読書メモ1:新章 神様のカルテ

1 はじめに
 早速紹介する1冊目は,夏川草介先生の「新章 神様のカルテ」。神様のカルテシリーズは映画化もした有名作なので,ご存知の方も多いとは思います。本作はこの最新作で,大学病院編です。
 非常に心に響く名作だと思うので,紹介させていただきます。

2 ざっくりとしたご紹介
 本作は,大きく5つの話に別れており,各話ごとに起きる物語と,全体を通じて進行する1つの物語が同時に進んでいきます。
 主人公である内科医,栗原一止が大学病院に大学院生として入り,そこで患者さんと向き合いながら,様々なトラブルに向き合っていきます。
 メインストーリーは膵癌の29歳の患者さんのお話。夫と7歳になる子供がおり,とても聡明な女性として描かれています。
 本作は,特に大学病院の「医局」という一種の権力機構の特殊性から,単純に患者を助ければよい,というだけではなく,その組織のルールにも従わなければならない,というジレンマも描いており,この点が物語にしなやかな深みを与えてくれているように思います。
 各キャラクターがそれぞれに個性的ですが,それぞれの考え方を持ち,あえて言えば「この人が敵で,この人が味方」とはっきりさせることができるものではない,というところも魅力的です。そういった描写が,とてもファンタスティックなキャラクター達が,あたかも本当に存在している人なのではないかと思わせてくれます。

3 感想
 上にも書いた通り,本作のメインストーリーは膵癌の29歳の患者さんのお話です。
 彼女が膵癌に罹患していることを知り,それでも冷静に受け止めながら治療を続けた姿,冷静にふるまいつつも,なぜ自分がこんな理不尽な目にあわなければならないのかと吐露する姿,一止に「生きることは権利ではない。義務です。」と怒鳴られて,つらい状況の中でもその義務を果たそうとする姿,どれをとっても心が揺さぶられ,目頭が熱くなります。
 そして,そんな彼女のために大学病院という組織のルールをすっとばして奔走する一止の姿も,不器用ながらも本当に格好の良い生き様であると感じさせてくれます。
 2人とも,患者と医者として,立場は違いますが,人間として尊敬できる生き様を見せてくれており,そこが本作の一番の魅力であるように思います。
 また,小説として,読み物としての面白さという魅力にとどまらず,これを自分であればどうだろうと考えてみると,また見えてくるものがあるように思いました。特に,一止と大学病院の関係は,より一般化して,個人と組織の関係として見ることができます。「組織の論理」として,時に切り捨てられる弱者がいるときに,それが「個人」の正義に反する場合,我々はどのように動くべきなのか。答えがでる問題ではありませんが,我々が常日頃,心の中で疑問に思い続けている問題の一端を,一止が明快かつ声高に批判してくれるシーンは,ああ,自分もこういう人間でありたいな,と思わせてくれます。

4 最後に
 現代医療の問題を描きつつも,とても心温まる感動のお話です。
 興味の湧いた方はぜひお手に取って読んでみてください。

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