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エンハイ高校青春物語 第4話 『アッパの長い話』

僕の父は大学教授だ。韓国生まれの両親は留学先のロサンゼルスで出会って、そのままアメリカで結婚してふたつ上の兄と僕が生まれた。
母国の姉妹校に呼ばれて家族で引越してきて3年目の昨年の秋、父がアメリカの大学に戻ることになった。僕はあと1年半残った高校生活が名残り惜しくて仲間達と別れるのは嫌だと無理をいい、高校を卒業するまでという約束で母とふたりこちらに残ることになった。兄は大学の編入のタイミングもあり、ひと足先に父とロスへ渡った。

ところが今年の2月のある日、アメリカにいる兄から父が体調を崩したと連絡が入り、急遽母が様子を見に行くことになった。1週間ぐらいならひとりでもなんとかなるからと送り出したけど、病状があまり思わしくなく、母はしばらく向こうで看病をすることになった。
新学年を目前にして突然ひとり暮らしをすることになった僕の話をちょうど部活を見に来ていたヒスン先輩が聞いて、それならうちに住むのはどう?って声をかけてくれた。先輩の家は元々下宿屋だったそうで、家族以外にまだ何人かは住めるくらい空き部屋があるそうだ。すぐに先輩のご両親から母に連絡があり、僕は卒業までの1年間先輩の家に住むことになった。

家族とは離ればなれになったけど、先輩の家はにぎやかでさびしさを感じることはなかったし、むしろずっとこのままここで暮らしたいと思うほど居心地がよかった。でも住み始めてしばらくした頃、母から父の病状が思わしくないという連絡が入った。

僕は迷った。父のことがとても心配だから、今すぐにでも行くべきだ。ここの家族みたいに一緒にいるのが正解なんだろうけど。でも、、、いつまでもグダグダと決められず時間ばかりが過ぎていった。

ヒスン先輩の両親に呼ばれたのは昨日の夜。

さっきお母さんから連絡があって、お父さんの病状は少し落ち着いたそうだ。ひとまず安心だね。そう言って先輩のお父さんは話し始めた。

君たちがうまれる少し前の話だ。私の親友が日本で働いててね、私たちの婚約の報告を兼ねて会いに行ったんだ。久しぶりの再会で盛り上がって私たちは日付が変わるまで話し続けた。今日ぐらいは一緒にホテルに泊まっていけばいいのにと引き留めたんだけど、連休明けは朝から仕事が忙しくなるだろうから早く帰って寝るよと笑う背中を見送った。
明け方激しい揺れで目が覚めた。あとから阪神大震災と名前がつけられたあの地震だった。友人のことが心配になって連絡を取ろうとしたけど電話も交通網も寸断されてできなかった。教えてもらっていた住所を頼りに探そうともしたけど、まるで戦場のように様子の変わってしまった街のなかでは外国人の私たちの力などなんの役にも立たなかった。数日後瓦礫の中から見つかった友人は私たちと別れた時のスーツ姿のままだった。

実は友人ていうのはヒスンとハルのおじさんに当たる人でね、私のお兄さんなの。おばさんが話し始めた。
自慢の優しい兄だった。ヒスンが兄にそっくりでね、生まれ変わったのかと思うぐらい。そういうと、あとは言葉にならなくておじさんが後を引き継いだ。

私はあの経験のあとこう思った。人の運命なんて予想もつかない。何年もかけて積み上げてきたものだって、一瞬で崩れ落ちて跡形もなくなるんだ。それなら今を必死で生きていくしかないんだなって。
ああ、こんな話、子供たちにもまだ話したことないのに、今夜は少ししゃべり過ぎたな。
もしかしたら君のお父さんもお母さんも、私達みたいにまだ君に話してないことがたくさんあるかもしれないな。

おじさんの最後の言葉を聞いて、僕の心は決まった。

おじさん、おばさん、僕は夏休みにアメリカへ行きます。それまでの間、僕は僕なりに今しかない時を思いきり楽しんでいこうと思います。でも、この事はまだみんなに言わないでください。みんなに話す勇気ができたら自分から話したいと思います。

そう、僕にはまだ勇気がなかった。あまりにも別れが辛かったから。

春は少し速度を上げて進もうとしていた。

Behind STORY
<シーン1>
この家にはロミオとジュリエットの映画に出てくるようなバルコニーがあって(たぶんおじさんの趣味)僕は割とその場所で過ごすのが好きだ。僕がここに住み始めた時には固く閉じられていた庭の桜の枝のつぼみが少し緩んできたのが見えた。
バルコニーの下にはリビングの掃き出し窓があって庭に続き、その両脇にある先輩とハルの部屋がここからちょうど見える。ハルの部屋の明かりは消えてる。疲れて寝ちゃったみたいだな。先輩の部屋からは薄く灯りが漏れている。また遅い時間までゲームでもしてるのかな。
空を見上げたら街の灯りにぼんやりとした星空が広がっていた。

<シーン2>
ヒ 聞いた?
ニ 聞いた。
ヒ 最後、ナイショって言ってたよね。
ニ 言ってた。
ヒ 僕たちは聞いたんじゃなくて、聞こえたんだよね。
ニ そうだ、聞こえてしまったんだ。
ヒ ナイショだからな。
ニ もちろんわかってるよ。あれ?ヒョン、泣いてるの?
ヒ 黙れ!ちょっと感動してるんだ!

 熱い情熱を持ったオンマとアッパとヒョンとヌナ。ついでに天然でドン感な愛すべき家族にまたひとり同じタイプのジェイクヒョンが加わって、この家は宝箱♫僕はトレジャーハンター♬ (適当にラップメロディーつけて歌ってください)ニキはしんちゃんばりの不敵な笑いを浮かべた(笑)

<シーン3>
翌朝
朝食の食卓に先輩家族に加わって朝食を食べているニキがいた。
「ジェイクヒョンおはよう!よく眠れた?」
「あれ?どうしてここにいるの?」
「ぼく、時々この家に泊まるんだ。」ニコッ🤗
キヨウオー💕朝からかわいいニキ。こんな顔してキレキレダンス踊るんだから、ほんとにすごいやつだ。
アメリカ行きを決心して心のモヤモヤがスッキリ晴れた。おじさん、おばさんありがとう。心の中で感謝を告げる。
「ハル!一緒に学校行こう!」

////第5話へ続く

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