする懸命さに、心打たれる。
 そして、その“光を探り当てる精度“に感服する。

 5月のある日。雨上がりの静かな朝に、少し早起きしてベランダに出てみると、思わぬお客さんと出会えた。
 キュウリの鉢に止まっていたアゲハ蝶。花の蜜を吸いにきたのだろうか。
 育つことで、出会いを呼び込む。そんなシーンとして刻まれた。

 たくさんのことを教えてくれる植物さん、ありがとう。
 これからもどうぞよろしくお願いします。

 


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