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元祖 巴の龍#42

芹乃は粛清に来てから市場で野菜売りの手伝いをしていたが、丈之介が鍔を作っていることもあって、鍛冶屋町に用事を頼まれることがあった。

鍛冶屋町は独特の匂いがあった。刀鍛冶の源じいの孫である芹乃は、若くして亡くなった父も刀鍛冶で、生まれた時からこの懐かしい匂いの中で育ったのだ。

何度か鍛冶屋町に足を運ぶうちに、芹乃は自分で打ってみたい、と思うようになった。そして、ある日ついに刀鍛冶の弟子入りをしたいと申し出た。

もちろん、誰も相手をしなかった。女に刀鍛冶が勤まるとは思わなかったからだ。
それでも芹乃はあきらめなかった。雨の日も風の日も嵐の日でさえ、鍛冶屋町に通い続けた。

ある雨の日、濡れたまま立っている芹乃に、ひとりの親方が声をかけた。中に入れ、体を乾かしてやると、芹乃にどうして刀鍛冶になりたいか、聞くのだった。

「やりたい、と思ったのは私です。でも、そう思わせてくれたのは、死んだ祖父や父だと思います
親方は少し興味を持った。その芹乃の祖父や父について聞いてきた。

祖父は源じいと呼ばれていて、腕の良い刀鍛冶でした。死んだ父も刀鍛冶だったと聞いております」
親方は源じいと聞いて、思い当たるものがあった。

源じいというのは、伝説の名工・源佐(げんざ)ではあるまいな。親父さんの名は?」
「源じいとしか呼んだことがないので・・・。父は、確か源一郎と

「間違いない。あんた、源佐の孫なのか。先のいくさで源一郎とその嫁が亡くなって、孫を連れてどこかにいなくなってしまった。
その孫があんたなのか」

親方は源じいが粛清で鍛冶屋を営んでいたこと。息子の源一郎も筋の良い刀鍛冶であったこと、いくさの後消息がわからなくなったことなど話してくれた。

「では、この粛清が私の生まれ故郷なのですね。私は、この鍛冶屋町で生まれたのですね。どおりで懐かしい匂いがした」
芹乃が目を潤ませた。

親方はしばらく考えていたが、芹乃を見据えて聞いた。
「あんた、本気で刀鍛冶になりたいか

「はい。初めは懐かしいだけでしたが、何度も来ているうちに、ここが私の場所だと、求めていたものだと思いました。どうか弟子にしてください」
男の世界だ。女だからと言って、容赦しない

芹乃は深々と頭を下げた。
「覚悟しております。よろしくお願いいたします」
よし、今日から弟子入りを許そう

******
「というわけで、それから通ってきているのさ。もう半年になるかねぇ。
まぁ、源佐といえばわしらにとっても、神様みたいな人だったからな。
その孫ともなれば、女とはいえ親方も育ててみたくなったわけだ」

続く
ありがとうございましたm(__)m


「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ


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