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ウマい話にはご用心~初めて髪を染めた時のこと番外編


初めて髪を染めた時の話を書いてみた。

今回は、その番外編といえる話を書いてみようと思う。一度開いた記憶の扉は、ついでに芋づる式に変な事を思い出してしまうものだ。

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高校の頃通っていた美容院には、結局20歳の夏くらいまで通った。

いつもいい感じにカットしてもらったし、成人式に向けて髪を伸ばすための工夫もしてもらった。初めてソバージュにしたのもこの美容院だった。先輩の結婚式の時には、服に合わせていつも可愛いセットをしてもらったし、成人式の時もとても素敵に髪を結ってもらった。

けれど、そんな美容院とのお付き合いはそんなに長くは続かなかった。
20歳の夏頃に掛けたパーマで少しかぶれてしまったのだ。そんなにひどくはなかったので、私は別に何とも思っていなかったのだけど、顔だった事もあり母が美容院に報告していた。オーナーの奥さんが謝罪に来てくれたけど、その後は何となく行きづらくなり通うのを辞めてしまったのだ。

それから1年ほど経った頃だったろうか。あの美容院にいた見習いの男の子と偶然の再会をした。

その日、私は会社の入金や振込などの用事で銀行にいた。銀行の窓口はとても混んでいて、私は手持ち無沙汰で椅子に座っていた。当時はケータイやスマホもないので、置いてある週刊誌でも読もうと立ち上がった時に突然声を掛けられた。

「あれ?みゆさん?」
「そうですけど・・・」
スーツを着た痩せ型の若いお兄ちゃんが私に声を掛けてきた。訝し気にする私をよそに、お兄ちゃんはなおも続ける。
「ほら、俺覚えてない?美容院にいた松崎(仮名)だけど」
「あ、松崎君!?久しぶりだね。変わってるから分かんなかったよ!」

目の前にいるお兄ちゃんは、かつて通っていた美容院にいた見習いの男の子だった。彼は1年ちょっとで美容院を辞めていて、それ以来の再会だった。松崎君は当然の様に私の横に座った。美容院にいた頃はラフな格好だったけど、今はビシッとスーツを着ている。聞けば誰もが知っている某ミシンメーカーの営業所で営業をしているとの事だった。

久しぶりの懐かしい再会に私はすっかり嬉しくなり、あれこれ話し込んだ。窓口での待ち時間などあっという間に過ぎていく。そうこうしているうちに「株式会社〇〇様~」と窓口の方から呼ばれてしまった。

「あ、もう行かなくちゃ」
と言った私に松崎君は言った。
「ねえ。みゆさん、今度ランチに行こうよ」
「うん、行こう行こう!私、明日休みだよ」
「ほんと?じゃあ、明日昼前に迎えに行くよ」

あらら。何という事だ。
あの松崎君とランチだと。しかも明日。ノリで決めてしまったけどいいんだろうか・・・。そう思いはしたものの、「ま、いいか」と例の如く好奇心が勝ってしまった。

翌日、少し遅めに起きた私は顔を洗い、化粧をし、ちょっと可愛い服を着た。すると、電話が鳴った。
「もしもし、みゆさん?今から出るから」
「分かった。じゃあ、表で待ってるね」

表で待っていると、白いセダンがやって来た。乗っているのは松崎君だ。
「みゆさん、助手席乗って!」
「おじゃましまーす」
とドアを開け、助手席に乗り込んだ。

軽快に走る車は、ファミレスに入っていった。

2人ともオーダーを済ませて、またあれこれ話をした。松崎君は話がうまい。美容院で働いていた子だし、今は営業をしているのだからなおの事だ。運ばれてきたものを食べながら、楽しいひと時を過ごした。松崎君はランチをご馳走してくれて、帰る事にした。

家に送ってくれながら「またランチに行こうね」と言う。私も「うん。また行こうね」と言った。

そして、少しして本当にもう一度ランチに行った。行先はこの間のファミレスだ。あれこれ話をしながらも、松崎君は違う話を私に振ってきた。

「ねえ、みゆさんはアクセサリーとか興味ある?」
「うーん、嫌いじゃないけど・・・」
何かを察して、もごもごと口ごもる私にさらに松崎君は言った。
「今度、うちの会社で宝石の展示会やるけど来ない?別に買わなくていいからさ。目の保養においでよ」

宝石の展示会?ミシンの会社なのに?
そういえば、この会社って24時間風呂の機械とか売っていた様な気がする。私は面倒な事になったなと思いながらフォークを口に運んだ。

松崎君もフォークを口に運びながら、にっこり笑った。
「ほんと、気軽に来てくれていいから」
と言いながら、展示会のチラシを私にくれた。展示会は翌週のようだった。

松崎君は今回もランチをご馳走してくれて、家まで送ってくれた。

どうしようと思いながら、展示会の日になった。迷った末、仕事帰りに少しだけ寄る事にした。絶対に、買わない、そう思った。

仕事が終わり、着替えて更衣室から出ると、仲良しの営業のおじさまがいた。
「みゆちゃん。今帰り?」
「お疲れさまです。あのね、私今から宝石の展示会に行くんですよ」
「展示会?何でそんなとこに行くの?」
こう聞かれて、私はこれまでの事を説明した。

「お前、それヤバいって。絶対行かない方がいい」
「えー、大丈夫ですよ。絶対買わないから!」
「みゆちゃん、断れる性格じゃないだろ。行くなって」
「でも、行くって言っちゃったし。大丈夫です!」
心配してくれるおじさまを後に私はミシンメーカーの営業所に車を走らせた。今思えば、おじさまについてきてもらえば良かったのかもしれなかった。

ミシンメーカーの営業所に着いた。そこはまだ煌々と照明がついている。

「みゆさん、いらっしゃい」
「こんばんは」
松崎君が出迎えてくれて、展示している宝飾品を案内してくれた。キラキラのアクセサリーが所狭しと並んでいる。
「ちょっと手に取ってみて」
と指輪やネックレスを手渡してくれた。とてもキレイなアクセサリーだ。だけど、なかなか高価な物ばかりだ。手に取って見ていると、私のそばに松崎君の上司と思われる人もやってきた。2人して、よく似合うだのいろいろ褒めそやしてくる。

ああ、なんか面倒な事になったな、どうやって切り抜けるかと内心思った。

営業トークにも花が咲き、私に買え買えという圧を感じる。もう、ここはバカの振りをしようと腹を括った。どんなに勧められても、のらりくらりと交わしていった。押しに弱い私だけど、この時ばかりは頑張った。かなり粘られたけど、なんとか逃げ切った。アクセサリーを買わずに無事に帰る事ができた。

翌日、会社に行くと私を心配してくれていたおじさまに報告した。
「何も買わずに帰ってきましたよー」
「ああ、良かったな。心配してたんだよ」

無事に宝石の展示会から帰還した私に、松崎君から連絡が来る事はもう二度となかった。

運命の悪戯で再会した私達だったけど、それを利用されたんだろうなと思う。おそらく、一人当たりの売上目標もあった事だろう。今の私なら義理で買う事もできるだろうが、あの頃の私にはそれは無理な話だったと思う。

懐かしい気持ちを利用された様な気もするが、松崎君もそれが仕事なのだから仕方ないのだろう。

あれから長い年月が経った後、ハンドメイドにハマった私は高性能のミシンを購入する事にした。あのミシンメーカーのミシンに欲しい機種があったが、なんとなく松崎君の顔が浮かんで違うメーカーのミシンを購入した。

そして、あのミシンメーカーの営業所も近隣の営業所と統廃合されたのか今はもうない。今はその場所には予備校が入っている。

あの出来事は遠い遠い昔の話になってしまったようだ。




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