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#152 パリで永遠の愛を誓わなくても、公衆トイレでの惨事で夫婦の絆を実感したよ


パリに行ってきた。

誕生日も迎えて、またひとつ還暦に近づいた。

パリでは、トイレを見つけるのに苦労する場面が多かった。例えば公園にひとつある公衆トイレの行列はやたら長かった。
トイレを使いたいがためにカフェでコーヒーを飲むというのも本末転倒な話であり‥‥
よく私をトイレに行かせてくれるために、カフェでクロワッサンやカンノーロを一個 (だけ。それでも高いわ) 買った娘と、歩きながら食べた。


ポケットから出てきたパリのメトロのチケット

パリでは在住5年の娘が、外出の度に「はい、これ」と行き先に応じたチケット(回数券) を渡してくれた。添乗員さながらの世話の焼きようだ。なんだかものすごく受け身で過ごせてしまった。

せっかくのパリだからと一晩だけ娘の住むフラットを離れて、夫と前泊したホテルからモンマルトルへ向かって歩く。
娘と待ち合わせのランチの時間まで二人だけだ‥‥
夫のスパルタ感にちょっと押されていた。

トイレトイレと言っていた私のために、通りでようやく見つけた公衆トイレボックス。ちょうど中から誰かが出てきたところであった。
瞬間、過去二十数年のフランスの公衆トイレでのトンデモ体験達が頭をよぎり足がすくむ‥‥
フランスのトイレは色んな意味で、スクワットの筋力が試されるものが多い。トイレは『座る (体重を預けてホッとできる) 場所』にはなりにくいのだ。
なぜならトイレの便座部分がないものも多く、どんなにペーパーで拭いてからでも、冷たいむきだしの縁に触れる勇気は私にはないから。
それに少し前には和式トイレそっくりの、完全にしゃがむトイレもあったのだ。水を流す時にそれまで立っていたところから離れないと、膝丈くらいまでびしょ濡れになってしまうことも過去に体で学んでいる。

なんだか嫌な予感がして躊躇していたら、私が『背に腹は代えられない』状態なことを知っている夫が、一緒に入ってやるからと中へ誘導されてしまった。(中は無駄に広々としている)
そんなの普通ではありえない話なのに‥‥それでもやっぱり『そのほうが安心だ』となる夫婦って不思議すぎる。


トイレの中で夫と私は何をシェアしたのか‥‥


尿意が最高潮だったはずの私がスクワット状態でリリースしているその時だ。
定位置にあったはずの便器が、突然「ウイーン」という音とともに巻き込まれて収納され始めたではないか!
めちゃめちゃ最中だというのに‥‥

「ぎゃ~~~~~」大声で叫ぶ私。
慌てふためいてボタンを押す夫。

その「ウィーン」の動作は「たいがいにせえや」と私がブチギレたいほど、スローモーションだった。

ゆっくりと90度角度を変えて壁に収納されていく。そして押したボタンに反応して再度ゆっくりと降りてくる便器。
定位置に来た途端、また帰って行っちゃうトイレ。(そして繰り返し‥‥)

なんなんこれっ!!!


便器が戻ってきてくれるまでどういう恰好で尿意を止めて待てと‥‥

中年女が踏ん張りながら「げ~~~」とか「ぐゎ~~~」とか叫ぶ、それはそれは悲しいほどに滑稽な出来事。
"What does it say in French!?"  (フランス語でなんて書いてあるの?)
"WHY DOESN'T IT STTTTAAAAYY!?"  (なんでそこに留まってくれないのぉぉぉぉぉ?)
大混乱。大汗。心で大号泣‥‥
(子供3人産んだ、歳の近い方わかってくれますよね)
『火事場の馬鹿力』は本当に出るものだと知った。

また、『百年の恋も冷める』という諺がこれほどハマるシチュエーションも私は他に知らない。

しかも次の人が外から「ドンドンドン」ってドアを叩いてる~。
「こ、こんな時に急かすんかい」

そしてこれにはオチまであったのだ。
そのドアを叩いた男性はトイレ修理屋だったという。
そのトイレは間違いなくまちがいだったのだー!
だれか‥‥
入る前に止めてほしかったああ。

その時思ったんです私。
あびかさん、あなたのことを‥‥

イギリス在住(たった今は日本にいらっしゃるとのこと)、noteの人気者、糸田あびかさんがこの場を体験されたら、この痛ましい出来事をどのくらい面白おかしく書いてくれただろうか、と。
これでもかこれでもかと便器が出たり入ったりした回数だけ、読む人を爆笑の渦に巻き込んでくれたはず。寄せては返す波のように‥‥
でも私には力及ばず(チーン)

せめてこの話はあびか風に腹を抱えるほど笑って昇華させたかったぁあああ(涙)


夫は一言「ちゃんと目を逸らしていたからね」と言った。
ありがとう。でもそんな言葉、焼け石に水でしかない‥‥


できれば誰にも知られたくなかったこんなことを書いてまで、私が言おうとしていることがある。
それは『誰かと人生をともにすることの凄み』というよりほかない。

パリはやっぱりお洒落で、うっとりするほど素敵で‥‥若かろうが歳をとっていようがカップルで過ごすのに特別な場所だと思った。

でも大事なのはそんなことじゃなかった。

私に今回のパリの旅行がくれたものは、この夫といる安心感と長い月日を一緒にやってこれたという充足感だった。

冒頭のサムネイルはモンマルトルのサクレ・クール寺院前で撮ったものである。ヨーロッパの観光地ではよく目にする、愛の南京錠なのだが、由来は以下である。

パリのポンデザール(芸術橋)は、恋人がお互いの名前を書いた南京錠を橋の欄干に取り付けて、セーヌ川へ鍵を投げ捨てることで永遠の愛が手に入れられると言われています。

https://gigazine.net/news/20140803-pont-des-arts/

フェンスにびっしり取り付けられた南京錠を見ながら、永遠の愛なんて『誓うもの』ではないと、なんだかわかちゃったのだ。
長く続く愛は、とにかくいいことばかりじゃないし、ロマンチックでもないってこと。愚かでカッコ悪いことも辛いことも一緒に経験する道のり、ふたりが作っていく歴史でしかないんだと。

私にとって、モンマルトルのトイレでの惨事を、まるで何もなかったかのようにいてくれる夫という存在は尊い。
どんなに頭を搾ってみても、この世であれを共有しても許される相手というのは、夫以外なら私を生んでくれた母くらいのものだろうか‥‥
(子どもだって完全に引くだろう‥‥)

モンマルトルにたくさん見られるこんな階段。どんどん先を行く夫


自分の夫に対して「もう夫婦の愛より人間愛だ」と言った人が居る。
うちの母だ。

うちの両親は見本にしたい夫婦ではなかったけれど、まあ別れもせずに淡々と一緒に居てくれている。そして今年60年というダイヤモンド婚を迎えた。
凄いことだなあ、と感謝しかない。(この語彙力のなさよ)

実は今月、夫と私も結婚30年の真珠婚を迎える。
(自分で言うが)愛らしかったジューンブライドから、30年。(きみまろ調)
これが感謝でなくてなんだろう‥‥

パリに行ってとんでもない経験したら「なんだか一皮むけちゃったかしら」なんて感じだ。

『旅の恥はかき捨て』というが、
あの恥に一緒につき合った相手がいて、これからも珍道中が続いていくのだと思う。
次は日本。

Japan, here we come!




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