見出し画像

ため息俳句 土地の記憶

畑の脇で立ち止まる人がいた。
見たところ自分より年長の男性である。
「それは、綿かい」と土地のことばで尋ねられた。
そうですと答えると、
「それ、おふくろが作ってったンよ。綿ね、蒲団の綿の足しにね、入れていたんよ。このごろ、めずらしいねえ」と云って、立ち去った。
見たことない人であったが、この辺りの人であるようだった。多分散歩の人であったろう。
今から八〇年前のこの辺は、純然たる農村であったのだった。
そうして綿がつくられたとすれば、糸紡ぎも、更には機織りも。
すこし心がけてその辺のことを調べてみようと思う。


糸車夜なべのあかりきりぎりす

蜉蝣かげろうは紡ぐ灯りに親しむや

かねたたきこの地この村記憶継ぐ