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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#57

12 神の行く末(4)

 木戸が切り出したところで、皆で席を立って、動いた。聞多は大隈と並んで歩いた。
「くま、どうじゃ。うまくやれそうか」
「木戸さんとおぬしとのやり取りいつもああか」
「そうじゃ、堅苦しいのなしじゃ言うとったじゃろ。でも、結構気難しいぞ」
「おぬしには言われとうなかだろ」
「そうかの」
聞多がケラケラ笑いだしていた。
 そうこうしている間に行在所についた。門から入ると「聞多」と木戸が聞多に声をかけた。
「三条公にご挨拶申し上げてくる」
聞多は一人三条実美との対面のため離れていった。木戸と俊輔、大隈は控えの間に行った。
「大隈さんとは始めましてではないですね」
俊輔が大隈に話しかけた。
「一度か二度長崎で一緒に騒いだことがあるはずばい」
「それは井上くんも一緒だったのですか」
木戸も話に乗ってきた。
「薩摩の誰だったか、誘われてだったと」
俊輔が答えた。
「なかなかん遊びっぷりに面白か人やと感心したです」
大隈のこれに二人は、苦笑いしかできなかった。
笑い声がする中、戸がおもむろにひらかれた。
「すまん、待たせたかの」
聞多が入ってきた。
「随分楽しそうじゃの。わしがおらんほうが盛り上がるんか」
「井上、そうじゃなか。おぬしの話で盛り上がった」
「はぁ、わしはつなぎか」
「それも悪くないな」
大隈の顔を見てむっとしてみせる聞多を横目に、俊輔はふっと窓の外を見た。きれいに整えられた松は風すら形にしていなかった。
 また戸が開かれて、官員が声をかけてきた。
「皆様お揃いでございます。会議室へお越しください」
「僕たちは先に行きます」
 俊輔が木戸に声をかけて、それを合図に聞多も大隈と席を立って会議室へと向かった。
 聞多たちが会議室の席につくと、伊達公と後藤象二郎と由利公正、木戸たちが入ってきた。会議が始まり、聞多はキリシタンの処分に関して、状況の説明を求められた。改宗について話をしたが改善しなかったことと、長崎府庁でまとめられた意見を合わせて話した。つまりは禁教のお触書により、代表者や長のようなものについては死罪にするべきということだった。
 しかし、この問題に関してはキリスト教国である、欧米各国から非難を受けることが明白であり、政府として一致した意見を持つべきであり、しっかりとした議論をお願いしたいと付け加えた。大隈も俊輔もそれぞれ意見を述べた。
 そのうえで禁教を犯すことと死罪が、本当に相当なのかという意見が改めて出され、厳罰を持って望むと緩めた形で結論がつけられた。具体的な処分は京での太政官での会議で決することになった。そして京には大隈が派遣されることになった。
 会議が終わり、聞多と大隈が宿舎に帰ろうとすると、俊輔が聞多に声をかけた。
「聞多、君の宿舎に行ってもいいか、明日のことをもう少し打ち合わせしたいんだ」
「明日のことなら、くま、おぬしも一緒にどうじゃ。部屋でなくうまいものでも食いにいかんか」
「いや、吾輩は同輩に会いに行く約束があるけんこれで」
それを聞いて俊輔はホッとした顔をした。
「聞多、僕にうまいものごちそうしてくれるんじゃな」
「おお、おごってやる。なにがいいかの」
「あ、くま、またあとで」
 大隈は木戸に言われた「あの二人は特別で」という言葉を思い返していた。

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