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写真の力と世界のリアル 報道写真展2018

滑り込みセーフ!で8月5日までの世界報道写真展2018に行ってきた。

大阪に異動になってからは毎年見られていて(地方勤務の時はなかなか見に行けなかった…やっぱり都会は展覧会が充実していて本当にうらやましい)、最初の頃は「おぉ…こんな瞬間を切り取っていて…写真の力ってすごい…!」とただただ思っていたんだけど、

なんだか今年は例年にもまして、苦しい写真がより苦しく感じてしまった。

大賞は、ロナルド・シュミットさんの写真。ベネズエラで、ニコラス・マドゥロ大統領への抗議デモ中、機動隊との激しい衝突で火だるまになった男性を切り取っている。

展示はそのあと、ロヒンギャ難民のボートが転覆して遺体が並ぶ岸辺、EUに入るバルカンルートの取り締まりが強化され、ベオグラードで行き場を失った難民がホームレス状態で過ごす様子……と続く。

そんな症状があるとは知らずに驚いたのが、スウェーデンにわたった難民の子が陥るとされる「レジグネーション(生存放棄)症候群」。
原因は分からないけれど、写真に写るジェネタは2年半、イバデタは半年、何の反応も示さず寝たきりなのだそうだ。トラウマやストレスが関係しているのでは、とも。どんな心の傷を負ったのか。まだまだ「少女」と見える女の子の姿に、胸が詰まる。

女性への差別にも多くのカメラが向けられていると感じた。
タンザニアのザンジバル諸島で、つつましい水着が手に入らないからと、女性に水泳を習わせない風習。ナイジェリアのボコ・ハラムに誘拐され、身繕いをされ自爆テロを命じられた少女たちの肖像写真。カメルーンで、レイプや性的な接触が避けられるとの思いから、少女の胸の膨らみを押さえるために圧迫をおこなう「ブレスト・アイロニング」。
とくにこのブレスト・アイロニングのことは寡聞にして知らず…。胸にアイロンという名前が、もう……。すりこぎや石を使うこともあるそうで、思わず口を手でおさえた。

また暗い気持ちになったのが、ロシアのセックスワーカーの写真。自分と同い年の女性の、後ろ姿が目に焼き付いた。
サンクトペテルブルグのNGOはロシアには300万人のセックスワーカーがいると推定している。経済の衰退で、失業した女性がセックスワーカーになるケースが多いそうだ。

ラスベガスの銃乱射事件、イギリスのウェストミンスター橋のテロ、極右集会、警察官に射殺された黒人の追悼集会……。

後半は、なんだかもう脳がパンク状態に。ただただ無力感に襲われる。

ひとつだけ、「世界はやっぱり広いな。ほっとするな」と思ったのが、中国のリ・ファイフェンさんの作品。中国中部の黄土高原で伝統的な洞窟の住居「ヤオトン」に住む兄弟の写真だった。
二人は小さなポータブルテレビをつけて朗らかに過ごしている。窓から日の光が差し込み、テーブルの下でワンコがのびをする。もしかしたら色々な問題もあるのかもしれないけど、二人の過ごしてきたゆるやかな日々が伝わってくるようで、まるで絵画みたいだな、と感じた。

いつも月並みな言葉しか思い浮かばない世界報道写真展。でも考え続けないといけないんだと思う。そして、わたしもできるだけ「その場」を見たいし、「どうにかしたい」という問題には寄り添っていたいとも思う。

大阪では8月7日から。東京より会場が広いのでゆったり見られると思う。大阪駅からのアクセスも抜群だし。ぜひ行ってみてほしいな。

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