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10年前の読書日記14

2013年12月の記

 今月は取材で阿蘇に出かけて、その間じゅう伊藤礼『大東京ぐるぐる自転車』(東海教育研究所)を読んでいた。伊藤礼氏のエッセイは、『こぐこぐ自転車』(平凡社ライブラリー)を、たまたま書店で見かけて読んで以来、すっかりファンである。

 氏は大学教授を退官してから自転車にハマり、老体に鞭打ってあちこち出かける。これ以外にも『自転車ぎこぎこ』(平凡社)があって、それはまだ読んでいないんだが、一応の3部作となっているようだ。

 この人の面白さは、とにかくすっとぼけた文体である。
 どっかんどっかん爆笑できるというよりは、クスリと笑える言い回しが随所に散りばめられ、話は次々に脱線するし、自転車6台も持ってるし、なんとも面白い老人というか、現代版内田百間と呼んでも差し支えないだろう。
 最新刊は『耕せど、耕せど』(東海教育研究所/のちにちくま文庫より『ダダダダ菜園記』として文庫化)で、これは自転車を耕運機に乗り換えたその後の家庭菜園生活を書いたもので、傘寿を迎えてもユーモアは健在。ぜひともますます長生きされて、アホアホなエッセイを書き続けてもらいたい。

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 読者がこれを読んでるのがいつなのかは知らんが、私が書いているのは、2013年の大晦日である。大晦日にまで働いているのは、新年早々用事が詰まっているからで、というとまるで売れっ子作家のようだが、そうではなく、息子の所属するサッカーチームでのDVD作りや、町内会書記の仕事、さらには、やがて来る青色申告の膨大な作業量に今から怯えているなど、さまざまな要素の複合によるものなのである。

 読者には今さらかもしれんが、私には2013年はまだギリギリみずみずしく、今こそ今年読んだ本ベスト10でも書かんとする勢いなのであるが、悲しいかな、今年(読者には去年)はあまり本を読んでいないのだった。忙しくて本を読む時間がなかったのである。

 なんとなくの予感であるが、これは今年だけのことでなく、来年(読者には今年)も、再来年(読者にはぶらぶら)も、そのまた次の年(読者にはぶらぶらぶら)も似たような事態が繰り返されそうで恐ろしい。

 先月、アベノミクスのせいか仕事が3割増しになったけど収入は1割り増えただけ、と書いたが、この先同じ比率で増加していくと、来年か再来年ぐらいには過労で死んでしまうに違いない。

 さらにそういえば、ひとつ書くのを忘れていた。収入1割増、仕事量3割増のほか、物価も1割増である。メリット全然ないぞ。
 そんなわけで、ほとんど本を読めていない。
「ひるね優先読書録」と銘打ちながら、全然読書していないのは問題だ。まあ、昼寝のほうは毎日しているから、かろうじて半分は公約を死守しており、読者もぎりぎり納得してくれると思うが、そうはいっても何か役に立つ情報をこの場で発表したいから、本のかわりに去年拾った石ベスト3を発表しようと思う。
 さっそくいこう。第3位は、北海道は大安在浜で拾った、マメ型の石。

 一見何の変哲もないようだが、しっくりと手に収まる大きさと形が心地いい石。黄瀬戸のような柔らかな色合いも秀逸。誰もが手でニギニギ(握握)したくなるのは確実で、2014年に拾うべき石の典型として読者の人気を集めそうな、賞で言うなら直木賞タイプの石である。
 第2位は、茨城県の大洗で拾った、ジャスパー。

大洗にて拾った石

 形は凡庸だが、さまざまな色が絡み合ってきれい。拾ったままでは、白く濁った印象があるが、磨けば中が透けて奇跡的に美しくなることは間違いない。全体に透けて見えるダイヤモンドなんかより、一部だけ透けて他の部分がカラフルなこういう石のほうがかっこいい。幻想的でやや屈折感のある魅力は、谷崎潤一郎賞タイプ。
 そして栄えある第1位は、福岡県の夏井浜で拾った、ビッグバン石。

 これを拾ったときは、ついに出会えたという感動で胸がいっぱいになった。太陽系とか超新星爆発とかビックバンの様子をあしらった石。世界にたったひとつしかないと言われる(石はどれもそうだが)。自然の力でこんな不思議な模様が現れるとは! 今後、あらゆる石は、ビッグバン石以降として語られることになるだろう。ネビュラ賞タイプ。

 というわけで新春ならではベスト3企画であった。誰もが欲しくなる石ばかりだったと思う。来年はさらにグレードアップし、ベスト10までお届けしたい。
 え? どうだっていい?
 どうしてかな。
 全然わかっていないみたいだけど、2014年は、石拾いブームがくるんだよ。今年は、本の雑誌も、本と石の雑誌に改名を予定しているとかいないとか。
 何? ブーム来るわけない?
 ええい、うるさいうるさい、そうやってバカにしてるうちに、時代に取り残されても私は知ら


2014年本の雑誌より転載

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