見出し画像

ダークダックスが歌った反戦・非戦の歌 ともしび、カチューシャ、ベッラ・チャオ(さらば恋人よ)

 ダークダックスのメンバーだった遠山一(はじめ)さんが亡くなった。遠山さんはこの男声4人コーラスのバスを担当し、「ゾウさん」の愛称で親しまれていた。他の3人のメンバーは2010年代に亡くなり、昭和の時代がまた一段と遠くなったような感慨がある。

私は歌声喫茶の世代に乗り遅れました https://www.teichiku.co.jp/.../life-and.../2023/D-D805.html


 ダークダックスは1956年にロシアの歌「ともしび」を歌い、大ヒットし、1958年の紅白歌合戦で歌った。「ともしび」は前線に送られる兵士と少女の別れを表現したものだ。1955年にこの歌のタイトルと同じ「ともしび」という歌声喫茶も新宿で開店し、歌声喫茶の「ともしび」は、歌うことで日本の学生運動や労働運動の連帯を生んだ歌声運動のシンボル的存在となった。「ともしび」は日本の歌声喫茶で盛んに歌われたが、作詞はミハイル・イサコフスキーが1942年に発表したもので、日本語の訳詞の一部は下のようになる。曲は歌われていくうちに現在のような曲になり、「ロシア民謡」というわけではない。

夜霧のかなたへ
別れを告げ
雄々しきますらお
いでてゆく
窓辺にまたたく
ともしびに
つきせぬ乙女の
愛のかげ

 ソ連時代に流行した「カチューシャ」は日本でもダークダックスが歌い、1959年の「紅白歌合戦」では森繁久彌が歌うなど親しまれたが、カチューシャ(エカテリーナの愛称)という名前の娘が出征する恋人を想い、歌う姿を描いた曲で、詞の情景・情感は「ともしび」と重なる。下はロシア語の歌詞からの訳である。

http://www.worldfolksong.com/songbook/russia/katyusha.htm

咲き誇る林檎と梨の花
川面にかかる朝靄
若いカチューシャは歩み行く
霧のかかる険しく高い河岸に
カチューシャは歌い始めた
誇り高き薄墨色の鷲の歌を
彼女が深く愛する青年の歌
大事にもってる彼からの手紙

 作家の瀬戸内寂聴さんは、「愛する人と別れること、愛する人が殺されること。それが戦争です」と語るが、カチューシャの歌が歌われるところからも、現在ウクライナで戦争を行うロシアでもその感情が共有されてきたことがわかる。

 昨年4月25日、イタリアでは77回目の「解放記念日」が祝われた。ロシアのように「戦勝記念日」ではなく、ファシスト政権の打倒とナチス・ドイツの占領を駆逐したパルチザンの勝利を祝うものだ。セルジョ・マッタレッラ大統領は、第二次世界大戦中のイタリアと、ロシアによる侵攻を受けるウクライナを比較しながら、パルチザンの抵抗の歌「ベッラ・チャオ(さらば恋人よ)」を思い出すと述べた。この歌はイタリアでは国民的歌唱曲になっているが、日本ではダークダックスなどが歌った。

 ダークダックス版の歌詞は下のようになっていて、歌の動画は、

https://www.youtube.com/watch?v=MpkrJ9tpMvY

にあり、きれいなハーモニーで歌われる。
ある朝 目覚めて
さらば さらば 恋人よ
目覚めて 我は見ぬ
攻め入る 敵を
我をも連れ行け
さらば さらば 恋人よ
連れ行け パルチザンよ
やがて 沈みぬ

 ダークダックスの歌は、アルバム「ヤッホー!ヤホホー!山の歌集」の中に「さらば恋人よ」として収められていて、iTunesストアでは同アルバムの中では一番人気がある。この歌のようにイタリア・パルチザンの戦場は山岳地帯が多かった。

 パルチザンが否定したファシズムは国粋主義、社会政策を強調して、中間層、農民に支持基盤を求め、暴力的に人権を否定するのが特徴だ。イタリアでは、パルチザンによるファシズム(イタリアのファシスト党やナチス・ドイツ)の打倒が自由や平和をもたらしたと考えられている。

 イタリアでは「ベッラ・チャオ(さらば恋人よ)」は、日本でも知られる歌手のミルバなどによっても歌われたが、ジャーナリストの伊藤千尋さんによれば、ミルバは平和や自由を主張し、核廃絶など軍縮も訴える人だった。
(伊藤千尋「歌い継がれるパルチザンの魂 それは恋の歌~『さらば恋人よ』イタリア」『論座』2021年7月26日)(ミルバの歌の動画は、

にあり、イタリア人らしい迫力と力強さで歌われる。)
 早乙女勝元さんは、第二次世界大戦中の日本とイタリアの相違について早乙女さんは次のように語っている。
 「ファシズムの一員だったイタリアが、ムッソリーニを倒して、第二次大戦が終わるときには、連合国の側に加わっている。戦争への国民の大規模な抵抗があり、ムッソリーニの政権内にも、もう戦争を止めようという動きがあった。日本にはなかったことです。」(東京民報2020年7月12日号より)いまの日本は防衛費倍増で世界第三位の軍事大国なろうとしているが、それを止めようとする動きは顕著に感じられない。岸田首相が「適温経済」を提唱する中で、日本には防衛装備品よりも国民の福利のために優先順位が高いものはいくらでもあるだろう。


紙芝居「三月十日のやくそく」を刊行した早乙女勝元さん=東京都内 https://digital.asahi.com/articles/ASP324WRFP31UTFL00G.html


アマゾンより

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?