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パスタピープルの浪漫

2008年、16年前の春はとにかくパスタを作っていた。それも徹底的にペペロンチーノを。

今年で35歳。けれど僕も男子大学生だった時代もあった。もう16年前のこと。当時始めての一人暮らしを始めた僕は、火口が2つの、まな板を置く場所が無いシンクとコンロが隣り合わせのレオパレスに住んでいた。

もちろん自炊をするのもほぼ初めてで、近くの生協に買い物に行った時にカレーに入れる鶏肉はもも肉が良いのか、むね肉が良いのか母親に電話して聞いたこともあるくらいだった。

何も知らない男子大学生の一人メシ。そんなスタートだったけれど、北海道から一人飛び出した大学生には野望があった。

「美味しいパスタを、作れるようになりたい」

理由は簡単だ、パスタを作れる男子になれたら、なんかモテるような気がしたから。中学1年のときにギターを始めた時と全く同じ下心だったが、当時はとにかく美味しいパスタを作れるようになりたい、そればかりを追い求めていた。

ソースで誤魔化すことは出来る、けれど本当に美味しいパスタとは…シンプルかつ素材の旨味が引き立つような、そんなパスタなのだろうと思い、ひたすらペペロンチーノを作っていた大学はじめの頃だった。

ペペロンチーノは奥が深い。オリーブオイル、塩、唐辛子、にんにくだけで仕上げる。ギターのFコードを綺麗に鳴らすように、美味しい焼酎の水割りを作るように、ペペロンチーノを作ることが、全ての道の始まり、それを信じてひたすらパスタを茹でていたような気がする。

最初は美味しくできる訳もない。ただ茹でたパスタにニンニクが入って、唐辛子がピリリと辛くて、油っぽい、そんなペペロンチーノをたくさん食べたような気がするけれど、「乳化」について知ったり、オリーブオイルと塩とニンニクのクオリティによって圧倒的に旨味が変わることだったり、ペペロンチーノは多くを教えてくれた。

パスタはニンニクの風味をいかにオリーブオイルに最初の段階で移すかが大切なのか、を大学時代のレオパレス一人暮らしペペロンチーノ制作委員会は教えてくれた。未だにパスタ作りはニンニクは大切にオリーブオイルでソテーするところから始まる。

皆さんはペペロンチーノ、作りますか。その時のニンニクのカットってどうしてます?

ニンニクみじん切り派、ニンニク包丁の腹で潰す派、そのままゴロンとソテーして火が入ったらトングで潰す派、いろいろな派閥がこの地球上に存在することが昨今の研究によって明らかになってきました。これは僕も答えが分からずにいる一つの課題であります。それだけペペロンは奥が深い。

今日は妻が上野で飲んでくる、と言うので一人買い物もせず家に帰り、サッポロビールでも飲みながら適当に冷蔵庫にある食材で料理でもするかぁ、なんて思っていたらふと大学時代のパスタピープルの時代を思い出したので、今日はビールを飲みながらキッチンで丁寧ペペロンチーノ作りを愉しむ夜となりました。


今日はニンニクゴロリとオリーブオイルでソテーして、火が入ったら潰すスタイルでやってみました。
冷蔵庫にいつか鰹節と炒めてふりかけにしようと思っていた大根の葉っぱがあったのでぶち込み。
仕上がりさん。

妻と暮らしていてパスタはよく一緒にやりますが、シンプルなペペロンチーノはなかなか食べないもの。今日は一人大学時代の思い出に浸りながらパスタを食べたいな、と思ったのでシンプルペペロンと黒ラベルな夜になりました。

決して彩り鮮やかでもなく、凄まじい感動が有るわけではないけれど、まるでもり蕎麦を食べながらゆったりやるような、そんな時間がペペロンチーノとの時間にはあるような気がします。そもそも丁寧に作るのが楽しい。

久しぶりに丁寧に作った一人ペペロンチーノ。にんにくは青森産、塩は沖縄産の海塩で。パスタはディ・チェコで。大学時代は中国産の98円のにんにくで、塩はアジシオ、パスタはマックスバリュの安いパスタだったっけ。あの時は感じられなかった美味しさを社会人になって良い食材を買えるようになり、感じられるようになった。それだけで今日も仕事を頑張って良かった、そんな気がします。

美味しいペペロンチーノが作れるようになると色々とトマトパスタ、その他のオイル系パスタ、クリーム系パスタと応用が効くようになります。たまには原点に帰ってシンプルなペペロンをトライしてみる夜は、なんだかレオパレスの狭いキッチンに立ったような気がしてとても興奮する夜でした。

ここで有名な言葉を一つ、紹介します。

「ペペロンチーノの美味しさの8割が想像することで決まり、残りの2割は如何に素晴らしい食材を選び抜けるかだ」
チェーザレ・ピエトロ・グアリーノ 1768-1792, シチリア皇帝の専属料理人

という適当に「イタリア人 名前」とwikipediaで検索した名前を組み合わせて勝手に僕が作り上げた架空の料理人の名言にもあるように、ペペロンチーノは僕にとって奥深い料理なのです。たまにはペペロン、やってみるのもいいかもね。

次回は最近激しく仕事で沖縄出張に行きまくった人がお土産で買っていく物がもうなくなり、塩ばかりを妻に買って帰った結果大量の塩屋敷になり、その塩を使い分けているどうしようもないキッチンドランカーおじさんの話をしてみようと思います。

あ、そういえばある程度美味しいパスタは大学生活で作れるようになった、と自負していましたが、別にモテることにはなりませんでした。合掌。

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