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ヴィクトル・ユーゴー、ボブ・ディランとイスラム神秘主義、公正・平等の普及

 フランス・ロマン主義の作家・詩人のヴィクトル・ユーゴー(1802~1885年)は、イランの教訓文学と抒情詩人のサーディー(1210頃~92年頃)に強く傾倒していた。彼が26歳の時に書いた『東方詩集』の最後の詩の「十一月」に次のようなサーディーの詩が紹介されている。

私は彼に言った、庭のばらは知らるる通りわずかな命、

ばらの季節は、まことにすみやかに去ってしまったのだと。

                      -サーディー

https://www.creema.jp/item/15194197/detail

 このサーディーの詩は、イラン詩の中にしばしば取り上げられる無常観を表現しているが、ユーゴーは若い時から社会正義の問題を取り上げ、抑圧された人々に対する同情を示し、また死刑制度に反対した。ユーゴーの代表作『レ・ミゼラブル』には社会の矛盾や圧政、制度や慣習の中で貧しさや飢えに苦しむ人々に対する同情、また民衆を苦しめる制度や慣習を打破しようと戦う姿勢も見てとることができる。

強き腕と指先の力もて

か弱き貧者の掌をくじくは罪なり

人々に正義を施せ 

汝もし正義を与えざれ ばむくい受ける日ありなん

―サーディー『薔薇園』(沢英三訳、岩波文庫)

 ノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランもイスラム神秘主義の影響を受け、雑誌『ローリング・ストーン』のインタビューの中で、「私の音楽はイスラム神秘主義から生まれたものだ」と語っている。イスラム神秘主義は神への愛を重視し、愛によって人間を解放し、救済しようとする。

https://twitter.com/CarpeDiemMarco/status/1356366129728520197

 ディランの社会正義の考えは、ユダヤ教の聖典である旧約聖書や、活動していたニューヨークの左派の活動家たちに影響されたものだ。彼は、大企業が支配する経済、不平等で、軍国主義的、人種主義的な考えが横行するアメリカに反発した。ユーゴーもディランもイラン詩の無常観の世界に共感しながら、またイランなどイスラム世界で伝統的に強調される公正や不平等の是正を訴えた。

 ユダヤ人が信仰するユダヤ教もまたイスラムと同様に日本人にはあまり縁がない宗教だが、「社会正義」を重視する宗教であり、この点でもイスラムの教義に似通った部分がある。

 同志社大学で、エジプトのアイン・シャムス大学のモハメド・ハワリー教授が行った講演の中で、「ヘブライ語のツェダカーは英語のチャリティ、アラビア語のサダカに相当する語であり、収入の10分の1を貧しい者に施すユダヤ教徒の義務のことである。ユダヤ教において社会正義は中心的位置を占めている。」と述べている。

 ボブ・ディランの社会正義の考えは、ユダヤ教の正典である旧約聖書や、活動していたニューヨークの左派の活動家たちに影響されたものだ。彼は、大企業が支配する経済、不平等で、軍国主義的、人種主義的な考えが横行するアメリカに反発した。

 1960年にニューヨークのイースト・ビレッジの「ビアティチュード運動」を育てていたコーヒーハウスで活動するようになった。作家ジャック・ケルアックなどがけん引役であった「ビアティチュード運動」はビバップやジャズ、さらにはオマル・ハイヤームのルバイヤートなどによって影響され、「ニューヨークのアンダー・グラウンド社会で生きる非遵法者の若者たち」、すなわち「ビート・ジェネレーション」の人々などによってけん引されていた。

 イスラエルのガラント国防相は4日、戦後のガザの治安はイスラエルが担い、復興には多国籍軍が関わることになると述べた。イスラエルはガザの破壊の限りを尽くしたのだから、再建や復興もイスラエルが責任をもたなければユダヤ教の社会正義の考えに背くことになる。これまでもイスラエルが破壊し、復興は国際社会が担い、イスラエルはいとも簡単にまた破壊してきた。イスラエルが構想する多国籍軍とは、日本の自衛隊も含まれているのだろうか。政治家はイスラエルがアメリカの同盟国だからといって安請け合いされては困る。



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