見出し画像

アバズレと毛布

「songwriter」の7曲目に収録。もろに加地等さんの「君のスパゲッティー」リスペクトインスパイアです。
アバズレと毛布を皮切りにこういう世界観の歌をたくさんつくりました。
モデルの女の子は昔付き合っていた美大生の女の子。ヤリマン、アバズレとよばれるような女の子で、心が不安定だった。


----------
アバズレと毛布

ドアを開けると芸術の匂いがした 半ばやけっぱちに散らかった部屋
やけっぱちになった君に招かれた 僕の顔は期待で汚れていたかもしれない

身の上話をしている君の笑顔は天才子役の笑顔と似ていた
愛のないセックスの話が次々とびだす冬の寒い夜

君の描いた油絵はきれい 芸術なんてよく知らないけど
君の刃物ででこぼこの手首もそれはそれで芸術的だと思った


気持ちよければそれでいいのよ なんてやけにアバズレぶった君だけど
小さな肩に手を触れた時 そっと筋肉が強張るのを感じた

うらぶれた君を見て 守ってあげたいなんて思ってしまったけど
お風呂でちんこをきれいに洗ってきた僕がとても恥ずかしくて僕もうらぶれた

寒さを口実に二人くるまった毛布は唯一君を守ってきた男
断りきれない女心 やさしすぎる君の弱いとこ


寒さを口実に二人向き合った毛布は唯一君を守ってきた男
押し切れないよこんな心
それはそれで君と話ができた
それはそれで君と話ができた
二人やさしい毛布につつまれながら
----------

”ドアを開けると芸術の匂いがした 半ばやけっぱちに散らかった部屋
やけっぱちになった君に招かれた 僕の顔は期待で汚れていたかもしれない”



織田作之助の言いつけを守り一行目はちょっと突飛なフレーズから。芸術の匂いというのは初めて彼女の家のドアを開けた時、部屋に充満していた絵の具の匂い、ゴミの匂い、女の子の匂い、生活の匂い。本当に汚い部屋だった。

僕は性欲で人に接する男が本当に嫌いで、僕も男なのでまた然り。
"僕の顔は期待で〜"はそういう自己嫌悪やアンチテーゼをこめたフレーズ。、


”身の上話をしている君の笑顔は天才子役の笑顔と似ていた
愛のないセックスの話が次々とびだす冬の寒い夜”



天才子役がどんなつもりで笑っているのか知らねえけど、”君”に笑顔が張り付いていることを描写しました。笑顔のが楽なこともたくさんある。モデルの彼女が昔「芦田愛菜ちゃんに似てるよね!」と言われたことがあるらしく、そこからの着想。全然似てなかったので、そう指摘した奴はなかなか鋭いなあと思った。一応”冬の寒い夜”は状況の説明と聞きたくない話を聞かされる心の寒さもちょっと入っています。



”君の描いた油絵はきれい 芸術なんてよく知らないけど
君の刃物ででこぼこの手首のほうがよっぽど芸術的だと思った”



ここは最初

”君の描いた油絵はきれい とってもきれいな色彩だけど
君の刃物ででこぼこの手首もそれそれで芸術的だと思った”

でした。時期によってフレーズが混ざったり。
今は
"君の描いた〜"は前述
"君の刃物で〜"は後述
を取って歌っています。よっぽど〜は冷たすぎるかなあと。

心の中にあるものを絵に書いたり歌にしたりすることが芸術だとすれば、心が溢れてカミソリをたてた手首の傷も芸術的だよなとはずっと思っている。過剰な感受性とか、たくさん考えた末の傷はちっとも傷じゃない。



”気持ちよければそれでいいのよ なんてやけにアバズレぶった君だけど
小さな肩に手を触れた時 そっと筋肉が強張るのを感じた”



アバズレと毛布は”気持ちよければそれでいいのよ”が最初に出来たフレーズです。モデルの子とは別の子だけど当時付き合っていた女の子が僕の友人と浮気みたいなことになり、その時やぶれかぶれに口ずさんだフレーズが「気持ちよければそれでいいんだろ」だった。それをこの一行に改変して、アバズレという言葉から物語を広げていきました。

アバズレをヤリマンにしても意味は同じなのですが、苦手な言葉なので使いませんでした。強すぎる言葉は扱いが難しくて、まだ実力が追いついてない気がする。加地等はこういう言葉をすごく上手に使うんだよ!

小説みたいに細かい描写がしたくて、筋肉の描写は織田作之助を意識。



”うらぶれた君を見て 守ってあげたいなんて思ってしまったけど
お風呂でちんこをきれいに洗ってきた僕がとても恥ずかしくて僕もうらぶれた”



うらぶれたという言葉も織田作之助から。

ちんこのフレーズは"君と一つになることを期待している僕が恥ずかしくて〜"的なことを書いてもいいのですが、そこを取り繕うのは嘘になる気がしたし、それをどう描写するのかが作家性だと思うのでストレートにちんこと書きました。

よく思う性への嫌悪感みたいなものをお風呂とちんこで。僕ら男は女の子と会う前にちんこを綺麗に洗うんだけど、本当に浅ましい。ある意味紳士だけどな!


”寒さを口実に二人くるまった毛布は唯一君を守ってきた男
断りきれない女心 やさしすぎる君の弱いとこ”



寂しさにつけ込んで、いろんな男に簡単に手を出されて、悩んで、泣いて、だけどこの毛布だけは彼女が一人ぼっちの夜に黙って彼女をつつんであげていたんだよなあ、かっこいいぜ、という当時の想いから。

実際は付き合ってない女の子の家に招かれて毛布にくるまった経験はなくて、モデルにした女の子と付き合う前、僕の家に来た彼女と毛布にくるまって何もせず、夜通し話をした経験を歌に落とし込みました。


世の中の男はアバズレがみんな性に積極的だと思っていて、受動的なアバズレがいることを知らない。断りきれなかったり関係が切れることが怖かったり単純にめんどくさかったり、そういう子はたいていとびっきり優しい。男はそれを知れ、とはよく思う。


”寒さを口実に二人向き合った毛布は唯一君を守ってきた男
押し切れないよこんな心
それはそれで君と話ができた
それはそれで君と話ができた
二人やさしい毛布につつまれながら”



結局手を出さずにこの歌は終わる。手を出さなくて本当によかった。
それはそれで君と話ができたって本当に素晴らしいオチだぜ。
よくセックスは一番のコミュニケーションとか思ってるやついるけど、一番は話をするってことだからな!!話なんだよ!!対話!!セックスしたことでお互い気を許して深い対話、みたいなことはあるんだろうけどそれはセックスがすごいんじゃなくて対話がすごいんだよ!!
セックスがテーマの一つの歌ではあるけど、話ができたに着地するのは本当によかったな。二人はこれからどうなるんだろう。
毛布、かっこいいね。



タイトルは全て書き上げた後につけました。アバズレという言葉が強いみたいでよくつっこまれますが、そういう意識は全然なかった。

アバズレというテーマだけだと広すぎるのだけど、そこに毛布というアイテムを使うことでギュッと歌が凝縮されるので、何か特定のアイテムを使うのはおすすめです。歌の中でアイテム出しておいてオチでまたそのアイテムを持ってくる、みたいな。よくやる。



僕の思ういい歌詞の条件がわかりやすいこと、物語性があること、リスナーに提示できる価値観があること、主にこの3つなのですが、アバズレと毛布は全部できたなあと思う。

こうやって別々で経験したことを創作も交えて一つにまとめてることはよくあって、大事なことは事実でも創作でもなくて何を表現したいかだよ。書いてる途中で伝えたいことが湧いてくることもあるし、まずは鼻唄を口ずさもう!!ペンを取ろう!!メモアプリを開こう!!いえい!!


水野ねじ/アバズレと毛布

Apple Music
https://music.apple.com/jp/album/%E3%82%A2%E3%83%90%E3%82%BA%E3%83%AC%E3%81%A8%E6%AF%9B%E5%B8%83/1438509301?i=1438509311

Spotify
https://open.spotify.com/track/5KE735tLZfJSTBnkJKUqjo?si=uzxOD3moQaC6ou5wyuwXHQ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?