そう言えば。
　最近は横顔しか見ていないなと、ふと思った。

◇　◇　◇

　人の顔を真正面からまじまじと見るもんじゃないと、親や友人から度々諌められてきたものの。大方の人は真正面を向いて話す。その視線をきちんと受け止めて応対するのは当たり前だろう。そっぽを向いたままの方が、よほど相手に不快感を与える。

　俺の流儀が常識から外れているならともかく。ほとんどの人がそうしているのに、俺だけがそっぽを向くわけにはいかない。意地になっているわけではなく、世間一般の道理に従っていると考えて流儀を貫いてきた。

　だが、最近どうもおかしいんだよ。これまできちんと俺の方を向いてくれた人たちが、揃って横を向くんだ。それも、俺を嫌がって顔を背けているという様子ではない。ごく自然に、でも顔だけは横を向ける。まるで、エジプトの壁画を見ているような気分になる。

　こいつはどんな顔をしていたっけ。
　横顔ばかり見るようになった俺は、相手の顔がよくわからなくなっていた。

　どうしてこんなことになったんだろう。

「あんたがでかいスタンドライトに転生したからだよ。真正面にあったんじゃ、眩しくてしょうがない」

◇　◇　◇

　おちゃらけましたが、オチはいろいろ作れます。
　みなさんオリジナルの理由を考えてみてください。

　旅立つ決意を固めていたんだろう
　　彼女は横顔しか見せてくれなくなった

（2022-06-23）