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てぃくる 305 もう一つの満開

 満開の桜並木の下。
 ひらひら舞い散る薄紅色の花弁の、その下で。
 わたしたちも満開になっている。

 うっとりと桜を見上げ、見回す大勢の人の足元で。
 わたしたちも満開になっている。

 そんなわたしたちに目を向けてくれる人は、誰もいない。
 いや、見てくれないのはいいの。
 わたしたちは小さいから、それは仕方ない。

 わたしたちは満開になっているのに、その花は踏みしだかれる。
 無情に、無造作にぎしぎしと踏みしだかれる。

 もしわたしたちがそれに抗議したら。
 あなたたちはきっと言い放つだろう。
 だって、おまえらは雑草じゃないか、と。

 わたしたちは、抗議したりはしない。
 ただ咲くのみ。

 隙間をどこもかしこも埋め尽くす。
 わたしたちの春を満開の花で埋め尽くす。

 そして、延々と繰り返す。
 あなたたちが、満開を過ぎ越したことを嘆きながら衰微し。
 わたしたちの足元で果てたあとも、延々と。


 ミチタネツケバナの白い花。
 ヨーロッパ原産の外来植物ですが、本家タネツケバナよりもずっと身近に見られます。
 早春の瞳オオイヌノフグリや、春の松明ホトケノザなどに比べてあまりに地味な白い小花ですが、たくさんのタネを残さなければならない一年草の彼らにとって、花の艶やかさを競う意味はあまりないのでしょう。

 桜並木の下で満開になっているミチタネツケバナを見回し、ふと思います。もし自分が一年草だったら、どう生きるだろうかと。群れて満開になる彼らと同じになれるだろうかと。

(2017-04-22)

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