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レチタティーヴォの歌い方(イタリア語編)

【序文】

"Recitativo(レチタティーヴォ) - 朗読の、暗唱の、叙唱調の"

その単語を耳にするだけで「オペラは歌いたくない」とか「蕁麻疹が出る」という方(特に音大生)は世に数多いるのではないでしょうか…。

かく言う僕もそうでした。

今思うと、声楽を勉強したての頃、ヴェルディやプッチーニが好き、なんて言っていたのは、レチタティーヴォに対するアレルギーの副作用だったのではないかとも思っています。

イタリアに渡ってからも、「イタリア人にとっても難しい」とか先生に言われると、まさか自分がイタリアの劇場で、レチタティーヴォのあるオペラに出演するなんて夢にすら思ったことがありませんでした。

しかし、多数のオペラに触れ、とくにロッシーニのオペラにハマるようになると、「オペラの中で本当に面白いのはレチタティーヴォではないだろうか」とまでも思うようになり、様々な勉強をする中で、レチタティーヴォの歌い方なるものが見えてくると、ヴェルディやプッチーニの作品も、レチタティーヴォの歌い方に則っていることがわかってきました。

自分自身がレチタティーヴォを極めたとは思っていませんが、ルールに則った勉強を続けた結果、稽古でも、本番でも、共演者からも、お客様からも「イタリア語のディクションがすばらしい」とか「あなたイタリア人ではなかったの!?」など、(歌に関してはともかく?!)発音に関しては必ずと言っていいほどの頻度で、称賛をいただくようになったのです。

自慢話がしたかったわけではなく、僕自身、いまだにレチタティーヴォには苦労をしていますが、少なくとも、こんな僕でも認めて頂けるようになってのですから、現在レチタティーヴォにアレルギーを持っている方など、どなたにでも、よりよいオペラライフを楽しんで頂きたい、出来るだけ高いステージに進んで欲しい、と自分の体験を元にしたレチタティーヴォの歌い方をまとめようと思った次第です。

この文章では、まず、レチタティーヴォに対する問題点を分析し、それから具体的にどのように勉強すればいいのか書いていきたいと思います。

ただ、学術的に研究したことではなく、自分の現在の専門である古典派からロマン派までの範囲において、自分が学校で勉強したこと、実践の中で考えたことを元に身につけたことを述べていきますが、WEBコンテンツのメリットを最大限に利用し、皆様からの質問やご意見なども取り入れながらアップデートしていこうと考えていますので、お役に立てていただければ幸いです。

(2020.03.11 横須賀中央にて)

【補足】「余計な説明はいいから、具体的にどうすんねん」という方は、目次より、"■いったんまとめ【歌うための下準備】"に飛んでください。



【レチタティーヴォはなぜ難しいのか】


同じ五線譜を使っているのに、どうしてレチタティーヴォは難いのでしょうか。

まず、歌う音符、単語が、いわゆる曲の部分よりも格段に多くなります。そして、それをいわゆる楽譜に書いてある通り、ソルフェージュ的に正しく歌っても、活躍している歌手が歌っている演奏と同じようになりません。


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(このような、わかりやすいリズムと音形で歌っていたのに)
⬇︎

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(急に音符と言葉が増えて「うえぇぇ」ってなる例)
- ベーレンライター社"Le nozze di Figaro"より

それだけではありません、いろいろな歌手が歌っているのを録音などで聴くと、それぞれが全然違う歌い方をしていて(少なくとも楽譜に書いてある音の長さとは全然ちがう)、

・どのような歌い方が正解なのかわからない

ということになってしまいます。楽譜通り歌っても全然違うし、しょうがなく、自分の好きな歌手の真似をしてみるものの、レッスンなどでは全然だめだと否定されてしまうと、もうどうしていいのかわからない。

つまり、

・どのように勉強をすればいいのか方針が見えない

ということが問題点なのです。

しかし、それはレチタティーヴォが、どのようなルールに則って書かれたものであるからを知らないから起こり得ることでしかありません。

それはまさに、大海原を航海するのに羅針盤もない状態で進んでいるようなものです。

次の項では、レチタティーヴォのルールを紐解いていきたいと思います。


【レチタティーヴォの正体】


ちょっとタイトルを大袈裟に書きました。
ここでは、レチタティーヴォが、どのようなルールに則って書かれているのでしょうか。

まずは基本のおさらいです。
レチタティーヴォは以下のルールで書かれています。
(ただし時代が進むとそのルールは崩れてきます)

(1)調号なし(調は臨時記号を使う)
(2)4/4
(3)イタリア語の詩の形式(7音節または11音節)

【一言】上手に歌う上で、特に重要なのが(2)(3)です。作曲家は詩の形式で書かれた台本を無理にでも4/4の拍子に当てはめなければなりません。そのため、ある程度近づけているとはいえ、どうしても喋っている台詞をその音符の長さで書くことができません。(厳密には可能かも知れませんが、楽譜が異様に読みにくくなるでしょうし、記譜法としてそのような書き方をしませんでした。)

また、レチタティーヴォに限りませんが、イタリア語の発音では、実際に表記されていないにもかかわらず、守らねばならないルールがいくつかあります。表記されていないので、楽譜を見ているだけではわかりません。

具体的には、

■表記されない読みのルール
①詩の形式として(韻律上)の正しい区切り
②"e"と"o"の開口、閉口
③Raddoppiamento fonosintattico(表記されない二重子音)

というようなものがあります。

イタリアの詩を歌にしているわけですから、歌唱の時にはそのルールから外れない範囲で、表現を考える必要があります。

また、

■正しく表現をするために
④内容の正確な理解

【一言】ここまでの内容はレチタティーヴォに限ったことではありません。しかし、この文章はレチタティーヴォについてのみ考えることにします。

また、前述の通り、楽譜通りの長さで歌うとおかしなことになりますので、

■表記されているけれど紛らわしいこと
⑤音符の長さと実際の読むスピードの違い

を理解しなければなりません。

それでは、上記のようなことを踏まえて、それでは、いよいよ具体的な勉強の仕方、歌い方を見ていきたいと思います。


■コツ・その1
【正しい台本から正しいフレーズ分けを知れ!】


みてみたいにょうぼがへそくりかくすとこ

この川柳を聞いたことはありますでしょうか。
改行をせず、句読点を振っていませんが、区切って読むとすれば、どこで区切って読むでしょうか。実際に音読をしてみてください。

おそらく、多くの方が、

みてみたい にょうぼがへそくり かくすとこ

と区切ったのではないでしょうか?
しかし、意味を重視して内容を区切ってみるとどうなるでしょうか?

みてみたい にょうぼが へそくりかくすとこ

の方がスッキリくると思いませんか?

その理由は明確ですね。日本人として、5・7・5のリズムに分けて読んでいる、と言うことです。

【補足】この例では字余りで5・8・5になっています

日本語の詩にこのようなリズムがあるのと同様、イタリア語でも、詩を読むときのリズム、と言うものがあります。そして、詩の形式で書かれたものは、詩のリズムの区切りが、意味としての区切りよりも重要視されることがあるのです。

日本人が5・7・5のリズムを知らないうちに身につけているように、イタリア人はイタリア語の詩の韻律を知らないうちに身につけているのです。

私たちに圧倒的に足りないのは"意味の理解"ではなく、"詩のリズム"なのです。それを理解することがイタリア語歌唱において、最も重要なことといっても過言ではないでしょう。

ここで一つ目のポイントです。

①レチタディーヴォの音節は7と11しかない!

イタリアオペラの台本は詩の形式で書かれています。詩の形式を理解すれば、その文章がどのような抑揚を持ち、どのような方向性を持っているかが理解できます。

有名な曲で見ていきましょう。

Non so piu cosa son, cosa faccio,
Or di foco, ora sono di ghiaccio,
Ogni donna cangiar di colore,
Ogni donna mi fa palpitar.

これはケルビーノのアリアですが、音節に分けていきましょう。

①Non ②so ③più ④co-⑤sa ⑥son, ⑦co-⑧sa ⑨fac-⑩cio
①Or ②di ③fo-④co, o-⑤ra ⑥so-⑦no ⑧di ⑨ghiac-⑩cio,
①O-②gni ③don-④na ⑤can-⑥giar ⑦di ⑧co-⑨lo-⑩re,
①O-②gni ③don-④na ⑤mi ⑥fa ⑦pal-⑧pi-⑨tar.

これは全ての重要なアクセントが9番目にあるため、十音節詩と呼ばれます。

【補足】韻律について詳しく知りたい方は 鈴木覺著 「イタリア詩を読むために」 などをお読みになるといいかと思います

イタリア語の詩はどのような音節であっても、最後から2番目のアクセントが最も重要になります。そして、十音節詩は必ず3、6、9番目にアクセントを持つと言うルールがあります

なので、曲の中では必ず音楽的なアクセントが置かれる位置に3、6、9番目の音節が来ることになります。実際に楽譜を見てみるとどうでしょうか(3、6、9番目の音節に赤丸をつけてあります)。

画像3

- ベーレンライター社"Le nozze di Figaro"より

どうでしょうか。見事に3、6、9番目のアクセントが1拍目または3拍目にきていますね。そうなるように台本作家と作曲家が曲をつくっているのですから、当然といえば当然なのです。

【補足】レチタティーヴォではない、曲の部分を歌うと、詩の形式を理解していないにも関わらず、それなりの形になりやすい、というのはそう言う理由です。

さて、レチタティーヴォについてですが、これもやはりオペラの台本ですから、詩の形式で書かれています。実際どのように書かれているのでしょうか?

有名なスザンナのアリア前のレチタティーヴォを見てみましょう。

Giunse alfin il momento
che godrò senz'affanno
in braccio all'idol mio. Timide cure,
uscite dal mio petto,
a turbar non venite il mio diletto!

さあ、これを音節に分けていきます。

①Giun-②se al-③fin ④il ⑤mo-⑥men-⑦to
①che ②go-③drò ④sen-⑤z'af-⑥fan-⑦no
①in ②brac-③cio al-④l'i-⑤dol ⑥mio. ⑦Ti-⑧mi-⑨de ⑩cu-⑪re,
①u-②sci-③te ④dal ⑤mio ⑥pet-⑦to,
①a ②tur-③bar ④non ⑤ve-⑥ni-⑦te il ⑧mio ⑨di-⑩let-⑪to!

七音節と十一音節の二つが出てきて、そろっていないからどうしましょうか…なんて思う必要はありません。

《レチタディーヴォの音節は7と11しかない!》

のです。

さて、十音節詩は必ず3、6、9音節にアクセントが来る、と言うことでした。七音節詩と、十一音節ではどうでしょうか?

実は、七音節詩と十一音節詩は、後ろから2番目に重要なアクセントがある、という以外はどこにアクセントを置いてもいいことになっています。(ただし、アクセントの位置は連続しません。)

【補足】アクセントの位置が自由なため、レチタティーヴォのような、物語が主に会話で進行していく部分には七・十一音節が使われます。すべてのフレーズのアクセントの位置が決められていたら、そのアクセントに合うような単語を無理やりにでも選ばなければならず、台本を作るのも一苦労、というか不可能に近いでしょうね。

では前述のスザンナのアリアはどこにアクセントが来るのでしょうか。

①Giun-②se al-③fin ④il ⑤mo-⑥men-⑦to
①che ②go-③drò ④sen-⑤z'af-⑥fan-⑦no
①in ②brac-③cio al-④l'i-⑤dol ⑥mio. ⑦Ti-⑧mi-⑨de ⑩cu-⑪re,
①u-②sci-③te ④dal ⑤mio ⑥pet-⑦to,
①a ②tur-③bar ④non ⑤ve-⑥ni-⑦te il ⑧mio ⑨di-⑩let-⑪to!

まず、後ろから2番目が重要なことは決定ですから、七音節の部分は6番目、11音節の部分は10番目にアクセントがきます(そしてそれが最重要)。アクセントを黒丸数字にしています。

①Giun-②se al-③fin ④il ⑤mo-❻men-⑦to
①che ②go-③drò ④sen-⑤z'af-❻fan-⑦no
①in ②brac-③cio al-④l'i-⑤dol ⑥mio. ⑦Ti-⑧mi-⑨de ➓cu-⑪re,
①u-②sci-③te ④dal ⑤mio ❻pet-⑦to,
①a ②tur-③bar ④non ⑤ve-⑥ni-⑦te il ⑧mio ⑨di-➓let-⑪to!

その他のアクセントはどうでしょうか。可能性としては、単語のアクセントがくるところがそのまま文のアクセントにもなりえますので、

❶Giun-②se al-❸fin ④il ⑤mo-❻men-⑦to
①che ②go-❸drò ④sen-⑤z'af-❻fan-⑦no
①in ❷brac-③cio al-❹l'i-⑤dol ❻mio. ⑦Ti-⑧mi-⑨de ➓cu-⑪re,
①u-❷sci-③te ④dal ⑤mio ❻pet-⑦to,
①a ②tur-❸bar ④non ⑤ve-❻ni-⑦te il ⑧mio ⑨di-➓let-⑪to!

【補足】2行目の④senにはアクセントがきません。なぜなら、その前の❸dròとアクセントが連続させられないからです。同様の理由で、3行目の⑦Tiにはアクセントがきません。

では楽譜を見てみましょう。

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- ベーレンライター社"Le nozze di Figaro"より

いかがでしょうか。すべてが1、3拍目にきたわけではありませんが、そのような場所でも細かい動きの中のぴったり2拍目(拍頭)などに来ることがわかります。

【深読み】"Timide"の"Ti"にアクセントが来ないと書いたのに1拍目にあることや、mioを1音節としたのに、2つの音符になっていることなどは、詩のルールとは違うことをモーツァルトが書いたと言うことで、そこに何らかの意図があると読み取れるでしょうか。しかし、ここではその程度の理解にとどめ、先に進みたいと思います。

さて、こうしてみてみると、レチタティーヴォは七音節と十一音節でできているのでアクセントの位置をいちいち探さねばならず、歌の部分に比べて理解するのが難しい!と思ってしまうかも知れませんが、そんなことはありません。

《楽譜を見れば詩のどの位置にアクセントがあるかがわかる》

ということです。

②Libretti d'opera italianiを使いこなせ!

ここまでわかれば、何を重要視すればいいかが少しずつ見えてきます。
七音節と十一音節の詩でできていることが分かり、最後から2番目の音節が最も重要なアクセントが来ることが分かっていますので、途中のアクセントを経て、最後から2番目の音節に向かって読んでいけばいいのです。

もう一度同じ詩を見てみましょう。

❶Giun-②se al-❸fin ④il ⑤mo-❻men-⑦to
①che ②go-❸drò ④sen-⑤z'af-❻fan-⑦no
①in ❷brac-③cio al-❹l'i-⑤dol ❻mio. ⑦Ti-⑧mi-⑨de ➓cu-⑪re,
①u-❷sci-③te ④dal ⑤mio ❻pet-⑦to,
①a ②tur-❸bar ④non ⑤ve-❻ni-⑦te il ⑧mio ⑨di-➓let-⑪to!

黒丸のアクセントを経て、❻と➓に向かって読んでいけばいいのですが、この詩が改行されずに、もし、このように書かれていたらどうでしょう。実際楽譜だけを見ると、そのように書かれていますね。

Giunse alfin il momento che godrò senz'affanno in braccio all'idol mio.
Timide cure, uscite dal mio petto, a turbar non venite il mio diletto!

七音節か十一音節であることはわかっているとして、一体これが何音節の詩だかわかるでしょうか?この詩はすでに分けたので頭に入っていることでしょうから、違う詩にします。

Tutto è disposto: l'ora dovrebbe esser vicina; io sento gente... È dessa... non è alcun... buia è la notte... ed io comincio ormai a fare il scimunito mestiero di marito...

これはフィガロのアリア"Aprite un po' quegli occhi"のまえのレチタティーヴォですが、最初の文を7または11ということで分けていきましょう。

《分け方・その1/最初のフレーズを11として分けてみる》
①Tut-②to è ③di-④spo-⑤sto; ⑥l'o-⑦ra ⑧do-⑨vreb-⑩be es-⑪ser
①Vi-②ci-③na; io ④sen-⑤to ⑥gen-⑦te...
①È ②des-③sa... ④non ⑤è al-⑥cun... 

分け方はこれでよろしいでしょうか?それとも、

《分け方・その2/最初のフレーズを7として分けてみる
①Tut-②to è ③di-④spo-⑤sto; ⑥l'o-⑦ra
①do-②vreb-③be es-④ser ⑤Vi-⑥ci-⑦na
①io ②sen-③to ④gen-⑤te... È ⑥des-⑦sa... ⑧non ⑨è al-⑩cun...

こちらが正解でしょうか?



実は、両方とも不正解です。

正解は、

《正しい分け方》
①Tut-②to è ③di-④spo-⑤sto; ⑥l'o-⑦ra
①do-②vreb-③be es-④ser ⑤Vi-⑥ci-⑦na io ⑧sen-⑨to ⑩gen-⑪te...
①È ②des-③sa... ④non ⑤è al-⑥cun...(⑦bui-⑧a è ⑨la ⑩not-⑪te)

楽譜はどうなっているでしょうか?

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- ベーレンライター社"Le nozze di Figaro"より

曲調だけを見ると、

Tutto è disposto:
l'ora dovrebbe esser vicina;
io sento gente... È dessa... non è alcun...
buia è la notte...

または、

Tutto è disposto: l'ora dovrebbe esser vicina;
io sento gente... È dessa... non è alcun... buia è la notte...

とフレーズが分かれているように感じてしまいませんか?
そんな中で《正しい分け方》のように7音節と11音節で分けるなんて不可能だ!と思われる方もいるかも知れません。(実際僕もそう思います)

そこで登場するのが《台本》です。

スクリーンショット 2020-03-13 18.25.04

Libretti d'opera italianiより引用

おおっと、すでに正しく七音節と十一音節に分かれているではないですか!

というよりも…

この台本をもとに、作曲しているのでそれが当然なのです。

つまり、フレーズがどこで分かれているか、というのは最初から台本に書いてあるので、考える必要なんて、最初から一切なかったのです。

しかし、ここで気をつけなければなりません。

同じ台本を用いていても、スペースの関係だったりでしょうか、正しい音節で分かれていないものも世の中にはたくさん出回っています。

スクリーンショット 2020-03-13 18.31.03

このように記載しているサイトもあります。これではフレーズ分けがわかりません。

なので、僕がお勧めするサイトはこちら、

こちらのサイトには、著作権の切れた台本が(おそらく)すべて正しく掲載されているのです。これさえあれば百人力です!

③韻律上の区切りで分けろ!

さあ、台本が手に入ったので、ここからは実践です。
やることはシンプル、台本のフレーズ分けに従って線を引いていくだけです。
実際に楽譜を見ながらやっていきましょう。

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これを台本の区切りのように分けていきます。

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これで第1段階は終了。

長々と書きましたが、やったことは至ってシンプル、

・(正しい)台本を見る
・台本の行ごとにスラーを引く

たったのこれだけ、めちゃめちゃ簡単です。

【深読み】この分け方をみて、「えぇ?意味的に、明らかにおかしくない??」と思う方もいるかと思います。実際1フレーズ目はL'oraという主語でくぎれているのがとても不自然です。ダ・ポンテが書いた文の抑揚としては、そこに確かにアクセントが来るのです。しかし、モーツァルトは意味上の区切りに合わせて休符をおきました。そんなことから、いろいろなことが考えられませんか?


■コツ・その2
【アクセントの開閉をチェックしろ!】


イタリア語の発音は母音が5つしかないため、日本人にも比較的分かりやすいと言われています。しかし、舞台での表現となると、そうはいきません。

実は、イタリア語の母音は5つではなく、文法上、"e"と"o"には開いた発音と閉じた発音があるため、合計7つになるのです。

【補足】さらに言えば、9種類、11種類、13種類とも言われますが、それはこの文章では触れません。

これが日本人にとって大変分かりづらい。なぜかって、開いた母音も閉じた母音も同じ発音に感じてしまうからです(日本語環境で育つ脳の働きから、RとLの違いと同様、どうしてもそうなってしまうそうです)。そして、ほとんど表記されないのですから、ぱっと知ることができません。

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