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『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』平松洋子著

『ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』を読んだ。
著者の平松洋子さん、私のイメージだと、お料理や生活全般について、とても知性的な文章を書く人だった。この本が出版された直後、ラジオ出演されていたのを偶然聞いて、興味を持った。ラジオで何を語っていたのかは全く覚えていないのだが、とにかく本を購入。ようやく読み終えたところ。

身体を作ること

身体は資本。アスリートにとっては、絶対的だ。

自分の思うどおりに動く身体を作ること。テクニックやスピードを身につけるのはその後。種目によって、最高のパフォーマンスに求められる資質は変わるが、その前に、アスリートである人間には、それぞれの体質や性格が全く異なる。全ての人に共通な身体づくりなんて、きっとない。そして、全ての人に共通な「最適な食事」もきっとない。

それを理解した上で、正しい知識を身につける必要がある。

正しい知識のインプット

私の個人的な印象というか仮説。日本の栄養学は、他国とずいぶん違う。端的にいうと、遅れている。

日本には、世界に誇る和食という文化がある。その「和食」と根性論が、最先端の知識を受け入れがたい土壌を作り上げてきたのではないか?そんな気がするのだ。

最近になって、プロのアスリートが手記を公表したり出版したりして、専属の栄養士をつけているとか、プロの栄養士について学んでいるとか、聞くようになった。しかし、身体づくりという観点で食事・栄養を考えているというのは、まだ少数ではないだろうか。

飛ぶ鳥を落とす勢いのメジャーリーガー大谷翔平選手は、花巻東高校野球部時代、毎日丼飯10+3杯を日課にしていたそうだ。入学当時はヒョロっとして細かったそうだが、それを食事で意識的に変え、大リーグで活躍できる体格と体力を養った。

明確な目標と正しい知識。その重要性を理解して自らを律すること。ただ天賦の際として授かった優れた運動能力だけでは、成長はいずれ止まる。自分が目指す自分の身体に少しでも近づくための身体づくりと、そのための栄養学の知識は、アスリートだけでなく、一般人にも大切な情報だ。

変化に気づくこと

読んでいて、私が1番大事なことと思ったのが、変化に気づくことだ。

プロの栄養士についてもらったとして、初めは最大公約数的なアドバイスだと思うのだ。アドバイスに従った食事に変えた結果、自分の身体にどんな変化が起こったのか。それをフィードバックしながら、「この人」に最もフィットする食事と栄養を一緒に考え、目的に近づいていく。

もし、アドバイスに従っていたとしても、その変化に気づけなかったら・・・最も、栄養士もプロなら、アスリートのプレーを観察することで変化を読み取ることができるのかもしれない。しかし、体内の、本人でないと体験できない違いもあるはずだ。それに気づき、言語化して、栄養士に伝える。またまた私の推測だが、大谷選手はこの点、ずば抜けていたんじゃないかと思う。

結局、アスリートも知性で勝負、ということなんじゃないか。

もう一つ。本文に印象的な文章がある。マツダ陸上競技部の山本憲ニ選手の言葉だ。「トップアスリートの条件とは?」という質問に対する回答だ。そのまま引用する。

変化できなければ厳しいと思います。自分を変えて修正できなければ、いくらいい指導者がいても、すぐに限界が来る。いろんなものを考え、必要なことは柔軟に取り入れるために自分で思考を変えられなければダメだと思います。

「ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け」 p249

山本選手も故障に悩んだ時期があったそうだ。プロ栄養士の鈴木志保子氏に出会い、知識を増やして食事から「改造」していった。その結果が、上記の言葉だ。

変化に気づくこと、そして変化を恐れないこと。なんだか、いろいろなところで聞く言葉だが、栄養と体についても、とても納得感がある。そう思いませんか?

最後に

前半はちょっと冗長な感じがしたが、後半はあっという間だった。例に出てくるスポーツの種目に対する私の関心の度合いによる違いだと思う。私の個人的な関心事の「腸内環境」については、「結局まだまだわかっていない」ということがよくわかって、ちょっと寂しかったが、ネット上の有象無象の情報には気をつけましょうね、という警告だと受け取った。

また、本書に登場するスポーツ栄養士の鈴木志保子氏の活動にとても関心を持った。文字通りのプロアスリートの栄養管理にとどまらず、2021年東京オリンピックの選手村の食堂運営や、スポーツの現場以外にも活躍の場を広げている。まずは、この人の著書を1冊手配したところだ。

平松洋子さんの文章はいつも丁寧な印象で、とても好きだ。スポーツと栄養、身体と心にご関心のある方にお勧めします。

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