夜にしがみついて、朝で溶かして/クリープハイプ

 クリープハイプが、アルバム「夜にしがみついて、朝で溶かして」のライナーノーツを募集していると風の噂(公式SNS)で聞いた。ライナーノーツか感想文か私的感情かわからない何かを、もっとこれからもアルバムを味わわせてねの気持ちを込めて。

01 料理
 アルバム1曲目らしい軽快なイントロ、十二分な言葉の味付け。それに反して「料理」一言のシンプルすぎる曲名。

この曲をバックに某国民的アニメーションの友情的冒険劇が流れる、そんな夢を見た。
「そばにいてくれたら それで腹が膨れる」って、なんだか子どもみたいだからだろうか。食べて寝て、そばにいるだけでじゅうぶんのはずなのに、大人は意外と贅沢で困るな。

02 ポリコ
 「最近どう」から始まるサビはポップで、まるで私が近況を聞かれているかのよう。
「まぁ別に普通」とその先の不満足の正体は一体何なのだろう。満足がもたらしたそれなのか、それとも面白みのなさへのあてつけか、はたまた無難な生活が続くことに対しての言い訳か。

妙に頭にこびりつく誰かの声とも、もう、近況を報告するような近くて遠い仲になったんだな。

03 二人の間
 この曲はセルフカバーという位置づけらしい。当アルバムで初めて聴いた気がするのだけれど。お笑いコンビのダイアンに書き下ろした楽曲、だそうで、ちょっと何言ってるかわからない、という生い立ち。間、大事なのは、お笑いも音楽も、それに日常にも共通。性格が合ってもタイミングが合わなくてズレていくことも、実際に会ってもいないのにぴったりハマるような関係もある。

04 四季
 配信リリースされるまでの間、番組のエンディングでたまに聴くのが嬉しかった曲。優しいメロディー。この季節になるとなぜかいつも無性に聞きたくなるバンド、って、何も確信をついていないけどあなたたちのこと、でしょう?
四季というタイトルと歌詞がずるいのは、どの季節にもこのバンドのことを思い出していいと太鼓判を押しているところだ。

「どうでもいい時に限って降る雪」からの言葉のリズムが綺麗で、情景が浮かぶ。

05 愛す
 曲名までキラキラネームにしてしまう世界観。今聴くと、後の楽曲に繋がるチャレンジの要素もかなりあったのかなという印象。曲の力がアルバムで映えている。
 シングル発売時にはリミックス企画を行い、様々なアーティストとコラボをしていた。そのどれもが元の曲を壊しにいく程に個性的で笑ってしまったのを覚えている。

「肩にかけたカバンのねじれた部分がもどかしい」からの詞の切なさと歌い方の情緒不安定が特徴的で気になる。

06 しょうもな
 疾走感で有無を言わさない感じがクリープハイプ然としている。軽妙な言葉遊びでリズムを歌う。投げやりなタイトルに反してかっこいい曲調。大事なことを素直には言えないことへの愛おしささえ感じてしまう。

「今は世間じゃなくてあんたにお前にてめーに用がある」らしいが、「神様どうか こんな言葉が 世間様にいつか届きますように」と願って終わる。切実な願いなのか、個人に届くことがその先へつながるという純粋さなのか、それとも。皮と肉が混じって歪な、そんな感じ。

07 一生に一度愛してるよ
 正しくファンを手玉に取る楽曲。イントロのテンション感が好い。
「相変わらず今もファーストばかり聴いてる」なんて歌うの、相変わらずだ。それでもファンの愛なんてわからないくらいでちょうどいいのかもしれない。それも悔しいけど。
「死ぬまで一生愛されてる」と、遂に思えたように聞かせておいて、ちゃっかり「思ってたよ」で締めて、結局ピンクのアルバムタイトルに帰ってくる小賢しさ。

 丸くないとかけないものもあるし、そもそも丸くなったとも思ってないし。どちらかと言えば自在になったように見える。変わっていくことを少しも許せないなら、それも悲しいね。
「バンドと恋人が逆だったらな」なんて言ってみたくもなる、あたしの奥まで刺さる曲。

08 ニガツノナミダ
 やけによくできている。気づけば泣き止むニガツノナミダ。タイアップソングとしての役目も、バンドとしての役目も果たして、どちらにも顔を立てる強気な態度。バレンタインという大衆的な2月の要素。転調からの攻め、でも「しばられるな」にしばられてる。
「使い放題だから安心だ」だなんて、どんな顔して歌えるだろう。

「締切に抱きしめられて 制約にくるまって眠る」って詞、綺麗だなぁ。
ここはここ。

09 ナイトオンザプラネット
 尾崎世界観の歌うラップ、優しくて凄く苦くてだけど凄く甘い。
映画のタイアップソングだからなのか、ラップだからなのか、情景の浮かびやすい詞。2番はまるで喋っているかのよう。アウトロがしゃれ散らかしている。アルバムの表題曲。

「吹き替えよりも字幕」で観ていた頃から再生ボタンは押されたままで、いつの間にか「字幕より吹き替え」の大切な日々を過ごしている。 それでちょっと思い出しただけ。

10 しらす
 ベースの長谷川氏の楽曲、鳴る鈴の音。言葉選びやリズムや曲調、それぞれやけに耳に残る。からだを揺らしたくなる。そして不思議な間奏。曲が始まったら、是非、しらす~~~~!!!というテンションで迎えましょう。

「僕に流れる天の川」って詩的で素敵ですね。

11 なんか出てきちゃってる
 なんかってなんだよ。出てきちゃってますね、確かにこれはもう。次は君の頭に!出てくるかも!っていうやつですか?違いますか。
歌詞カードを確認した下心でズッコケる曲。
「偶然ネジが 偶然ネジが 偶然ネジがゆるんじゃって」
え?本当に?本当にそれだけですか。ふーん。
圧巻の間奏の襲撃。何この流れ。
なんかって、なんかはなんかだよ。ああもうマジであれがあれだなおい。

12 キケンナアソビ
 愛すのカップリングであり、LPも発売された。コント番組に書いた曲。
アソビとそれ以外の境界線なんて本当は存在していないから、わかっていたってわからなくなる。ほんと馬鹿みたいって、そんなことずっとわかってる。
この人だから歌うことを許されているんだなと思う曲。
夕焼け小焼けで真っ赤に燃える、嘘と少しの嘘以外。

13 モノマネ
 クリープハイプだなぁという、懐かしい感じのする1曲。いつかのあの曲の続きだとかなんとか。「おんなじ」という言葉の響きと表記がちょっとかわいい。そして歌詞が切ない。日常から切り取られた日常の一部が、まだ温かくて思わず手を伸ばしてしまう。今更泣いても笑っても、似てないモノマネにもならない。

14 幽霊失格
 聞いたことない四字熟語。でもどこかで聞いたことのあるような。ああ、かの有名な。
いなくなったからこそ忘れられないのか、消えてほしくないから成仏しないのか。どちらにしても、君は幽霊らしくない。「成仏して消えるくらいなら いつまでも恨んでて」なんて言うこれは一体何なのだろう。

15 こんなに悲しいのに腹が鳴る
 生命力を感じる楽曲。結局のところ本能には抗えない。性を曲にのせているばかりではなく食までこのバンドの管轄に。うまいこと料理から始まりましたしね。
「死ぬほど生きたい」と思うことが、生きていると時々ある。矛盾しているような、真っ当なようなこと。言葉にされるととても強くて、心強い感情。
落ち着くメロディーと安定したリズムに、この生も肯定された気がした。

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