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ため息俳句番外#24 ミニシアター

 隣町の小さな映画館へ久しぶりに行くことにした。
 
 未だ終息にはほど遠い新型コロナではあるが、感染が広がった初期段階の頃、三密回避国家総動員キャンペーンの以前からステイホームと云われ始めていて、とりあえず高齢者は家でじっとしていろというわけだった。そうして、くしゃみ一つでも濃厚接触の危険性のある場所はああだこうだと云われて、人々は右往左往したものだが、その中には「映画館」も含まれていた。
 自分もそんな風潮にいつの間にか感染していて、映画館へ足を運ぶことを懼れ始めた。この小さな映画館へも行かなくなった。そして完全に劇場で映画を観ることを止めてしまった。そうなると、映画への関心が薄れてきて、映画なんてどうだっていいという感じになっていたと思う。
 今年になってから、コロナ感染への危機感が緩んできて、この頃になってはマスク着用の同調圧力はほぼゼロとなり、そんなこんなで自分もなし崩し的に近場のシネコンへ行くようになった。今月も宮崎さんのあれを観たし。そうなれば、この深谷シネマも捨てておけないと気になっていたのだった。そうして、次はシネマテークたかさきだ。

 深谷シネマは、現在地へ移転する以前、旧中山道脇の銀行の跡にあった。過去の上映リストを見ると、2005年7/19~8/にタカダユキ監督「タカダワタル的」が上映されている、この映画は自分が息子を誘って二人で観た唯一の作品であるのでよく覚えている。と云うことは2005年時点には自分はこの映画館へ行っていたということだ。主観的には、長い付き合なのだ。昨今の世情では経営的にも大変だろう。シネコンでは観られない作品を地方で観ることが出来るのは、本当に貴重だ。がんばって欲しい。

 ところで、今日観た作品は、阪本順治監督の「せかいのおきく」。この映画を観た人にこう言ったら馬鹿いうなと云われそうだが、「爽やかな青春映画」であった。どんな理不尽で過酷な時でさえも「せかい」は自分に開けているというようなことか。おきくを演じた黒木華は相変わらずかわいらしくてよかった。そのおきくさんと「おわい屋」の青年との恋の話である。
 
 かつて人糞は、貴重な肥料であった。青年は、江戸の町々を廻って、訪ねた先にお金を払って糞尿をくみ取り、それを川船で近郊の村まで運んで、農民に売るという職業についていた。大川すなわち隅田川にはそうした舟が盛んに行き来していたと、聞いたことがある。
 そんなに遠い時代のことではない、人が喰って、タレて、それが、肥やしとなって食料が生産される、という循環があった。自分が子供の頃は、田んぼや畑のここかしこに「肥溜め」というものがあってねーなんて、云うのは止めよう。

 とにかく、面白い、いろいろな見方が出来る。例えば、江戸の裏長屋のセットが素晴らしくて、つい一茶さんが住んでいた長屋もこんなものであったろうか、なんてついつい思ってしまった。
 自分的には観ておくべき作品だったと思い、ミニシアター復帰の一作目としてふさわしかったとも思った。
 


注)酒蔵の映画館 深谷シネマ (fukayacinema.jp)を参照