見出し画像

複雑な水問題を『自分ゴト化』してみる

今回は、見えにくい『水問題の本質』と『私たち』のつながりを紐解き、水問題を自分ゴト化するキッカケについて書きます。

近年、国内外の水問題の注目度が高まっていますが、そもそも、水問題とは何なのでしょうか。

一言でいうと

「清潔で安全な水に、持続的にアクセスできる状態」「現状」とのギャップと考えられます。

こう考えると、すでに水道・下水道が普及した日本では、水問題なんて無いのでは?という気がします。

しかし、実は日本でも水アクセスが崩壊し始めています。


■ なぜ水問題を「自分ゴト化」しづらいのか


その理由は、おそらく、メディアでよく見る情報が、「目に見えて分かりやすい途上国の水問題」だからではないでしょうか。

例えば、アフリカや東南アジアで、
・水道がなく、ペットボトルの水も買えないため、泥水を飲むしかない
・毎日、遠くまで子どもが水汲みに行く必要があり、学校に通えない
といった映像を、何かしらで目にしたことがあると思います。

こうした分かりやすい途上国の水問題に対し、日本の水問題は、目に見えないところでジワジワと起きています。

だから、私たちとのつながりが見えづらいのです。

この複雑な水問題と、私たちのつながりを理解するために、まずは「水アクセスの成り立ち」を理解する必要があります。

それでは、水アクセスについて詳しく見ていきましょう。


■ 水アクセスの成り立ち

安全な水アクセスの成り立ち

上の図に示すように、水アクセスとは、上水処理・下水処理・汚泥処理の3つが、それぞれ「人・モノ・金・技術」を組み合わせて機能することで成立します。

以下で簡単に説明します。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
・上水処理システム

いわゆる水道です。主に川や地下水を水源として、薬品やろ過によって処理し、各施設や家庭へ配水します。一番イメージしやすいかもしれません。

・下水処理システム
各施設、家庭で使用した汚水を、環境への負荷が問題ないレベルまで処理し、河川などに放流するシステムです。

・汚泥処理システム
上水処理、下水処理で取り除かれた不純物 (汚泥)を定期的に引き抜いて適切に処理し、有効利用、または埋め立てるシステムです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

例えば、下水処理が機能しないと、汚水が環境中に放流され、水道の水源が汚染されます。そして、生態系や人体へ悪影響が出ます。
また、汚泥処理が機能しないと、上水・下水処理効率の悪化や、環境汚染に影響します。

つまり、水アクセスに直結する上水処理だけでなく、下水処理、汚泥処理を含めた3つの水インフラすべてが機能して初めて、「水アクセス」の持続性が担保されます。

ここで重要なことがあります。それは、水源の位置や水質、豊富さ、地形、人口、経済状況といった『地域特性』に応じて、最適な水インフラの形が異なってくるという点です。

そして、その複雑な3つの水インフラは、それぞれ

・運営、維持管理の技術、知見を持つ「人」
・処理設備、機器、配管などの「モノ」
・設備導入、運営、メンテナンスに必要な「金」
・環境負荷を抑え、効率よく処理する「技術」

などが組み合わさって機能します。


このように水アクセスを分解してみると、持続可能な水アクセスを実現するために、途上国や日本で共通するアプローチが見えてきます。

それは、地域特性に応じて「人・モノ・金・技術」の組み合わせ方を変えながら、最適な「上水・下水・汚泥処理システム」を構築することです。

逆に言えば、これらの組み合わせがうまくいかないと、水アクセスは崩壊します。

では上記を踏まえて、途上国と日本それぞれの『水問題の本質』を見ていきます。


■ 途上国における水問題の本質

途上国の水問題の本質は、先述した「人・モノ・金・技術」の不足です。そもそも無いものは、うまく組み合わせることが出来ません。

「水アクセス」に直結する、水道すら確立できていない地域が非常に多いです。

また、水道が整備された途上国の都市部でも、下水・汚泥処理システムがうまく機能せず、「安全な水アクセス」が脅かされている地域がたくさんあります。

その結果、世界で約20億人が清潔で安全な水にアクセスできず、健康や人権、治安が脅かされています。

この問題へのアプローチは、先進国から『人・モノ・金・技術』のリソース、組み合わせを支援しながら、『現地に適した水アクセス』を作るしかないと思います。(当たり前だけどこれが非常に難しい)

私自身、この辺りを意識しながら、バリの田舎で給水事業NPOを行っています。


■ 日本における水問題の本質

日本の水問題の本質は、 『都市化を前提とした 集約型の水アクセス維持に限界がきた』ことです。

現在の水インフラの多くは、高度経済成長期に『人口が今後も伸びていく』前提で、『大きな処理場』と『配管網』が急速に整備されました。

日本が急成長した当時は、『人・モノ・金・技術』を組み合わせた最適解が 『集約型水インフラ』であり、人口増加、経済成長で拡大した水需要、公害問題の解決などを支えてきました。

しかし近年、人口減少に伴う料金収入の減少、運営・維持管理の担い手減少、設備や配管の老朽化に伴う更新費の増加が加速しています。

そうした現代において、既存の『集約型水インフラ』 を、これまでと同じ方法で維持できるはずがありません。

実は恐ろしいことに、現在、自治体の水道事業の3割以上が赤字です。

今後も更なる財政悪化が懸念されており、このままでは、水資源が豊富な日本でも、『水があるのに水不足』という状態になりかねません。

見えにくい日本の水問題ですが、既に生活へ大きな影響を及ぼし始めています。

■ 今後の水インフラに必要なこと


今後は、これまでの水業界の枠組みに捉われない「人・モノ・金・技術」の流動化が大切になります。

日本の水は、優れた技術、豊富な水資源、観光、食、芸術など、世界的に見ても非常に高いポテンシャルを有しています。

そのポテンシャルを活かして、水とあらゆる人・モノ・金・技術を繋ぎ、今後の日本に合わせて『縮充』させながら、行政のみに依存しない、新しい水インフラをつくる必要があります。

そのためには、水の価値を再定義し、水の位置づけを『縁の下の力持ち』から、『新たなワクワクを生み出す源泉』に転換することが必要だと考えています。

例えば、環境負荷の低い小規模水インフラを住民同士で管理しながら、水を軸に自給自足のコミュニティを形成することで、都会暮らしでは得難い『人と自然との深いつながり』という価値を生み出せるかもしれません。

深刻な問題を抱える水インフラですが、これからは、みんなで新しい水インフラをつくる『大変革期』と捉えると、一見、水とは関係のない業界でも様々なチャンスがあると思います。

今回の内容が、少しでも複雑な水問題を自分ゴトとして考えるキッカケになれば嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?