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ぎっくり腰は労災になりますか?

結論からいうと、なる場合もありますが、ならない場合もあります。
以下、私の体験談です。


1、従業員がぎっくり腰になった。

会社で総務を担当していたころ、若い男性従業員が業務中にぎっくり腰になりました。
倉庫で荷物を持ち上げたときに、やってしまったとのこと。
立って歩くことはできましたが、そうとう痛かったみたいです。

「これは労災だ。病院に行きたい。」と彼がいうので、私は労災の手続き書類(通称5号)をすぐに記載し、病院へ行くときに持たせました。

5号には従業員や会社の情報のほか、負傷について以下の事項を記載します。
「いつ」「どこで」「どのような業務中に」「なにが原因で」「どのようなアクシデントがあり」「どこを負傷した」

受診の際、この5号を病院に提出すれば病院で治療を受けてもお金はかかりません。
治療費は労災保険から支払われます。

幸い軽傷だったようで、その後の回復は比較的早かったと記憶しています。

2、労基署調査官の現場検証

それから半月くらいたったころ。
労働基準監督署の労災担当の方から連絡がありました。
このぎっくり腰が労災に該当するか調査をしたい、とのことでした。

労災(労働者災害補償保険)の事務は労働基準監督書の担当です。

従業員が病院に提出した5号は、その後病院から労基署に廻されます。
労基署が5号の記載内容を確認し労災と認めれば、労災保険から治療費全額が病院に支払われます。
この辺りの事情は、医療事務をやられている方も詳しいと思います。

問題なく認定されていれば、労基署から本人や会社に連絡がいくことはありません。

認定されなかった場合は、個人的なケガとして健康保険による治療に切り替わります。
あとで本人が健康保険証持って病院へ行き、治療費を払わなければなりません。

今回のケースでは、「ぎっくり腰」というケガだったので、労基署の方が会社までに来て調査になったのだと思います。

調査は、実際に負傷した現場にて本人立ち合いのもと行われました。
完全な現場検証の形です。
実際にどのような荷物をどのような体勢で持ち上げたのか、彼に再現させ写真も撮っていたと記憶しています。
彼からもいろいろ証言をさせ、約30分ほどで終了しました。

現場検証といっても怖い雰囲気はなく、終始穏やかに行われました。

そして、後日この事故は労災と認めます、との連絡が来ました。

3、業務起因性が認められるか。

労災かどうかを認める基準は、業務遂行性と業務起因性です。
少し難解な用語ですが、社労士受験をする方にとっては、超基本事項ですね。

簡単に言うと、仕事を行っているときに、仕事が原因でケガをしたのであれば労災です。

このケースは、彼のぎっくり腰に業務起因性が認めらるのか、労基署はそれを確認するために調査にきたのでしょう。
業務遂行性は明らかです。

ぎっくり腰が持病の人なら、たまたま仕事中に普通の動作をしたときでも、「ビキッ!」となることもあります。
仕事が原因とは言えません。

仕事が原因と認められるためのキーワードは「アクシデントかどうか」です。

労災とは、仕事中になにか予想外なことがあり、転んだ、落ちた、ぶつけた、切った、挟まったなどアクシデントによる事故です。

ぎっくり腰が労災と認定されるためには、「予想外」というアクシデント性が求められます。

荷物を持ち上げたとき、予想外に重かった・・
二人で荷物を運んでいたら相方が予想外に手が滑って、急に腰に負荷がかかった・・とか

ルーティン業務として日々重い荷物を持つ仕事をしている人が、ある日その業務でぎっくり腰になっても、労災として認定される可能性は低そうです。
荷物が重いことは予想できるからでしょう。

労基署の調査官は、それを調査に来たのでした。


4、会社が労災を認めてくれない?

「仕事中ケガをして労災だと思うけど、会社が労災を認めてくれない。」
どこかで聞いたことあるような話です。

これまで書いてきたとおり、労災かどうかを認めるのは労働基準監督署(正しくは所轄労働基準監督署長)です。
会社ではありません。

さきほど説明した手続き書類(5号)の記載事項である
「いつ」「どこで」「どのような業務中に」「なにが原因で」「どのようなアクシデントがあり」「どこを負傷した」
については、会社の証明も必要ですが、労災保険の請求をするのはあくまでも労働者本人であり、それを認定するのは労基署です。

したがって、事故があったという歴然とした事実があるのに、会社が労災の手続きをしてくれない場合は、労基署に相談に行ったほうがよいでしょう。

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