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名作、そしてその狂気。『シャイニング』を観た

※観た人向けの感想です。

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ジャケットとネットミームで使われがちなあの画像がやたらと有名になっている『シャイニング』。
名優ジャック・ニコルソンの代表作の一つでもあり、ホラー作家の巨匠スティーブン・キングの同名小説を原作としている。

私はこれまで、『シャイニング』はサイコホラーだと思っていた。
実際、そのジャンルから外れてはいないのだけれど、実は主人公であるジャックが殺人鬼のように振る舞うことの要因には決定的な人ならざるものの存在がある。

それは舞台となっているホテルに潜む怪異である。洋画ならではのスプラッタな演出とともに姿を現す双子の少女、大きな過ちを犯してしまった前支配人、そしてバスルームの腐った老婆。これらと邂逅していくうちにジャックはどんどん狂っていくことになるのだが、映画中は正直、ジャックが狂っている描写のインパクトがあり過ぎるため、怪異の影が薄くなっている。

事実、『シャイニング』の語り継がれ方はオカルトホラーではない。ジャック・ニコルソンの怪演ぶりが凄まじく、観客のジャックに対する見方は怪異によって狂った男ではなく、小説家としてのスランプと孤独感から狂った男という印象が強くなっている。

しかし、原作はホテルの影響を強く受けることでジャックは狂気に陥ることになる。これを踏まえると、映画版も実際は怪異が原因でジャックは狂っていくというのがより正確な見解と思われる。
事実、説明できない怪現象の一つとして、ラストに出てくるホテルの集合写真には何故かジャックが写っており、本来ならばこのようなシチュエーションは有り得ない。
つまり、この写真は「実はジャックは昔の人だった」などというミステリーではなく、ジャックはホテルと一体になるというオカルト的な意味を持っていると思われる。


ただ、映画の印象はやはりこの狂ったジャックという男の人間的怖さにあるだろう。タイピングしていた文章が全て同じであることに妻のウェンディと共に気付いた観客は、この閉鎖したホテルという空間の中に張り詰めたジャックの狂気の包囲網が既に自分達の周りを取り囲んでいることに気付く。いつウェンディとダニーに斧が突き刺さるのか分からないヒリヒリした感触が続き、観客の精神は摩耗していく。

本当に残念なのは、コックのハロランがダニーのシャイニングを察知してお助け役に回ったものの、ほぼ活躍シーン0のままあっさり退場してしまったことだ。ジャックの狂気が本物であることが証明されたと同時に、あまりのあっけなさに口を開けてしまった人もいるかもしれない。

とはいえ、全編に渡って音楽と映像の調和が素晴らしく、もはや芸術的ホラーと言っても過言ではない。ダニーがシャイニングによって感じ取る映像は抒情的に観客の精神を揺さぶってくる。

『シャイニング』はこうした演出とジャック・ニコルソンの怪演が見事にマッチした結果、映画史に残るヒトコワホラーとして語り継がれているのだろう。

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