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24/1/12 蛇にピアス

今年は読書をしまくろうと心に決めている。年が変わったからと言っていきなり暇になるわけじゃないが、自分のための時間も優先順位を上げていこうと思っている。

2024年最初の読書は「蛇にピアス」を選んだ。
昨年の朝日新聞に掲載された金原ひとみさんの寄稿文「母の仮面が苦しいあなたへ」を読んで、すっかりファンになった私は、昨年末に「パリの砂漠、東京の蜃気楼」という彼女の初エッセイ本も読んだ。

朝日新聞の記事に関しては、このnoteに感想を書いている。

私は6年前に亡くなった夫にひとつ、盛大に感謝していることがあって、それは「馬鹿のままでいられないようにしてくれたこと」だ。

夫と結婚したのは私が23歳のころで、あの頃の自分を振り返ると「若さを言い訳にした馬鹿」だったとつくづく嫌になる。よくあの頃の私と結婚しようと思ったものだ。ま、夫も夫で様々な問題を抱えた人だったから、おあいこってところだろうけれど。

夫と私は12歳年が離れていて、結婚すると決めた時には周囲からいろんなことを言われた。「今野さんは難しい人だよ。大丈夫?」と夫個人の性格を知ったうえで心配してくれる人だったり、「そんなに年齢が離れていると、可愛がってくれるでしょう」といった年の差婚への一般的なイメージから興味本位で聞いてくる人もいた。

若い女を妻にした男は、妻にデレデレで甘いなんてのは幻想甚だしく、結婚したら年の差なんて関係なく、夫婦は夫婦として日々の生活を淡々と過ごすだけである。子どもが生まれてからは特に、一日一日を無事過ごすことに必死だった。12歳離れているから可愛くて仕方ないなんてことは、日頃の夫から感じることなく、デレデレするなんてこともなく、生活を共にする人間としてタッグを組んで暮らしてきた。

向いてない子育てに苦悩し、2002年からは関節リウマチを患った私だったが、彼は仕事帰りに図書館に寄り、本を借りてきて、自分が読み終わったら「借りる期間、延長できるけど、読むなら延長するよ」と渡してきたり、クラシックコンサートのチケットを買うけど一緒に行く?と聞いて来たり、半分仕事の落語会にもよく連れて行ってくれた。あまり見なかった映画も、50歳を超えたあたりから「ペアで見ると安くなるから俺も一緒に行きたい」と着いてくるようになった。

彼は彼の好きなことをやってきただけだったかもしれないが、私にじわじわと影響を及ぼしたことは間違いない。結婚前から読書はそこそこしていたけれど、読む本の幅は確実に広がったし、クラシックは夫と知り合ってから聞くようになったし、落語も夫と結婚していなかったらここまで回数聴くことはなかっただろうし、何より録画してまで、CDを買ってまで聞かなかっただろう。映画もSFは見なかっただろうな。

「蛇にピアス」は、芥川賞受賞で話題になったころ、3ページくらい読んだ時点でダメだったという友人の話を聞いて、私も無理かもと思い込んでいた。その当時のマスコミの取り上げ方がよくなかったのだろうと思うが、金原ひとみという作家に、さほど興味も湧かなかった。それが朝日新聞の記事でがらりと印象を覆され、次から次に読んでみたいと思うのだから、出会う機会を印象や思い込みで潰さないことは大事だと思う。

過去の思い込みにいまだ取りつかれている部分も、無自覚とは言え残ると思うが、夫は確実に私の世界を広げてくれた人で、文化の素養を育ててくれた人である。それがなかったら私も3ページくらいで「無理」と思ったかもしれない。51歳の私は、19歳の金原ひとみの文章の勢いのままに押し流され、3ページがどの部分だったか気にもならなければ、引っかかることもなかった。誠実な姿勢で書かれた現代のタブーが盛り込まれた内容は、深い部分で受け止めたいものだった。とても簡単に感想など書けない。そんな小説だった。



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