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天使でデート

急に思い立って。

《水宮的映画名ゼリフ集》

「あなたは将来何になりたいの?」「僕?僕は僕になるよ?」
「大金持ちになったので僕は無料(ただ)で毎日大好きな芝刈りをして」(『フォレスト・ガンプ』)


「今のは当てこすりとかイヤミってやつなんだけど、それもきみの国にはないのかい?」「(涙を浮かべて)ないわ」

「お前ガキみたいに浮かれてたじゃないか!いいか?(愛する人に巡り会えるということが)誰にでもそんな機会があると思ってるのか!?」
(『スプラッシュ』)


「お前。生きていたかったんだろう?」(『蟲師』)


「可愛いアメリや。お前のハートはガラスじゃない。行って彼を捕まえるんだ」(『アメリ』)



あとは思いつかなかった。毎日一本観てた時期もあるけど。


/昨夜は珍しく、T兄と夫婦水入らずのデートをした。彼から連絡があって、今日は現場が早く終わるから昼飲みでもしませんかと。
私はもちろん、喜んで!といそいそお風呂に入ってお洒落をした。
と言っても、昔彼にプレゼントされたワインレッドのぴったりしたワンピースをかぶり、いつもの1分メイクを少々長くしてファウンデーションをのせたくらい。


待ち合わせの場所に彼は、清らかな枯葉いろの作業着のまま立っていた。思えばはじめてのデートもそんな感じだった。私たちはどこが変わったろう?
外見はあまり差がない。でも著しい違いは天が知っている。


冷たい雨の中を歩き回って店を探すのを避け、安い焼肉チェーンにおさまった。嬉しくてたまらなくて、顔に出ちゃう。かけつけ一杯ずつの生ビール美味しくて顔に出ちゃう。お肉美味しくて声が出ちゃう。



一人だった頃、焼肉に関しては自分なりの作法を持っていた。孤独のグルメ的な。
初めて彼と焼肉に行った時、長らく人と焼肉になんて行っていなかった私は彼にキレられた。焼いた肉を自分のぶん、として普通に食べたら、そうじゃないだろ!と。
仲間や友達を大切にし、かつて愛しい家族を持っていた彼にとってそれは「無い」行為だったのだ。今よりもっと自己中心的だった私。今より他者の気持ちを想像したり許容をするには自身が苦しすぎた彼。


服役を経て彼は、女性がうっとりするようなジェントルさを身につけた。ま、元々モテてたからね。
私もまた、そうした男性に恥ずかしくないような思いやりを磨いた。
彼は焼いたお肉を私の皿へ何度も載せては
「食べな」。
私も同じに。
「これ焼けてるわ。美味しそう。食べて」
天国では長い箸でお互いに食べさせ合い誰もが満腹するという。地獄では同じ長い箸で我さきに自分だけが食べようとし、長くて食べられず結局全員が飢えるという。


私はすぐ満腹した。
「もう食べないのか?」
「T兄、歳を取るっていいね。美味しくすぐおなかいっぱいになれるもん。そのおかげでもう太れないし!」
「このサワー美味いな」
「え?どれどれ?私も頼んでみていい?」


若い店員さんの少々の至らなさに対しても、かつての彼ならすぐ怒ってた筈。でもとても優しくしてる。見てて嬉しい。
彼も私のすることに目を走らせてるのが分かった。バッシング(皿やグラスを下げること)しやすいよう空のものを端にまとめて自分たちは食事しやすくしておく。テーブルの汚れはある程度ナフキンで拭いておく。ナフキンやビニール袋はまとめておく。必ずありがとうといただきますとご馳走様でしたを言う。彼も自然に笑って同じにしてる。店員さんも優しく笑って対応してくれる。
高校の頃ウエイトレスを長くしていた。自分たちだけいい思いしてご無体をして「でも金は払うんだから」というお客さんたちをスタッフはみんな嫌っていたから、自分がよそでサービスを受ける時は店の人々とも一緒にいい気分になりたいと思い、そうしている。他人に強いたことはないけれど。


飲みながらたまに彼が昔の私の欠点をチクリと言ってもごめんねと言える。
「お互い様でしょ!あなただってひどかったわよ」というような鉛の球を打ち返す必要はない。


望むような優しい行動や言葉を100%叶えてくれたらなんて以前は願ったけれどそれは日々自分自身で叶えてるから満足。そしてあふれて余った愛をあなたにどうぞ、ってやつ。私だって、あなたの夢見るような女になれてるわけじゃないでしょ?


今生の別れはやっぱり、お互いきっとつらい。それはもう知ってるから。ただ生きていてくれさえすれば。もう一度呼びかけてくれれば。もう一度目を開けてくれさえすればもう何もいらない、と願うあの瞬間。
なら、今あなたを愛してるのをそのまま言って行うだけ。
在ってくれて、逢ってくれて、ありかとう。色々、沢山ありがとう。愛してる。



/今朝起きてロプノール湖のことをまた考えた。今は潜んでいるらしいあの幻の湖。

あの湖は、何か必要な時に現れるのかもしれない。何かの生物だか植物を救うためか。
あるいは滅ぼすためか。
水はその両方が可能。
正当な愛や魂や生命を賦活し生かしてくれると同時に、不要なまがいものの愛や感情を綺麗に流し去ることも出来る。
残るのは静かな、水面だけ。

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