見出し画像

70 負けてきた人生

 ふとカレンダーに目が入り、自分の誕生日が後一か月程でくるなと思った。特に何の楽しみもない僕にとって日付とは、ただ季節をはかるものになっていた。気づけば26歳になる。彼女もいないし、貯金もほぼない。未来に対する夢や希望なんてものもない。極端にいえば生きる理由などないけれど、死にたくはないと漠然と思っている。強いて生きる理由を挙げるとすれば親だけは悲しい思いをさせたくないという気持ちがある。

 そんな僕だって浮いた話がないわけではない。先日友人に女性を紹介してもらえる場面があった。その日の飲み会では、多少緊張もあって空回りもしたが、今持てる力を120%出したつもりだった。だが結果は僕が期待するものではなかった。その女性から連絡が返って来こない。どうやらお眼鏡に敵わなかったのだろう。また先日もう会わないだろうと思っていた女性にバーで会うことになった。凄く可愛らしい人で直球ど真ん中ストライクの方だったが、そのバーで僕は何故か興味がないふりをし、いざ話かければ気持ち悪い内容だったと、締めのラーメン屋で友人にボロクソ言われた。

 そんなこんなあって気持ちがネガティヴになっている僕は、何となく夜散歩をし始めた。歩いていると、頭の中が整理されてき、気持ちを切り替えれるからと思ったのだ。

 時刻は夜9時。玄関を開けると夜風が少し冷たく、一枚上着を羽織ろうかと思ったが面倒く感じそのまま家を出た。歩き始めるとネガティヴな事が頭をよぎる。また負けたなと。思い返せばこの人生いろんな事に負けてきた。初めて負けを経験したのは、幼稚園のかけっこだ。仲の良い3人で走ったのだが圧倒的にビリだったのを今でも覚えている。また思い返すのも嫌な記憶がある。小さい頃通っていたスイミングスクールで後から入ってきた女の子に進級を抜かされ、めちゃくちゃ馬鹿にされたことだ。この時の記憶は今でも鮮明だ。その女性も今では立派な母親だ。そんな嫌な事ばっかり思い返してると、気づけば公園についてた。

 始めて訪れた公園だった。遊具で遊ぶスペースに奥ではサッカーゴールが2つ並んでおり、小さい頃訪れてば最高の遊び場になってだろうなと思う。何の気なしに雲梯につかまり、渡ろうと思ったが、渡れたのは2つだけだった。こんなこともできないのかとまた気持ちが沈み、公園を後にする。

 歩き続けると、肌寒がった夜風が心地よく感じる程体が温まり始めた。そして僕は目的地もないままなんとなく走り始めた。

 走り始めると、体が重く、すぐに息が上がり立ち止まりそうになったが、次の信号まで走り切らないと、一生彼女ができないぞと何故か自分を追い込む。そしてその信号に着くと次はまた、あそこまでいかないと、貯金が一生できないぞ。とまた自分を追い込む。そんなこんなして追い込んでいると次は、あの信号で渡り切らないと、あそこまでいかないと。と次々に自分を追い込む。ひさしぶりの運動で脇腹は痛く、口の中では少し血の味がしてきた。

 そんなことしながら納得するまで走り切った後、ふと思った。あれ。やりたいこと沢山あるじゃんと。そして1つ気づいたことがある。

 沢山の出来事、人に負けてきたけど、一番負けてきたのは、自分自身だという事に。

 野球でレギュラーを掴みたいと思い、始めた素振りを三日坊主で辞めてしまう自分。物語を書こうと決めたのに、途中で辞めてしまっている自分。生きる希望ややりたい事があるのになんだかんだ言い訳しているのも自分。そうだいつも負けているのは自分自身じゃないか。

 この25年間で才能がないことも知ったし、女の子にもモテないことも嫌というほど知ったよ。
だからもうそれはいいや。

 だからせめて、僕自身にぐらいには、勝ってやろうじゃないか。生きる理由が沢山見つかった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?