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10年前の読書日記9

2013年7月の記

 あんまり暑いので、自宅から徒歩15分の仕事場まで、Tシャツと短パンで通っていたところ、近所のおばあさんに「海行くんかい?」と訊かれる。
 海ではない。仕事である。

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 町内会の七夕祭りでイベント司会を担当。
 講演とかトークイベントはできる限り遠慮したい私であるが、司会は平気である。同じ人前でしゃべるのでも、自分が主役の講演やトークイベントと違って、司会は脇役だから、ボケなくていい。ああいうものはボケようウケようと思うから失敗するので、ボケは他人に任せ、自分はツッコミに徹するとうまくいくようである。

 というわけで七夕祭り、つつがなく終了。
 想像以上にたくさんの人が来てくれて盛り上がり、やった甲斐があった。
 ただ、翌日、選挙の投票に行くと、すれ違う知らない人に何人も目礼され、面食らった。なかには「あ、昨日の司会の人だ!」と指差す子供もいたりして、広く顔を知られてしまったのは誤算であった。

 これまでは町を歩いていても、みな知らない人ばかりだったからよかったが、今後は、平日の人が働いている時間に、Tシャツ・短パンでぶらぶらするのは気をつけたほうがいいかもしれない。仕事してない人と思われる。そういう場合は、念のためシュノーケルマスクなどで顔を隠して歩こうと思う。
 とか言ってると、七夕祭りを見ていた息子のサッカーチームの親から、今度チームで行うパーティーでも司会をやってほしい、と抜擢される。
 本来の自分の仕事が何なのか、見失いそうである。

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 タナカカツキ『水草水槽のせかい』(リトルモア)を、買って読む。
 前々から水草水槽のことは気になっていた。水草水槽とは、水槽の中にミニチュア世界をつくる、いわゆる盆栽的、あるいは箱庭的な創作趣味で、近年急速に注目されるようになってきた(私に)。
 この本では、水草水槽に魅せられた著者が、実体験に則して、その世界観やコツを解説しているが、紹介されている世界コンテスト入賞作品の美しさに、惚れ惚れする。
 まるで水族館のようで、それでいて芸術的なので、盆栽は縁遠く思う人でも、これなら見て楽しめるだろう。ブームで終わらず、定番の趣味のひとつとして定着しそうな予感。
 できれば次は、写真集を出してほしい。

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 そういえば、またしても新しい連載の話がきて、大変ありがたい。ただ、旅行連載ということで、すでに動いている連載、企画中の連載を含めると、年中旅行だらけになりそうである。
 旅行自体は好きだからいいんだけども、懸念されるのは、原稿を書くヒマがあるだろうかという点。ざっとスケジュールを考えてみれば、もはや移動中に書くしかないような状況だ。

 作家のエッセイなどを読むと、そうやって移動中に原稿を書く話がたまに出てきて、実にご苦労さんなことであった。移動中に資料を読むぐらいのことなら私もするけれど、原稿を書くなど考えたこともない。
 具体的には、飛行機と新幹線での移動中に書くことになるのだろうか。
 しかし飛行中は航空機事故から身を守るのが精一杯で、仕事どころではないし、新幹線は楽しいから読書したい。

 こらこら、そこだそこで働かんかいという声が今聞こえたが、私の場合は旅行してそれを原稿に書くのだから、移動しているときもすでに仕事中なのであり、そこで書くとなれば、仕事中に仕事するみたいなおかしなことになる気がする。旅行中に他の旅行記を書くなんて、手術されながら同時に他人の手術するみたいな、異様な事態ではあるまいか。
 そんなわけで移動中に原稿書きたくない。
 旅行だけして原稿料もらうのはどうか。

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 休刊した雑誌『旅行人』の編集長、蔵前仁一さんの新刊『あの日、僕は旅に出た』(幻冬舎)の出版記念パーティーがあり、神楽坂まで出かける。
 この本は、蔵前さんの自伝であり、雑誌『旅行人』の立ち上げから休刊までの経緯もみっちり書かれている。

 私も連載を書かせてもらっていたので、後半は、そうだったそうだったと思い出しながら読んだ。
『旅行人』が活況だった頃は、そこらじゅうにバックパッカーがいた気がするけれど、今はどこにいるのだろう。ネットのどこかで、みんなで盛り上がっているのだろうか。
 仮にそうだとして、オフ会なんかやって、その場で、じゃあみんなで何かやろうってことになった場合、その盛り上がりはどんな形で昇華されていくのだろう。同志が集まったとき、彼らは何を目指すのか。

 雑誌を作るという選択肢はもう難しそうである。もちろん雑誌がすべてじゃないにしても、何かやろうって情熱の持って行きどころは、今どうなっているのか。気になる。

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 家の玄関の軒下にアシナガバチの巣が出来かけていたので、ホースで水を噴射して駆除。さらに数日後には、台所の窓の軒下にも出来かけていたので、これは殺虫剤をジェット噴射して駆除。
 なんだか今年はハチが多いなと思ったら、次はアリが和室の畳の上を何匹も歩き回っていた。
 そういえば、今年は家の前を流れるドブ川のザリガニも豊漁である。


本の雑誌より転載

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