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デュア・リパは「反セム(ユダヤ)主義者」ではない ーイスラエル批判と「反セム主義」は違う

 ユダヤ教正統派ラビのシュムリー・ボアテックは、2021年5月22日に「ニューヨーク・タイムズ」にパレスチナ人の権利を支援したという理由で、イギリスのシンガーソングライターで、モデルのデュア・リパ(当時25歳)が反セム主義者であるという意見広告を出した。デュア・リパは東エルサレムの「シェイク・ジャッラを救え」などのスローガンをツイートしていた。

 ボアテックは、トランプ前大統領の熱烈な支持者で、イスラエルの入植地拡大に賛成の声を上げている。

 デュア・リパは直ちにこのボアテックの主張を否定し、自らを反セム主義者ではないことを強調した。デュア・リパの両親は旧ユーゴ・コソボの首都プリシュティナの出身で、「デュア」には「祈る人」の意味がある。

 「反セム主義」という言葉はイスラエルの国際法違反の行為を非難すると、必ず返ってくる言葉で、ユダヤ人迫害を行ったナチス・ドイツの政策を象徴する言葉として使われている。

 哲学者のハンナ・アーレントは、ユダヤ人の人気が上がったからとかではなく、ヒトラーの残酷なホロコーストや、イスラエル初代首相のデヴィッド・ベングリオンやイスラエルの多くの人々が「反セム主義」でユダヤ人がガス室や人間石鹸に至ったと強調しているせいで、「反セム主義」は永久ではないにしても、当分の間、まったく信用を得られなくなったと述べている。

 パレスチナ人の人権擁護を訴えることが「反セム主義」でないことは言うまでもない。アメリカのユダヤ人哲学者のジュディス・バトラーは、イスラエルの国家的暴力と人種差別を批判し、「反セム主義」というレッテルを一部のイスラエル人などから貼られているが、彼女がイスラエルを批判するのは、ユダヤ人としての社会正義の価値観からだと述べている。彼女は、イスラエルの占領と植民地支配の終焉させる前提として、イスラエル・パレスチナの同等な権利、パレスチナ人の民族自決権を実現しなければならないと訴え、イスラエルとパレスチナが平等や正義を達成するには、パレスチナ人の土地所有の権利を確立し、土地の再分配を実行しなければならないと述べている。

ユダヤ人哲学者ジュディス・バトラー ユダヤ人は言う「ガザよ、生きよ」 https://twitter.com/bdsjapan/status/1060871910282522624

 2020年7月に言語学者のノーム・チョムスキーは、イスラエルを批判することや、パレスチナ人を支援することが「反セム主義」という汚名を着せられることになり、この「武器」がイスラエルのガザ攻撃を激しく批判した前イギリス労働党党首のジェレミー・コービン氏に対する下品で、欺瞞に満ちた「反セム主義」の誹謗中傷となったと述べている。

イスラエルの不均衡な攻撃は戦争でなく、殺人だ ―ノーム・チョムスキー https://www.pinterest.jp/pin/556898310178129113/


 アーレント、バトラー、チョムスキーは皆ユダヤ人だが、オーストリア生まれのユダヤ人哲学者のマーティン・ブーバー(1878~1965年)は、ドイツの「反セム主義」によってフランクフルト大学の教授の任を解かれ、エルサレムのヘブライ大学に移っていったが、ユダヤとアラブの対話こそが肝要であり、パレスチナに創設する国家はユダヤ人とアラブ人が主権と統治を共有すべきことを訴えた。現在、アラブとの対話を拒絶するイスラエルこそ「反セム主義」の本質をもっていると言えないか。

マーティン・ブーバー  ウィキペディアより

アイキャッチ画像はデュア・リパ
https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/24964

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