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2023年面白かった本三選


あくたの死に際


仕事も順調、彼女とも良い感じな社会人・黒田マコトは、 実生活の小さな積み重ねによって心を病んでしまう。 そんな時、学生時代の文芸部の後輩・黄泉野季郎と再会する黒田。 売れっ子小説家になっていた黄泉野に焚き付けられ、 黒田の人生は大きな変貌を遂げ、 小説業界に大きなうねりを生み出すことになるーーー

小説家だからえぐい刺さり方した。のかもしれない。
「書けねえ…やばい…」という気持ちと「書くことができる至福…!」というのがすごくリアルに描写されている作品。

編集者と作者のリアルも詰まっていて、「まじでそうなんだよな…」と読みながら首がもげそうになりました。

小説だけじゃなくとも「私には才能ないから」で生まれた感情を片付けてきたあなたになら刺さるかもしれません。

憧れや夢をお片付けして、誰かの夢を応援する側に回るだったり、誰かの夢の一端を担う側になったりを選んだ人は、「もうひとつの世界線の私」としてこの漫画に投影しながら読むのも楽しいかもしれません。

夢とかそんな大それたものじゃなく、現実に向き合うのだりーなーと思っているあなたにもきっと活力をくれます。

生きてたら面倒なことって腐るほどあるじゃないですか。その度に頭を悩まさなければいけない。心を疲弊させなければいけない。在り来たりな生活なら、せめてストレスを与えないでいてくれよと願う気持ちにもなりますよね。

そんな日々から脱却するヒントがこの本に眠っているかもしれません。
なんかやる気出ない…の日々を送っている人にぜひ。


DIE WITH ZERO

発売自体は2020年なのですが、コロナ真っ最中に読むよりも、コロナが明けて人々がもういっちょなんかやるかあ!と活動的になってきた昨今だからこそ刺さる内容だと判断し、2023年読んで面白かった本として推します。

1️⃣喜びを先送りにしない方がいいよ。限られた時間の中で幸福を最大化するためには、人生の早いうちに良質な経験をすることが大切だよ。

2️⃣どんな金持ちも、あの世にお金は持っていけないから、死から逆算して「ゼロで死ぬ」を実践すべきだよ。

3️⃣お金、健康、時間という人生の3大要素のバランスを、いかに取るかが重要だよ。

4️⃣物事には賞味期限があるよ。リスクを取らないリスクは馬鹿でかいよ。行動しな!

というのがざっくりとした内容です。どうですか?
「そらそうだろ」と思いますよね。

自己啓発本って、要約だけまとめたら「そらそうだろ」にしかならんのですよ。で、なぜそんな「そらそうだろ」を本で読むかという話なんですが、”実行に移す可能性”をグッと高めてくれるから、なんですね。

私たちも馬鹿じゃないんで、どう生きるべきか、どう生きた方が効率がいいか、なんてことは頭じゃわかっているわけですよ。
早く風呂に入った方がいい。美肌のために23時には就寝した方がいい。朝からウォーキングして白湯飲んだ方がいい。炭水化物、脂質は控えめに良質なタンパク質を摂取した方がいい。

… そんなことはわかりきっていて、インスタをだらだら徘徊しながらリンクから飛んで、こんな記事をスクロールしながら見ているのが今のあなたです。絶対に早くお風呂に入って就寝したほうがいいのに。

「そらそうだろ」を実行できないのが我々人間なんですね。
そこで読書です。読書というのは、自分の心の声で、自分の脳内で再生しながら、脳に直接語りかけるという、いわば自己洗脳を簡易的に行える装置なわけです。

このDIE WITH ZEROに書かれている
「とりあえず実行する。後悔のないように今を生きる。取捨選択をする。最善の選択をする」ということは、案外この“無限にエンタメをたらし込むことができる”時代、ぐーたらしがちな私たちにとってはとてもいい動機づけだと感じました。

ぐーたら癖がついてんなあ自分…という自覚があるあなた、ぜひ読んでみてください。


つれないほど青くて あざといくらいに赤い


気になったことは何でも確かめねば気が済まないほど好奇心が強い高校一年生の知山アラタは転校先の高校である日、着替え中の一人の先輩と出会う。初めて会ったときは女子の制服、次に会ったときは男子の体操着を着て男子と混じって体育の授業を受けるその先輩・速水ミハヤに対して性別の疑問に加え、自身の中で得体のしれぬ感情を抱えるようになったアラタはミハヤに誘導された男子トイレの個室で様々な感情が縺れた疑問をぶつけ、そこでミハヤから「私が卒業するまでの一年間君が一度もケダモノにならなかったら君の望む形で何でも答えてあげる」という賭けを提案され、それを受け入れたアラタとミハヤの奇妙な日常が幕を開ける。

ちょっとえっちで、ずっと怖い。ホラーではなく人間の深淵を覗く怖さに直面します。圧倒的な魔性に飲み込まれそうになる純真無垢な心と、「いやいやそんなことしちゃだめだ」とギリギリでブレーキをかける理性とがぶつかりあう様が小気味良く描かれていて、非常に臨場感の高い漫画。

とにかく絵が綺麗、線が細かくて表情ひとつですべてを分からせてしまうほど。ホラーなのかラブストーリーなのかミステリーなのかSFなのか
ジャンルを絞る必要がないと思わせるほど、怒涛の展開が押し寄せてきて、読んでいてジェットコースターに乗っているような感覚になれます。

特に「何かを学ぶために読む」とかそういう本じゃないです。ただのエンタメ。かつ最高峰のエンタメ。

この冬「暇だなー。なんか読んでぞくぞくしたいなー」と考えている人はぜひ!

番外編:『愛、執着、人が死ぬ』



「あなたが死んでくれたら、きっと私は安心すると思う」 あの日、遺書を残して先生は死んだ。 僕の人生において、極めて稀で、最も危険な恋。 「愛してほしい」よりも強い感情。 それは 「嫌われたくない」という執着。 アタロー、夏夜、先生、椎子。 支配、逃避、希望、愛の果てに4人が見たものは。

出ました拙著!小説家が自身の作品を紹介するためだけのこの記事!
なんというエゴイズム🖐️ まあまずは著者がだらだらと良いポイントをおすすめするよりもレビューをいくつか覗いてみましょう。

とまあ、なんて感度の高い語彙力の高いレビュー!ありがとうございます…
なんて心優しい方々…一生感謝します本当に…ありがとう🙇

制作は2022年10月からスタートし、2023年2月に書き上げました。
この頃の私はひたすらに精神状態が悪く、眠れない、起きていても希死念慮に苛まれる、人間関係も閉鎖的、という真っ暗闇のような状態でした。

ただ、そんな状態だからこそ書けた作品だと、今振り返っては感じています。

人間、生きていていつもどんなときでも幸せなわけじゃない。法律では禁止されているようなことをギリギリしないでいられているだけ、な状態なこともある。

生きている分には”まともな人間”として振る舞えているけれども、その裏側では決して口にできないような言葉で人を罵ったり、人道に反した行為をいとも簡単にやれちゃったりする精神状態なこともある。

私たちが見ている”普通”ってものは、案外脆くて薄っぺらな”見せかけの普通ごっこ”なのかもしれないね

という思いを持ちながら書いた作品です。

主人公のアタローも、彼の恋人の夏夜も、社会では誰にも迷惑をかけず慎ましやかに暮らしています。彼らとすれ違った誰もが、「こいつらのことを小説に書いたらきっと面白いぞ!」なんて気になるはずがないくらい、社会に溶け込んでまともに暮らしています。

まともなフリだけが上手くなっていった彼らは、実は私であり、あなたなのかもしれません。

まだお手にとっていないあなた、この年末、移動時間にでも読んでみてください。感想もお待ちしております。

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