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『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は今年一番音がいい作品かもしれない

「音」が良い作品はどうしても好きになってしまう。
劇伴でも劇中歌でも効果音でもいい。とにかく「ここで『この音』があること」にこだわりを強く感じるような、あるいは天才的なセンスを感じるような作品のことはやっぱり大好きだ。
特に「必要なもの以外は入らない」アニメ作品だと音から得られる情報量が段違いなので、音への強いこだわりやセンス・オブ・ワンダーが感じられると楽しくなってしまう。全体的な評価は一瞬忘れてしまうほど、音は最高だ。
なぜこの話をしたかと言うと『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を見たからだ。
『スパイダーマン:スパイダーバース』の続編にして、二部作の前編となるこの作品は開始から音へのこだわりが凄かった。何せ鬱憤を叩きつけるかのようなドラムの音に音ハメした映像を重ねることで、音の厚みを底上げした体験を開始直後からかましてくるのだから。
音に映像の動きを合わせる『音ハメ』は、乱暴な言い方をすれば「視覚化された音」だが、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』はドラムを叩くグウェンの感情を音と映像の二重奏で見せてくるので、開幕から心を掴まれてしまった。
またキャラクターごとに「イメージソング」ならぬ「イメージジャンル」が設定されているらしいのも面白い。
シーンごとの視点となるキャラクターによって音楽のジャンルが違うので、異なる世界の住人である事を音楽面でも楽しめる。前作でもそうだったかどうかはうろ覚えだが、今作はそこに「スパイダーパンク」と言うパンクロッカーのスパイダーマンが存在するのがまたカッコいい。
「俺の音楽ジャンルは俺が定義する!」とでも言わんばかりの存在であるスパイダーパンクは、本作の音楽面の「挑戦」とも言える存在。それがバシッとハマっているので文句の付け所がない。吹替で鑑賞したが、木村昴の好演もあって、本作の「好きになってしまう」の筆頭だろう。イカしてる。
声優の演技で言えば、本作は悠木碧の演技を語らないわけにはいくまい。
悠木碧は「自分の武器を極めた」というよりは「多くの武器を使える」というマルチプレイヤータイプの役者だが、『アクロス・ザ・スパイダーバース』におけるグウェンは感情の揺れ動き具合、考え方の変化の一つ一つが繊細なので、それを様々なスキルを駆使して演じきっているのだから賞賛するしかなかった。ありがとう悠木碧。そして宮野真守も小野賢章もよかった。
ただ唯一残念なのが日本語版ではLiSAの「REALiZE」の歌詞が作品と合っていないということだ。メロディは間違いなく本作でもハマっているのだが、歌詞だけはどうにも芯がズレている。
ただ「前作の楽曲と思えば合っている」と思うので、これは「本作を見ず、前作だけで作らざるを得なかった」とった感じだろう。つまりは「LiSA」というより「楽曲制作に入る前に、LiSAに脚本等に触れる機会を作らなかった」と言う発注側の問題だろう。そういうところだぞソニー。
来年公開予定の『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』では作品に合った楽曲になるよう、『ビヨンド・ザ・スパイダーバース』の資料をしっかり添付して発注していただきたい。
ともあれ、素晴らしい作品だった。
音響設備のしっかりした映画館でもう一回ぐらい確認したいので頑張っていきたい。

プリズムの煌めきを広めるためによろしくお願いします。