見出し画像

てぃくる 647 蓑

 雨降りの時 着る蓑を
 晴れていても 着ているんだ

 雨でも晴れでも いつでも
 世間の風が 冷たいからだ

 蓑さえきっちり 着ていれば
 中身が俺だと わからない

 ああ そこにはただの
 傷んだ蓑が あるだけさ

 傷んでいるのは 蓑じゃない
 本当は 中身の俺なんだ

 でも傷んだ俺が 見えていると
 無闇に励まされて 辛いんだ

 ただの蓑は 何も言われない
 だから俺は ただの蓑でいい


 クマシデの果穂。
 果苞の根元に種子があり、本来は軸から外れてばらばらに飛び出すはずなんですが、種子が熟さなかったのかもしれません。

 世の中には、生物、非生物を問わず、形を失って初めて機能するものがいろいろあります。第三者はばらばらに壊れた様を見て無残だと嘆くんですが……。実体を手放して初めて得られるものもあるんですよ。
 たとえば。リンゴは、食べられることによって種子を散布します。食べられて形を失うことは、彼らが命を繋いでいく上で必須なんです。一方でガラスで作られたリンゴには、リンゴとしての意味がありません。それが変わらずに美しい姿を保ち続けても、です。

 散ることのできなかった蓑を見上げながら、そんなことをつらつら考えています。
 わたしはまだ身体を失ってはいませんが、失って機能するのか機能しなくなるのか、ちっともわかりません。


悲喜の色 日付を越せず失せにけり

(2020-02-25)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?