〈タイチロウモリナガ〉のわかりにくいお菓子を語る
タイチロウモリナガは、ご存知、森永製菓がつくったコンセプトショップです。
森永製菓のハイラインと考えてもらって構いません。たぶん。
そんなタイチロウモリナガの代表商品は「ハイクラウン」。
これは、1964年に発売した同名のチョコレートを復刻&リニューアル(ハイクラウンには多数フレーバーがあり、一部のレシピは当時のままらしい)したものです。細長い白箱に箔押しのハイクラウン、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
ハイクラウンという、有名な旧商品の復刻から始まったタイチロウモリナガですが、現在、そのスタートとは真逆ともいえるものづくりをしています。
2017年に入ってからのタイチロウモリナガの商品を、どれか一つでも食べたことがある方はわかってくださるかもしれませんが、発表される商品のどれもが「わかりにくい」のです。
いうなれば「前衛的」。ゆえに、わかりにくい。
そんな商品をタイチロウモリナガはつくっています。
森永製菓の通常商品がユニクロやZARAといった大衆にあいされるファストファッションなら、今年に入ってからのタイチロウモリナガはパリコレのランウェイを歩いていそうです。そんなお菓子。
たとえば。
2017年のサロンデュショコラ東京でも販売された「ABURI(アブリ)」というチョコレートを例にあげましょう。
これは、森永独自の”炙る”という技術を使って開発されたチョコレートです。
ABURIを購入した方は少ないでしょうが、みなさん、コンビニで「焼きチョコBAKE (ベイク)」を見たことはありませんか?あれと同じ製法です。”炙る”というのは、通常、焼けないもの(チョコレート)を焼く技術のことを言っています。
焼きチョコBAKEは、わかりやすい商品です。
まず「焼きチョコ」という名前が、わかりやすい。パッケージには「パリッとショコラ」「ふわっととろける」の二つのセンテンス。一見相反するかのように思えるこれらの食感が、ひとつのお菓子に同居していることを、わかりやすく示しています。
しかし、それに比べて「ABURI(アブリ)」はわかりにくい商品でした。
パッケージはシンプルで、タイチロウモリナガのロゴのみ。箱の中の商品説明も「炙って引き出す香りとうまみ。」の一文だけ(あとは、それぞれの味の説明)でした。ABURIの製法については、後ほど調べてわかったことです。購入した当時は、今と同じようには理解していませんでした。
「わかりにくい」は、商品にとって致命的なことです。どの分野でも、意味や価値の理解されない商品は、売れません。
わたしはABURIを理解できないまま、食べ終えてしまいました。
周囲のチョコレートマニアたちは賞賛していたように憶えていますが、正直に言います、ほんとうによくわかりませんでした。後になって「どうしてわからなかったのか」がわかりました。わたしはABURIをボンボンショコラだとおもって食べました。それがいけなかったのです。
最近、初めてタイチロウモリナガの商品を純粋に楽しんで味わうことができました。
「極み焼きフィナンシェ」という商品です。
また、その前には「グレースショコラ」という商品も食べていました。これがまた、わかりにくかった。アイスクリームなのですが、脂肪分が非常に高く、テリーヌかチョコペーストのような濃厚さで、ねっとりとした口当たり。アイスクリームには思えないアイスクリーム、それが「グレースショコラ」でした。
「ABURI」と「グレースショコラ」を食べて学習したわたしは「極み焼きフィナンシェ」を食べるとき、最初から目の前のそれを「フィナンシェ」だとは思わないことにしました。すると驚くほどに、味や食感が頭のなかに入ってきた。これ、すごく美味しい。素直にそう感じることができました。
人間が〈なにか〉を理解するには、言語が必要です。
言語を扱うということは、「それ」と「それ以外」を区別することに他なりません。
猫は猫です。犬でも人間でも草でも木でも、海でも空気でもありません。猫、なのです。しかし、猫、は本来ひとまとめにできるものではありません。いろんな種類の猫がいます。でも、ひとくくりにする(=カテゴライズ)のです。
だって、そうしなければ、わたしたち人間は猫を語ることができないから。
チョコレートも同じです。いろんな味のチョコレートがあります。ブランドもたくさんあります。でも、ぜんぶ、チョコレートなんです。
小学生のときだったでしょうか。
テレビで、パリコレのランウェイをはじめて見たときのわたしの感想が
「よくわからない」
でした。「いや、それ、本当に洋服と呼べるものなの?」って。
「ABURI」や「グレースショコラ」を食べたときも、同じような感覚でした。
これ、ほんとうにチョコレートなの?
これ、ほんとうにアイスクリームって呼べるものなの?
タイチロウモリナガのお菓子がわかりにくいのは、それが「今までどこにもなかったもの」だからです。どこにもカテゴライズできない商品を、いま、タイチロウモリナガは作っています。
タイチロウモリナガのブランドコンセプトは
「お菓子をこえる、「をかし」な体験を。」
チョコレートやアイスクリームといった名詞にカテゴライズされない、新しい食べもの。常識を覆す”おかし”なお菓子。
大衆(消費者)に寄り添ってきた森永製菓とはまた異なる、大衆を引っ張っていく前衛的なもの——新しい時代を拓くお菓子——をつくっていくのがタイチロウモリナガではないか。そう思っています。
※PRとかではありません。
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