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人間相互の差異、相違を強調するナショナリズムよりも普遍的な愛こそが求められる

「宗教は問題ではない。善き人生を送るならば神の祝福があるだろう。ムスリム、クリスチャン、ユダヤ人は同じ神を信仰する。我々は異なる方法で神に奉仕しているのだ。」―モハメド・アリ("Muhammad Ali's Complicated Relationship With the Jews," Haaretz, June 4, 2016.)

 アメリカのボクサー、モハメド・アリは、2005年にスーフィズムの信仰をもつようになったが(イスラムへの改宗は1964年)、アリが属したスーフィ教団を興したのは北インド生まれの神秘主義者のイナーヤト・ハーン(1882~1927年)だった。イナーヤト・ハーンは「我々は異なる名称、異なる形態で一つの宗教に帰依している。異なる名称や形態の背景には同じ精神や真理がある」と説いた。冒頭のアリの言葉と通じるものがあるが、アリは神を信じる者は皆家族の一員のようなものであると述べている。1970年代からパレスチナ人を支援する活動を行ったアリは宗教が問題なのではなく、パレスチナ人と敵対するシオニズムのイデオロギーだと語ったことがある。(同上)

私の人生最大の特権は平和と愛のメッセンジャーとなったことだ―モハメド・アリ https://twitter.com/MuhammadAli/status/1649405220894687232


 世界の平和を力によってではなく、人々が心の中に神の愛を感じ、また自我を否定することによって平和を築こうとするのがスーフィズム(日本ではイスラム神秘主義などとも訳される)だ。スーフィズムの根幹にある精神は中庸と寛容(愛)と、日本で信仰される仏教の教えにもひじょうによく似ていて通底するものが大いにある。

 スーフィズムは神の愛を強調しながらも人間相互の差異、相違よりも普遍性や一体性を重んじる。

 ビートルズの楽曲「All You Need Is Love (愛こそはすべて)」はジョン・レノンが作ったもので、ビートルズのベトナム戦争反対の想いが込められていた(ウィキ)。イントロにはフランス国家の「ラ・マルセイエーズ」が使われているが、ジョン・レノンにはフランス国歌に表現される好戦的ナショナリズムを皮肉る意図があったのだろう。フランス国歌の歌詞には

「国民すべてがお前達を迎え撃つ兵士なり
たとえ我等の若き戦士が倒れようとも
大地が再び戦士等を生み出すだろう
戦いの準備は整った」

などの表現が見られ、フランス革命の直後の1792年、オーストリアなどの革命に対する干渉がある中で作られ、軍事的な響きをもち現在まで歌い継がれた。この国歌が植民地主義の追求の中でフランス人の愛国心を高揚させたことは間違いない。フランス革命と、敵に囲まれるような環境の中で国家づくりを行ったやはりナショナリズムであるシオニズムには通底するものがある。

 フランス国歌との対比の中でビートルズの「All You Need Is Love (愛こそはすべて)」は、All you need is love, all you need is love All you need is love, love, love is all you need All you need is love All you need is love, love, love is all you need
君が必要なものは愛、君が必要なものは愛さ
君が必要なものは愛、愛なんだ、愛こそすべてさ
君が必要なものは愛
君が必要とするのは愛、愛なんだ、愛こそすべてさ

ビートルズ 「愛こそすべて」 https://americansongwriter.com/the-top-20-beatles-songs-11-all-you-need-is-love/


 イスラム統治時代のスペインではクリスチャンもユダヤ人も、聖典を共有する、コーランに説かれる「庇護民」として扱われ、一切の権利をはく奪されるようなことはなかった。イスラム・スペインのユダヤ人とイスラムの文化の相互作用には深遠なものがあり、11世紀までにたいていのスペインのユダヤ人たちはアラビア語を話し、ユダヤ教の寺院であるシナゴーグはイスラム建築を模倣して建立された。キリスト教の芸術が人間の姿を描く傾向があるのに対して、イスラムとユダヤ教のそれは草花や文字を多く取り入れて描かれたが、シナゴーグの絨毯もムスリムの礼拝用のマットに倣ってつくられた。

 アンダルス(イスラム・スペイン)出身のイスラム神秘主義思想家のイブン・アラビー(1165~1240年)は人間の生命の尊重を次のようなエピソードとともに説いている。

ダヴィデは神殿の建築にとりかかったけれども、
神殿は常に倒壊し、決して完成されることはなかった。
ダヴィデが神に訴えた時、神は次のような啓示をダヴィデに下した。
「私の神殿は血を流した者の手によっては建てられない。」
ダヴィデが、「しかし、私はあなたの為に殺したのです。」と言うと、
神は、「確かにその通りだ。しかし殺された者たちも、また私の僕ではなかったのか。」とお答えになった。
(竹下政孝「スーフィズムと人間の尊厳性」より)

キャラバンがどの方向に向かおうとも、愛の宗教を信じる。愛は私の宗教であり、私の信条である。 ―イブン・アラビー https://www.pinterest.jp/pin/745556913327440297/


 ガザで多数のパレスチナ人の犠牲をもたらし、人間相互の差異ばかりを強調し、平和を希求しないイスラエルの極右には神の裁きがあるかもしれない、科学者のアインシュタインは、ユダヤ人を数千年にわたって結びつけてきたものは民主的な社会正義の考えであり、それは相互扶助と寛容の理念にも基づくものであると述べたが、異教の者たちに対して社会正義、相互扶助、寛容の姿勢で接するべきと1938年に述べている。アインシュタインはまた、1929年にシオニズムの指導者ハイム・ワイツマン(イスラエル初代大統領)に「ユダヤ人にとって必要なのはアラブと共存することであり、それができないのであれば、我々は2000年の苦難の歴史から何も学んでいないことになる。」と語った。

ジョン・レノン Remember Love https://tower.jp/article/news/2020/12/07/tg007

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