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【小説】奔波の先に ~聞多と俊輔~#66

14 脱隊騒動(1)

 聞多が大村益次郎の策を受けて、杉と山田顕義とやってきた山口での兵制改革だった。5000人を超える奇兵隊と諸隊を解隊して、朝廷のため中央に送る部隊を2000人選抜することが、まずやるべきことであった。その選抜の過程で、不満を持った兵たちが山口の本隊を抜けて、三田尻に集まり2000人にもなった。その兵たちが宮市に進み、常備軍と対峙する事態になっていた。藩庁は説得に努めていたが、兵は応じることはなく緊張状態が続いていた。しかも、農作物の不作も重なり、農民一揆も起きていた。藩庁としては農民一揆と連携されることを恐れていた。そのような中、木戸や聞多たちが三田尻に到着したのだった。
 山口に行った木戸や品川からの連絡を待つ間、明治三年を迎えた。下関で過ごしていた聞多は熱を出していて、思うように動けない状態になっていた。木戸からの文を受け取り、除隊して対峙していた兵の鎮圧に関して、策を返事として送っていた。干城隊を動かして、鎮圧をするべきではないかと、考えていた。しかし、木戸は当初平穏に、事を収めることを考えていた。聞多はこの木戸の案に従うことにした。
 杉が聞多を訪ねて、意見交換をしていた。
「聞多、萩の常備軍を動かすのではなかったのか」
「木戸さんから山口での調整を待つべきと意見が届いておるんじゃ」
「わしからも、意見を具申する。早いうちに対応したほうがいいと思う」
「杉の意見だから、木戸さんにぶつけたらええと思う」
 聞多は山口の近くの吉富簡一の家に拠点を置き、除隊兵たちの情報を集めていた。
 そこに山口から出てきた木戸も合流して、最終的な対策を決定した。深刻化する情報を得ていた東京の広沢たちも、木戸に連絡をつけていた。一揆と除隊兵たちが結ぶようなことが全国に広がれば、政府の根幹を揺るがしかねない。
「木戸さん、こうなったら徹底的に鎮圧するしかない。もっとも、脱隊兵たちは大した組織を作ってはおらん。首領的な部分を打てれば後は烏合の衆じゃ。やるなら早いほうがええ」
「聞多の言いたいことはわかる。しかし、こちらで勝手に兵を動かしては私戦ともなりかねん」
「東京からの指示を受けるべきじゃということかの」
「そうだ」
「広沢さんたちからも、兵を動かすことは可能と連絡を受けておるんじゃないのかの」
「そこまでは言ってきておらん。長州からの御親兵の派遣を見送るということまでだ」
「東京に人をやり、状態の説明と支援を仰ぐ必要があるということでええかの」
「そうだ。聞多にやって欲しい」
「わかった。兵部省から兵を出してもらおう。大阪に兵学寮があって、ちょうど長州の兵がおったはずじゃ。それを派遣してもらうことに」
「よろしく頼む」
「それでは、わしはこれから出発して、明日にでも下関から東京に行くことにする」
聞多は続けていった。
「木戸さんこそ、御身気をつけて」
聞多は木戸達と別れて、三浦梧楼と身の回りのものだけ持ち下関に向かった。

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