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元祖 巴の龍(ともえのりゅう)#56

洸綱は鍛冶屋町で、自分の太刀に付いていた新しい鍔について調べていた。
その鍔には見覚えがあった。
かつて、妹・桔梗の夫である草彅丈之介が作ったものとよく似ていたのだ。

先のいくさの時、桔梗が嬉しそうに見せてくれた丈之介の鍔
今はその鍔の付いていた太刀の柄を、桔梗の形見として兵衛が持っている

今の洸綱の持つ太刀の鍔は、まるきり同じではないが、洸綱の記憶の丈之介の鍔に違いなかった。
洸綱は鍛冶屋町で、鍔を作った職人の家を聞き出し、その家に向かっていた。


兵衛は鍛冶屋町にやって来た。いったいこの前来たのはいつだっただろう。芹乃は待っていてくれるだろうか。突然来なくなって、怒っているだろうか。

兵衛が鍛冶屋町についた頃、ちょうど洸綱が鍛冶屋町を出た時だった。
兵衛は芹乃が仕事が終わるまで待っている時間がなかった。
芹乃の顔が見たい。ただそれだけで、芹乃の工場へ入って行った。

芹乃!
芹乃の働く姿を認めた時、兵衛は思わず声をかけた。芹乃は懐かしい声で振り返った。
兵衛様

もう何日会ってなかっただろう。芹乃の目に涙がにじんだ
親方が寄ってきて、芹乃に何か言った。芹乃は何度か頷くと、持ち場を離れて兵衛の傍にやってきた。
親方がいっときだけ休みをくれるって

親方は、兵衛が来なくなってからの芹乃を痛々しく思っていた
何事もないように振る舞い、男並みの仕事を驚くほど正確にこなす芹乃。
しかし、半年目に一度休みを取ったきり、親方がいくら勧めても休もうとしなかった。

それが毎日来ていた兵衛が来なくなったからだと、周りの誰もが気づいていた。
そのことを誰にも口にせず、ただひたすら仕事に打ち込む芹乃を、皆が痛々しく感じていたのだ。

「行こう」
兵衛は芹乃の手をひいて、鍛冶屋町から少し離れた野原に行った。
息を切らせて野原に着くと、兵衛は芹乃を抱きしめた

「もう会えないと思うていた。あの時、私は兵衛様の申し出を断った。
いっしょに逃げようと言ってくれたのに。行けないと言った。

あれから、あれから兵衛様は来なくなってしまったのでしょう。
私が断ったから‥‥‥」
兵衛は首を振った。

続く
ありがとうございましたm(__)m

「駒草ーコマクサー」
弟が最後に見たかもしれない光景を見たいんですよ

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