一人旅

かわいい子に旅をさせた、その結果

「高速バス満席だから、新幹線に乗せるよ!」
電話口でそう言う夫に、私は驚いて叫んだ。

「ええっ?! だって、新幹線ひとりで乗ったことないよ!」

「でも、もう東京駅だから」
そう言って、電話は切れた。

突然やってきた新幹線ひとり旅。高速バスのときとは違い、途中駅で降りるというハードルが待っている。
小学4年生の息子に、このハードルが越えられるだろうか。

心配性で過保護なママは、自宅でひとり、どうしよう、どうしようとうろたえていた。

そういえば、と記憶をたどる。
息子が初めて高速バスひとり旅にチャレンジしたのは、いつだっけ?

あれは確か、小3の春休みだった。
あのときは、ホント、文字通り、勇気を振り絞って、送り出したんだっけ。

息子3歳の頃から続けている、通称「長野合宿」
春と夏に、長野の夫の実家で、夫の両親と息子の3人で過ごす恒例行事のことを、我が家ではこう呼んでいる。

息子が小2までは、週末に夫か私が長野の夫の実家へ送り届け、翌週の週末に迎えに行くというスタイルだった。
小3の春休みに、初めて、高速バスひとり旅にチャレンジした。

バス乗り場まで夫が付き添い、バスに乗るところまで見届けて、終点で降りると、義父母が待っている。

え? それなら楽勝じゃん? と思うでしょ?

途中のサービスエリアでトイレ休憩のためにバスを降りて、違うバスに乗っちゃったら?

高速バスが休憩するサービスエリアは決まっていて、様々な行き先のバスがずらーっと並んで停まっている。
大人でも一瞬、あれ? どのバスだっけ? となるのに、小3息子は自分のバスに戻れるだろうか。

これについては、事前に息子と協議して、トイレはなるべく車内に備え付けのものを利用すること、やむを得ずバスを降りる場合は、ナンバープレートを確認すること、という対策を立てた。

そして、万が一のときのために、私と夫と、義父母の電話番号を書いた紙を持たせることにした。

そのメモをリュックに入れて・・・・・・ってリュックを車内に置きっぱなしでバスを離れたら、意味ないじゃん。

えーっと、それならそれなら、ポケットに入れようか? でもハンカチを出すときに落ちちゃうかも~。

って、もう、キリがない。

そこで、心配性で過保護なママは考えた。

もし、違うバスに乗ってしまったとしても、ハワイに行っちゃうわけじゃないよね?
行き先は国内なんだから、迎えに行けるよね?
うん、数時間あれば、大丈夫。

そして、我が子は、困ったときは見知らぬ人に物怖じせず話しかけることができるコミュニケーション力を持っている。迷子になって、店員さんに冷静に事情を説明したことは、一度や二度ではない。

よしっ! それなら! と腹をくくって送り出したのだった。

初高速バスの日、息子は随分緊張した面持ちで乗車。
その数時間後。
義父母から、無事到着の連絡が。
心底、ホッとした。
懸念事項だった、サービスエリア問題はどうやって乗り越えたのか尋ねると、バスに備え付けのトイレを利用していたので、降りなかったとのこと。
心配しすぎだったねと笑った。

さて、しかし、今度は新幹線。
目的の駅で降りることができるだろうか。

その日の息子のスケジュールは、午前中は合気道の稽古、午後はロボット教室、その後百貨店で開催されていた謎解きゲームに参加して、それなりに疲れていた。加えて、新幹線の中で食べる用にと、デパ地下でグルメ弁当を購入済み。おなかいっぱいになったら眠くなるよね。寝過ごしちゃったら・・・・・・?!

心配性で過保護なママは、高速バスのときのことを思い出した。
寝過ごしてしまったとしても、ハワイに行っちゃうわけじゃない。
数時間あれば、迎えに行ける。
そうして、また再び、腹をくくった。

その数時間後。
義父母から、無事到着したという連絡があった。
またまた、心底ホッとした。

かわいい子に旅をさせたその結果、何がどうなったのか。
まず、息子は随分自信がついたようで、「もう、ひとりで長野行けるよ!」と誇らしげに話してくれた。
そして、心配性で過保護なママは、入念に準備はしつつも、最後は腹をくくって送り出すこと、我が子のチカラを信じることの尊さを学んだ。
この子ならできる! 大丈夫! 失敗したっていい! リカバリーできる!
そうして、私は親として、大きく成長することができた。

かわいい子には、旅をさせよう。


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