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元祖 巴の龍#5

「きゃっ!」
すると小さな悲鳴を上げて菊葉が目を開けた。
丈之介は優しい目を向けて、菊葉に語りかけた。

「心配することはない。岸涯小僧はもう追っては来ない。
この大悟があなたを助けて、ここへ連れてきたのだ。
ここは見ての通りみすぼらしい山小屋だが、わたしと大悟の二人だけだ。
安心して養生するが良い」
菊葉は丈之介の温かさにふれて、母に対するよな情が流れ込むのを感じた。

「ありがとうございます」
自然に言葉がついて出た。
「私は芹乃。大悟の姉みたいな者だ」
「いつから姉になったのだ。歳は同じ十五ではないか。
俺は大悟。こんなところだが、いつまでもいてくれてもかまわないぞ」

「男ばかりの所帯ではいろいろ不都合だろう。
すぐ近くに私の住まいがある。そこへ来たらどうだろう」
 芹乃に言われて丈之介もはたと膝を叩いた。
「そうだな。芹乃、そうしてくれると助かるが」
「では早速、源じいに言って」
芹乃が言いかけると、菊葉は慌てて首を振った。

「あ・・あの、ここへ置いてはくれませぬか」
 丈之介たちは顔を見合わせた。
「わたしは菊葉と申します。故あって追われております。
ご迷惑でなければ、いま少し、こちらにお世話になりたいのですが」
丈之介も大悟もいぶかりながら、しかし承知するのだった。

「ところで、その・・・はどうなったのでしょうか」
気持ちが落ち着いてきて、菊葉はにわかに楓のことが気にかかった。
「岸涯小僧に最初に襲われた者だな。あの近くに葬ってやった。
これはその者が持っていた太刀だ。受け取るがよい」
 大悟は静かに太刀を渡した。菊葉は太刀を両手で握り、硬く抱きしめた。

「そうですか。やはり、死んだのですね。・・・ありがとうございました」
菊葉は大悟に向かって手をついた。大悟は嘘をついていた。
ほんとうは、楓は肉片すら残らないほどに岸涯小僧に食いちぎられていたのだ。
残っていたのはこの太刀のみ。しかし、菊葉に真実を告げるのはあまりに忍びなかった。

続く
ありがとうございましたm(__)m

元祖 巴の龍#5

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そして、またどこかの時代で


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