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ハスキー・ミルキー・ジャンキー

 本気で驚くと口を開けても言葉が出てこないと知ったのは、時計の針が午前2時を回った頃だった。喉が渇く。たしかに酔っていたはずなのに瞬時に醒めた。私は何を言ったんだろう? アイロン台の前で座りっぱなしの脚はとっくに痺れていたし、腕は鉛みたいで、何時間も受話器を押し当てたままの耳たぶも痛かった。

 ハスキーなのにミルキー。怜さんの声は低くて不思議な音色だった。こんな声を持つ人、私は他に知らない。怜さんが流れ込んでくる瞬間、耳奥の毛の一本一本に触れて、ざらりとした猫の舌に脳の内側を舐められたような感覚になる。別に甘い言葉なんかないのに電話越しの怜さんを一言一句聴き漏らしたくなくて、気付くといつも受話器を握りしめていた。

 電話がスマホになって、離れた住まいがひとつになって、その声で「ちょっとうんこしてくる」なんて言うようになっても、たまに怜さんは私の脳の内側を舐め回す。

「あの夜くれた言葉、覚えてる? 私、自分がその前に何を言ったか覚えてなくて」
「んー、どうだっけ。でも、自分の言った言葉は覚えてるよ。“試しに付き合ってみる?”・・・だよね」

 その言葉だけ囁くなんて、ねぇ、ずるい。

 



(500字)


 

 板野かもさん主催 第1回 #匿名超掌編コンテスト の参加作品です。

 先月、Twitter上で行われたこのコンテスト、書くのはもちろんですが、読むのが本当に楽しかった! ある日突然、メンションの通知が届いたんですよね。涼雨零音さんから。

 読んでみると、匿名コンテストのご案内。500字という超掌編。ふだん4000-5000字くらいが書きやすいわたしにとって、超掌編って超難関!
でも、待てよ? 500字って、旅する日本語よりも100字も多い。ぎゅぎゅっと絞れば書けるかもしれない。

 それに何より、匿名コンテストって楽しいじゃない? 誰が書いたのかわからない状態で作品の世界だけを楽しめる、贅沢なお祭り。
 以前も坂るいすさんの匿名コンテスト 仮面おゆうぎ会に参加して、とても楽しかったので、今回も迷わず参加表明しました。何のアイデアもないまんま。

 条件として「試」の一文字を入れなければならなかったから、どういう「試」を使おうか考えます。そのうちに思い出したんです。かつて片思いしていた相手に「試しに付き合ってみる?」と言われたことを。だから、そのセリフを経糸たていとに、ASMRを緯糸よこいとにして書き始めたら、あっという間に書けました。

ASMR(英: autonomous sensory meridian response)は、人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よい、脳がゾワゾワするといった反応・感覚。

Wikipedia

 心がけたのは、作品から性別を消すこと。主人公も主人公が心奪われた相手も、男性でも女性でも、そのどちらでもない性でもイメージできそうな表現にしてあります。読み手のあなたの心地いいように思い描いていただけたら、うれしいです。

 書けたら、あとは字数調整です。500字ジャストに仕上げたかったので、細かい調整をしてから応募しました。投稿されたツイートを見ると485字となっていたので、カクヨム基準だともしかしたら字下げ分や改行がカウントされないのかな? ひらきたいところを漢字にしたり、読点をつけたり取ったり、涙ぐましく調整したからちょっぴり残念!笑

 

 このコンテストは基本ひとり1作品までだけれど、拡散して誰かが自分経由で参加すると、参加権利が増える仕組みになっていて、最終的には120名、178作品が集まったのだそう。読み手は、各作品に対して、スキ・リツイート・リプライの最大3票を投じることができます。
 わたし自身、自分の作品以外の177作品を2周読んで投票しました。

 結果は48位と、面白い作品がゴロゴロしているなかで予想以上の大健闘。頂いたコメントや引用RTがうれしくてうれしくて。

 運営の板野かもさんは、痒いところに手の届くナビゲートで、コンテスト中、寝る暇はあったのだろうか?というくらい、きめ細やかな心配りでした。楽しませてくださって、ありがとうございました!

 結果発表と同時に各作品の作者を知ることができたのですが、匿名状態で選んでいたわたしのBEST3の作者が、すべてよく知ってる方々で驚き(いえ、嘘です。1作品だけは発表を見なくても作者を判ってました笑)!
 最後に、大好きだった3作品をご紹介しますね。いずれも、わたしが3票を投じた作品です。コメントはリプライに入れたし、野暮になるからここでは何も書きません。もしよかったら、じっくり楽しんでくださいね。だって、長くても500字だから。

 あ、そうそう! 匿名コンテストだったので、作者を隠しておきました。気になる方は、タイトルのリンクをクリック!

 あぁ、楽しかった!



私はだあれ

 

僕らの存在意義


交差する朝


ここまで読んでくれたんですね! ありがとう!