映画「影裏」を観てから5時間ほど経過した。
切なさが消えなくて、悲しくて辛いのですが、
この気持ちが薄れていくまえに、書き残します。

日浅にとって今野は、やっと出会えた「影裏」を見せられる人だったのに、受け入れてもらえなかった

今野(綾野剛)と日浅(松田龍平)が最後に会った日、
今野は日浅の言動に傷つき、1人帰宅します。

日浅ために用意したものを「ままごとセット」と言われ、帽子をとれと言われ、車の位置を指摘されます。今野は以前にキスを拒まれているので、さらに深く傷つきます。

しかし、そこで日浅は「影裏」の話をしている。
なぜか。

先ほどの言動は、日浅が初めて今野に見せた「影裏」の部分、つまり本当の自分だったからです。

キスを拒みながらも会いにきていたので、少なくとも日浅は今野を嫌いになっていない。
ノルマが達成できないからと契約させたことの御礼と言っていたので、今野を利用しているわけじゃない。

今野の好意に応えるため、または、本当の自分を知ってくれた上で「好き」と言ってほしい。
そんな想いがあったのではないでしょうか。

でも、今野はキスを拒まれたショックがあるので、そこに気付けません。
気づいたのは、震災後の、同僚の女性との会話の中だったのではないでしょうか。

ノルマのために家族の分も契約をさせたり、追加で30万借金したり…
そういう卑怯な手を、日浅は今野にはしていなかった。

気づいたときには、もう彼は「生きている証」も「死んでいる証」もない状態でした。透明な存在、といえばいいのでしょうか。
今野は宙ぶらりんのまま、彷徨うことしかできずにいました。

今野が気持ちにケリをつけられたのは、契約プランについての書類に書かれた、日浅のサインを見たとき。「生きていたという証」との対峙により、生きているか死んでいるかはわからないものの、もう会えないだろうという気持ちの整理をつけられたのだと思います。

最後にあの魚(名前なんだっけ…)との再会を果たした際、当時、日浅が発した言葉を、今野が発することで、日浅の魂をとりこんだというか、同化したというか、そんな印象を受けました。

会えないかもしれないけど、共に生きていく、というような想いを。

そして、あのときは逃してしまったけれど、今回は意思を持って放流する。というところにも、現れているように思います。

日浅と縁を切ったと言いながら、家には写真があり、「生きていると確信してる」という信頼

裏切られたことを本当に憎んでいるなら、子供の頃の写真だろうと捨ててるはずなんです。
でも捨ててない。
捜索願いは出さない。生きてるはずだから、犯罪者として記事が出るはずだ。

そこに、やっぱり、家族の繋がりを感じます。

言葉の裏、「影裏」ですね。
あいつは裏切った、という言葉の裏。

今野がそこに気付くのは、兄からザクロの木の話を聞いた時なのかなと思いました。

日浅にとって津波は、母の死と同じ

津波が来たときの、日浅の表情が印象的でした。

松田龍平さんは、表情が豊かな人ではないのに、すごく表情が豊かなんですよね。何を言ってるんだと思われそうですが（笑）
たぶん人の無意識の部分に語りかける表現を使ってるような気がしています。だから、言葉では表現できないのですが、明らかにここは怒ってるとか、ショックを受けてるとかが、観てる側に伝わってくる。
そこが魅力的なのかなと思うし、私はそこに惹かれてるのかもしれません。

日浅は母親が亡くなったとき、泣いたりせず、不思議そうに周りを見ていたと兄が語っています。

そのときの表情は、津波がきたときの彼の表情と同じだったのだろうと思います。

まだうまく整理できてませんが、あの顔を思い出すたびに、胸が苦しくなります。

今野の心理描写はとても女性的

寝ている間に巻きついていた蛇を、日浅が取り除くシーン。からのキス。

見る人によっては唐突に思うのかもしれませんが、あそこで日浅への恋愛感情が沸点をこえる気持ちは、とてもよくわかります。

毒なし蛇とはいえ、命の危機を救ってくれたナイトだから。

それ以外にも、中村さんとのエレベーターのシーンでの無言の感じも、このまま部屋に行くのかいかないのかとドキドキしましたが、ここも女性らしい心理描写だなと感じました。

日浅の言動に傷つくときも、わかるわ…って思いながら観てました。

2人の演技は静と動

綾野剛くんが静で、松田龍平さんは動の演技だったと思います。

綾野くんは役の人物になりきることに全神経を尖らせている、その緊張感、緊迫感があって、息を飲んで見てしまうというか、神聖なもの、みたいな演技。

対して松田龍平さんは、どこまでも自然体。だけど、それが演技であることも伝わってくる、すごく高度な演技。

BGMを極限まで無くした、静かな映画だったからこそ、2人の演技は光ったし、相性の良さを感じました。また別の作品でもこの2人で観たいです。

※かなり荒削りな文章なので、後日整理して書き直すかもしれません